第5話 遠方派遣と最悪のエンカウント(その3)
――バキィッ!!
ロッシュが必死に構えていた太い枝が、魔獣の強靭な顎に耐えかねて真っ二つに粉砕された。鋭い牙が喉元へ迫った――まさにその瞬間。
「でやああぁぁぁッ!!」
横合いから飛び込んできた男戦士が、渾身の力で大剣を振り抜いた。鈍い重低音が響き、ロッシュの上に馬乗りになっていた魔獣はたまらず後方へと吹き飛ばされる。
「ふぅ……! 固ってぇ~! なんだこの皮膚、刃が通りづらいぞ!」
「はぁ、はぁ、もう最悪! 走らされて汗かいちゃったじゃない!」
遅れて追いついてきた女魔法使いが、文句を言いながらも素早く杖を構えた。息を整えながら呪文を詠唱し、魔獣に向けて杖の先を突き出す。
「この毛玉野郎! 『ファイアボール』っ!!」
放たれたのは、先ほどまで苦戦していた魔獣を一撃で丸焦げにするほどの巨大な火球。直線状の樹木を巻き込みながら、爆炎の塊が魔獣へ迫る。
(勝った……!)
ロッシュも男戦士も、その威力を確信した。
――ガキィィィィンッッ!!!
しかし次の瞬間、耳をつんざくような金属音が森に轟いた。
暗がりから突如として振るわれた『一枚の巨大な鉄斧』。その圧倒的な一撃によって、女魔法使いの火球はあっけなく野球のボールのように斜め上方へ弾き返されたのだ。空高く打ち上がった火球は、そのまま上空でむなしく爆散し、夜空を赤く染めた。
「……なっ!?」
静まり返る森の中。
弾き返した衝撃で巻き上がった煙の奥から、ゆったりとした足取りで“それ”が姿を現した。
下半身は筋骨質で巨大なライオン。尻尾は意思を持つように威嚇の鎌首を立てる黒い蛇。
そして上半身は――十代半ばの華奢な人間の少女の姿だった。
ボサボサとしたオレンジ色の髪をなびかせ、小柄で小ぶりな胸には野性味あふれるトラ柄の胸当て(紐のないブラのようなもの)を一枚巻きつけているだけ。そんな可憐で華奢な体に不釣り合いなほど巨大な無骨な斧を、彼女は片手で軽々と担ぎ、肩に預けていた。
底知れぬ圧倒的なプレッシャーが、森の空気を冷たく凍りつかせる。
「あ……あれは……っ!?」
男戦士の顔から一気に血の気が引いていく。ガタガタと膝を震わせる女魔法使いは、見開いた目で目の前の化け物を指差した。
「ほ、ほ、ほ、ほ、ほん、本で……見た……ッ!!」
「「魔獣王―――!!」」
二人の悲鳴のような叫びが、無情にも森の中に響き渡った。




