第8話 奪われた平穏(その2)
静かな活気を取り戻していたアルザード城に、突如として不吉な金属音が響き渡った。
一千もの完全武装した兵らを率い、第6軍団長バルトスがアルザード城の城門を強行突破して雪崩れ込んできたのだ。
「全軍、突入せよ! 反逆の疑いがある領主およびその関係者を一網打尽にするのだ!」
整然と街の広場を占拠する王国軍の威圧的な佇まいに、住民たちは恐怖に怯え、息をひそめた。
「な、なんだ急に……っ!?」
異変を察知して駆けつけた領主は、武装した兵らに取り囲まれ、目を見開いた。その前に、馬に乗ったバルトスが蔑むような笑みを浮かべて見下ろす。
「アルザード城領主! 貴様には魔物と内通し、国家を欺いた『叛逆罪』の容疑がかかっている! 即刻身柄を拘束する!」
「何をバカな……! 私たちは城の防衛と住民の安全のために共存協定を――っ!」
「黙れ売国奴が! 処刑台の上で弁明を聞いてやるわ!」
バルトスの一声で、兵たちが一斉に襲いかかり、領主は威圧的に組み伏せられ、重い手枷を嵌められた。
さらにバルトスの横暴はそれだけに留まらなかった。
「おい、魔獣への『餌やり』とやらに加担していた家長の者どもを全員引きずり出せ! 罪人どもと同罪だ!」
「や、やめてくれ! 家族には手を出すな!」
「あなた! あなたっー!!」
悲鳴と怒号が街中に響き渡る。魔獣との交わりのために食材を調達し、給仕を手伝っていた町の主だった家長たちが次々と身ぐるみ剥がされ、罪人として縄で縛り上げられていった。
「連行するだって!? 本国に連れて行かれたら、形ばかりの裁判ですぐに殺されるに決まってる!!」
「お願い、連れて行かないで! あの人を殺さないでぇぇぇっ!!」
本国へ送られれば二度と生きて帰れないという事実を悟り、泣き叫ぶ奥さんたちが兵の足元へすがりつく。
すると、バルトスは馬からゆっくりと降り立つと、涙と泥で顔を汚して必死に命乞いをする一人の奥さんの元へ歩み寄った。
そして、革手袋で彼女のあごを強引にグイと持ち上げ、醜い笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「ふむ……まあ、本国へ連行された後の処分などどうとでもなる。俺の一存で、処刑を回避してやれんこともないのだぞ……? 旦那の命が惜しければ、それ相応の『誠意』を見せることだな……クハハハ!」
「っ……!!」
あまりにゲスく卑劣な要求に、奥さんは絶望と屈辱で全身を震わせ、言葉を失った。
怯える住民たちを前に、バルトスは再び馬上に跨がると、高らかに通達を叫んだ。
「これより本城は我が第6軍団が接収し、軍政下に置く! 反逆者に協力した罪として、残った住民にはこれまでの倍の『重課税』を課す! 拒否する者は即刻反逆者とみなし処刑すると思え!」
絶望が街全体を支配する。
かつてロッシュがもたらした穏やかな平和は、王国軍の理不尽な武力と欲望によって踏みにじられ、実質的にアルザード城は王国軍に占拠されてしまった。
そんな惨状を、街の片隅の陰から涙を流しながら見つめる一人の少年の姿があった。
かつて森で連れ去られ、レガリアと出会い、ロッシュによって救われたあの男の子だった。
(……このままじゃ、領主様もお父さんたちもみんな殺されちゃう……! レガリアお姉ちゃん……っ!)
少年はぎゅっと拳を握りしめると、兵たちの目を盗んで路地裏へと滑り込み、城壁の小さな隠し穴を通って一直線に森へと駆け出していった――。




