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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第9章

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第13章 第2話:ユニバーサル・キャンパスの内側


あらすじ:十二月の中旬。本多先生が大学の情報システム担当と交渉を進める中、マーカスのチームがデモ版の詳細解析を続ける。そして、長谷川詩織が、ユニバーサル・キャンパスを実際に使っている友人から、思わぬ証言を得てくる。「なんとなくそう思った」という感覚が、個別の学生の体験として、より鮮明に描かれていく。同時に、村上准教授が、ユニバーサル・キャンパスの運営会社の資本関係を調べていくと、ドイツの研究者が追っていた「別の設計者」との繋がりを示す、かすかな糸が浮かび上がってくる。第十三章の問いが、少しずつ輪郭を持ち始める。


---


十二月の第二週。


冬至まで、あと十日ほどだった。


日が短く、午後四時を過ぎると、キャンパスの空が急速に暗くなった。


智也は、その短い昼の時間を、図書館と研究室の往復に使っていた。


期末レポートの提出期限が、来週に迫っていた。


しかし、今年は、第一章や第二章の頃と違い、期末の忙しさの中でも、調査の糸を手放す気にはなれなかった。


それは、焦りからではなかった。


問いが、確かにそこにあると感じているからだった。


本多先生からは、その週の火曜日に、短いメッセージが届いた。


「大学の情報システム担当に、私の懸念を話しました。担当者は、慎重な反応でした。外部の研究者がシステムにアクセスすることへの懸念と、大学として公式に問題を認めることへの懸念が、両方あるようです。もう少し、時間がかかりそうです」


「ありがとうございます。急かすことはしません。先生が動きやすい形で進めてください」


「一つだけ、教えてください。このことを、大学に公式に伝える前に、私が独自にできることは、ありますか」


智也は、その問いを受けて、少し考えた。


「あります。学生へのインタビューです。ユニバーサル・キャンパスを使っている学生に、自分の考えに至った道筋を説明してもらう、という形で。それは、授業の一環として、先生の裁量でできることだと思います。そのデータが、問題の実態を示す証拠の一つになりえます」


「それなら、来週の最後の授業でできます。学期末ですが、良い締めくくりになるかもしれない。やってみます」


---


マーカスからの報告は、水曜日の夜に届いた。


ビデオ通話で、長谷川と田島も同席していた。


「デモ版の詳細解析を続けました。一つ、気になる点を見つけました」


マーカスは、画面共有を始めた。


ユニバーサル・キャンパスのデモ版の画面が映っていた。


「このシステムには、コンテンツの閲覧後に、短いアンケートが自動的に表示される機能があります。『この記事を読んで、どう思いましたか』という形の質問です。三択や四択で、感想を選ぶだけの、簡単なものです」


「それは、一般的なフィードバック機能のようにも見えますね」


「そう見えます。しかし、そのアンケートの選択肢の設計に、特徴があります」


マーカスは、画面を切り替えた。


「たとえば、ある教育政策に関する記事の後、こういう選択肢が現れます。『①この政策は現場の声を反映していると思う』『②この政策の意図は理解できる』『③この政策については判断が難しい』『④この政策には問題があると思う』」


「これは、普通の選択肢に見えます」


「そうです。ただし、注目してほしいのは、選択肢の順序と言葉の強さのバランスです。①と②は、政策への親和的な立場を、穏やかな言葉で表現しています。③は、中立的に見えますが、『判断が難しい』という言葉は、批判を保留させる効果を持つ可能性があります。④は、批判的な立場ですが、他の選択肢に比べて、やや断定的な言い方になっています」


「つまり、批判的な選択肢だけが、強い言葉で書かれている」


「そうです。人間は、強い言葉の選択肢を選ぶことに、若干の心理的な抵抗を感じる傾向があります。その効果が、①②③への誘導として機能する可能性があります」


田島由美が、口を開いた。


「シャドウ・ネットワークの時も、似たような仕掛けがありました。投稿の拡散ボタンの横に、反論の選択肢が並んでいたんですが、反論の選択肢の言葉だけ、なぜか強い表現になっていて。それを見ると、反論を選ぶのが、なんか乱暴な感じがして、つい拡散を選んでしまっていた」


