第6話 魔翔王と勇者(その3)
それからどのくらいの時間が経っただろうか。
木々の隙間から覗く空はすっかり闇に包まれ、夜の帳が辺りを完全に支配していた。
「……ん……?」
重い瞼をゆっくりと持ち上げると、テンペスタは視界の端に信じられない光景をとらえた。
そこには、己の魔力を文字通り一滴残らず使い果たし、力なくうなだれたまま、座り込んだ体勢で気絶しているロッシュの姿があった。
「ロッちゃん……!? ……ロッちゃん!!」
慌てて起き上がろうとするが、まだ体には呪いの痛みが微かに残っている。だが、それ以上に彼女の心を撃ったのは、自分のためにここまで無茶をして倒れ込んでいる青年の姿だった。
「誰か! 誰かいないの……っ!!」
パニックに陥りながらも、テンペスタは必死に叫んだ。
かつてロッシュが教えてくれた言葉、そして自分たちを繋ぐ唯一の繋がりを頼りに、夢中で名前を叫ぶ。
「誰でもいいから……! ネクちゃんでもいいから……っ!!」
その必死の叫びが夜の森にこだました直後――空間がぐにゃりと歪み、闇夜よりも漆黒のゲートがぽっかりと口を開いた。
そこからスッと現れたのは、見慣れた骸骨の仮面を被った死神だった。
「……なにか御用でしょうか、ロッシュさ……え?」
「ネクちゃん!!」
「……って、なんでテンペスタがここに? それに、ロッシュ様は……」
ネクロアが異変に気づいて視線の先にとらえた瞬間、その仮面の奥で絶句した。
「……っ!!」
「……これは酷い……魔力の底の底まで完全に使い果たして……もう死にかけていますよ」
「ロッちゃんはね……アタシのために、自分の魔力を全部使って呪いを消そうとしてくれたの……! お願い、なんとかしてネクちゃん!!」
テンペスタの必死な懇願に、ネクロアは表情を険しくさせた。自分の手に負える領域を超えていると直感した彼女は、迷うことなく決断する。
「……魔王様をお呼びするしかない。待っててください」
ネクロアが再び漆黒のゲートに飛び込み――それから、わずか1分も経たないうちに、彼女は誰かの手を強く引っ張るようにして戻ってきた。
「いたたた! ちょっと、引っ張らないでよネクロア!」
引きずり出されるように現れたのは、他ならぬ魔王アストラゼノスだった。だが、彼女が目の前の光景をとらえた瞬間、その表情から余裕が完全に消え去った。
「…………っ!!!!」
「ロッシュ!!」
「ごめんなさい魔王様、アタシが……」
「話は後!!」
アストラゼノスの美しい瞳が不気味な緑色へと光り輝き、ロッシュの体内に残された微かな生命反応と魔力の枯渇状態を瞬時に分析する。
「待っててロッシュ……今、私の魔力を分けてあげるからっ!」
彼女は座り込んで気絶しているロッシュの体にすがりつくように強く抱きしめた。
次の瞬間、辺りを圧倒的な紫のオーラが激しく包み込み、底知れない魔王の魔力が優しくロッシュの身体へと注ぎ込まれていく。
「……頑張ってください、ロッシュ様」
ネクロアは静かに目を閉じ、祈るように呟いた。
「……私に、あなたの魂を狩らせないで……」