「そのパターンと、同じですね」


「選択肢の言葉の強さを操作することで、選択を誘導する。これは、技術的なシグネチャとは別の、設計思想のレベルの問題です」


長谷川が続けた。


「私も、デモ版を触ってみました。アンケートの後に、関連記事が表示されるんですが、その関連記事が、自分がアンケートで選んだ答えと一致する方向の記事ばかりなんです。自分の選択が、次のコンテンツを決める。その循環が、思考の方向性を固定していく」


「フィルターバブルの強化版ですね」


「そうです。ただし、フィルターバブルとの違いは、こちらが意図的に選択したのではなく、アンケートという形で誘導された選択が、バブルの中身を決めているという点です。自分が選んでいるという感覚があるから、気づきにくい」


マーカスが、補足した。


「田島さんの指摘が、非常に重要です。自分が選んでいるという感覚。それが、第二世代のシステムの核心的な設計思想でした。自発的な選択という体験を維持しながら、その選択の方向性を制御する。ユニバーサル・キャンパスが、その設計思想を持っているとすれば、デモ版の段階でも、その痕跡が見える」


「ただし、これはまだ、デモ版の観察に過ぎません。実際のシステムが同じ仕組みを持っているかどうか、そして、そのアンケートデータがどのように使われているかは、内部を見ないと分かりません」


「本多先生の協力が得られれば、実際のシステムを確認できるかもしれません。それまでは、デモ版の観察を続けてください」


「了解しました」


---


翌日の木曜日、村上准教授から連絡が来た。


「ユニバーサル・キャンパスの運営会社の資本関係を、調べました。一つ、興味深い発見があります」


「何ですか」


「運営会社は、株式会社ユニバーサル・エデュケーションという会社です。設立は二年前。筆頭株主は、国内のベンチャーキャピタルです。ただし、そのベンチャーキャピタルの出資者の中に、一つ、海外の投資ファンドが含まれています」


「どこの国のファンドですか」


「ケイマン諸島に登記された、匿名性の高いファンドです。ファンド名は、プリズム・グロース・ファンドといいます」


「そのファンドは、以前の調査で出てきましたか」


「直接の名前は出てきていません。ただし、ドイツの研究者が追っていた別の設計者の件で、インターポールが調べていたサーバーの管理者が、このファンドと関係する法人を通じて、支払いを受けていたという記録が、インターポールの共有データの中にありました」


「つまり、ドイツの件で追っていた別の設計者と、ユニバーサル・キャンパスが、同じ資金の流れで繋がっている可能性がある」


「そう推測できます。ただし、証拠と呼べる段階ではありません。同じファンドが複数の投資先を持っているというだけで、その投資先同士が協調しているとは限らない」


「でも、調べる価値がある繋がりです」


「そうです。木村刑事に伝えてもらえますか。インターポールの資料と照合してもらえれば、より明確になるかもしれません」


「すぐに伝えます」


---


木村刑事への連絡は、その日の昼に行った。


木村刑事は、ひと通り聞いてから、少し間を置いた。


「プリズム・グロース・ファンド、聞いたことがあります。インターポールが、第九章の頃から断片的に名前が出てきていたファンドです。ただし、具体的な活動との繋がりが、これまでは確認できなかった」


「今回の情報で、繋がりが確認できる可能性がありますか」


「インターポールと共有して、照合します。ただし、年末年始を挟むため、時間がかかるかもしれません」


「分かりました。引き続き、よろしくお願いします」


「一つ、千葉さんに確認したいことがあります」


「何ですか」


「第十三章は、また規模が大きくなりそうですね。ユニバーサル・キャンパスが三十二の大学に導入されていて、プリズム・グロース・ファンドという国際的な資金との繋がりがあるとすれば、これは、エデュポータルの問題と同規模、あるいはそれ以上かもしれない」


「そうかもしれません」


「千葉さんは、どう感じていますか。また大きな問題に向き合うことへの、心構えとでも言うべきものは」


智也は、その問いを、少し考えた。


「正直に言えば、規模の大きさより、問いの本質が気になります。ユニバーサル・キャンパスの問題の核心が、選択肢の設計にあるとすれば、それは技術的な問題というより、教育の倫理の問題です。誰が、何を正しいと決めるか、という問いに戻ってくる。その問いと向き合うことへの準備は、この旅を通じて、少しずつできてきた気がします」


「その落ち着きが、第一章の頃とは違いますね」


「そうかもしれません。第一章の頃は、問題の規模が大きくなるたびに、怖かった。今は、規模よりも、問いの深さの方が、気になります」


「成長しましたね」


「木村さんのおかげでもあります」


「そんなことはありません。あなた自身が、歩いてきた。私はただ、横で見ていただけです」


電話を切った後、智也は、その言葉を、静かに受け取った。


横で見ていた人がいた。


それが、この旅の大きな支えだった。


---


週末の土曜日、長谷川から連絡が来た。


「ユニバーサル・キャンパスを使っている友人から、話を聞きました。思わぬ証言が得られました。今夜、話せますか」


「話せます」


夜の電話で、長谷川は、興奮と困惑が混じったような声で話し始めた。


「友人は、他大学の学生で、今年の春からユニバーサル・キャンパスを使っています。その友人に、『自分の考えに至った道筋を説明してほしい』と聞いてみたんです」


「どんな反応でしたか」


「最初は、普通に答えようとしていました。でも、話しているうちに、少し戸惑った様子になって。そして、こう言ったんです」


長谷川は、少し間を置いた。


「『なんか、自分の考えなのか、どこかで読んだことなのか、分からなくなってきた』って」


「それは、重要な証言ですね」


「そうなんです。しかも、その友人が続けて言ったことが、さらに気になって。『ユニバーサル・キャンパスで関連記事を読んでいると、読んでいる途中から、もう次の結論が見えてくる感じがする。記事を最後まで読まなくても、何が言いたいか、分かる感じ』って」


「読む前から、結論が見える感覚」


「そうです。それって、ちゃんと読んでいるということなのか、それとも、記事の構造が、最初から結論に向かって誘導しているということなのか。友人には、区別がつかないみたいでした」


智也は、その証言を、頭の中で整理した。


「読む前から結論が見える感覚は、二つの原因が考えられます。一つは、その人の知識や理解力が高くて、記事の論理展開を速く読めているという場合。もう一つは、記事の構造が、読者を特定の結論に向けて誘導するように設計されているという場合」


「どちらかは、どうやって区別しますか」


「同じ人に、設計されていない、普通の記事を読んでもらった時と、比較することです。普通の記事でも同じ感覚があれば、その人の読解力が高い。ユニバーサル・キャンパスの記事だけでその感覚があれば、記事の構造の問題かもしれない」


「その比較実験を、してみます」


「その実験の結果も、教えてください」


「分かりました。あと、一つ、気になることがあります」


「何ですか」


「友人が、ユニバーサル・キャンパスを使い始めてから、意見を人に話すのが、前より少し面倒になったと言っていました。『どうせ同じになるから』って」


「どういう意味ですか」


「『話しても、みんな似たような結論になる。だから、議論する意味があんまりない感じがする』って。友人は、そう言っていました」


その一言が、智也の心の中で、大きく響いた。


「議論する意味がない感じがする」


それは、認知操作が最終的に目指している状態の、一つの形かもしれなかった。


思考の均質化が進むと、異なる意見が減る。


異なる意見が減ると、議論の必要性を感じなくなる。


議論の必要性を感じなくなると、対話が減る。


対話が減ると、認知操作への耐性が、さらに低下する。


「その悪循環を、友人は、感じているのかもしれません」


「そう思います。でも、友人自身は、それを問題だとは感じていないようでした。ただ、なんとなくそういう感じ、という話し方をしていました」


「なんとなく」


「そうです。また、その言葉が出てきました」


本多先生が観察した「なんとなく」と、長谷川の友人の「なんとなく」が、重なった。


その「なんとなく」が、この章の核心的なキーワードになるかもしれなかった。


「長谷川さん、その友人への追加のインタビューを、続けてもらえますか。特に、どんな時に『なんとなく』という感覚が起きるかを、丁寧に聞き出してほしい」


「はい。できるだけ丁寧に、聞いてみます」


「ありがとうございます。あなたの観察が、重要な証拠になっています」


「私が役に立てているとしたら、嬉しいです。被害を受けた体験が、少し報われる気がします」


その言葉が、智也の心に、静かに届いた。


被害が、守り手を生む。


その連鎖が、また確認された。


---


翌日の日曜日、智也は一人で、大学の近くを散歩した。


冬の日曜日のキャンパス周辺は、学生の姿が少なく、静かだった。


歩きながら、この二週間で集まった情報を、頭の中で整理した。


ユニバーサル・キャンパスのデモ版で観察された、選択肢の設計。


長谷川の友人の証言。「なんとなくそう思った」「議論する意味がない感じ」「自分の考えかどこかで読んだことか分からなくなってきた」。


本多先生が授業の中で観察した、学生の変化。


村上准教授が確認した、プリズム・グロース・ファンドという資金の繋がり。


これらを並べると、一つの仮説が、より明確な輪郭を持ち始めた。


ユニバーサル・キャンパスは、エデュポータルの後継的な役割を担う可能性がある。


ただし、第一世代や第二世代の技術とは、アプローチが変わっているかもしれない。


エデュポータルは、コンテンツの中にシグネチャを埋め込む方法を使っていた。


しかし、ユニバーサル・キャンパスは、コンテンツそのものよりも、コンテンツを選ぶプロセスと、コンテンツへの反応を収集するプロセスに、設計が込められているように見えた。


「自分が選んでいるという感覚を与えながら、選択の方向を誘導する」


それが、デモ版の観察から浮かんだ仮説だった。


そして、その仮説が正しければ、これまでのシグネチャ検出ツールでは、完全には捉えられない可能性があった。


なぜなら、コンテンツの中ではなく、コンテンツを選ばせるプロセスの中に、問題があるからだ。


「コンテンツを見るのではなく、選択のプロセスを見る必要がある」


智也は、立ち止まって、ノートを取り出した。


冬の外気の中で、ペンを走らせた。


**「第十三章の問いの核心が、見えてきた。ユニバーサル・キャンパスの問題は、コンテンツの中にあるのではなく、コンテンツの選択プロセスの中にある可能性がある。ユーザーが自分で選んでいるという感覚を維持しながら、その選択の方向性を誘導する。その誘導が、積み重なることで、思考の型が均質化していく。」**


**「これは、第二世代のシステムが目指していたものと、方向性は同じだが、実装が異なる。より自然に、より日常的に、より気づきにくい形で、思考に介入している。」**


**「対抗するためには、コンテンツの解析だけでは不十分かもしれない。選択のプロセスそのものを可視化する技術、あるいは、選択のプロセスに対して自覚的になるための教育が必要になる。」**


**「本多先生が学生に試みた『自分の考えに至った道筋を説明してほしい』という問いかけは、その可視化の一つの形だ。道筋を言語化することで、外から誘導されたものと、自分で考えたものを、区別できるようになる可能性がある。」**


書き終えて、ノートを閉じた。


冷たい風が、頬を刺した。


智也は、歩き始めた。


この問いは、年明けも続くだろう。


しかし、冬休みの間に、考えを深めることができる。


急ぐ必要はない。


本多先生の大学側の返答も、年明けになるだろう。


木村刑事のインターポールとの照合も、時間がかかる。


マーカスのチームのデモ版解析も、続いている。


それぞれが、それぞれのペースで動いている。


その間、智也は、問いを深め、準備を整える。


それが、今できる最善だった。


---


十二月の第三週、大学の秋学期が正式に終わった。


最後の授業が終わった後、智也は、図書館の奥の席に、少し長く座った。


この一年間を、静かに振り返った。


三年生の一年が、もうすぐ終わる。


大学に入ってから、三度目の冬だった。


入学当初、智也は、大学で何を学ぶのかを、あまり考えていなかった。


この旅の調査が続く中で、大学での学びをどう位置づけるかは、後から形を持ち始めた。


今は、分かっていた。


授業で学んでいることと、調査で向き合っていることが、同じ問いを、異なる角度から照らしていた。


法哲学が、問いの根拠を与えてくれた。


比較情報法が、国際的な制度の視点を与えてくれた。


教育社会学の知識が、本多先生からの手紙を読む際の基盤になっていた。


大学での学びが、推理を深め、推理が、学びを深めた。


その相互作用が、三年間で積み重なっていた。


来年は、四年生になる。


卒業論文を書かなければならない。


テーマは、まだ決めていなかった。


しかし、今の調査と、今の学びが、何らかの形で交わるテーマになるだろうという予感は、あった。


図書館の閉館アナウンスが、流れた。


智也は、荷物をまとめた。


奥の席を、最後に見た。


「また来年も、ここから始まる」


そう思った。


出口に向かいながら、スマートフォンが振動した。


美優からのメッセージだった。


「今年も、お疲れ様でした。来年も、一緒に歩きましょう」


「こちらこそ、今年もありがとうございました。来年も、よろしくお願いします」


「一つだけ、聞いていいですか」


「何ですか」


「第十三章は、どんな章になりそうですか」


智也は、図書館の外に出た。


冬の夜気が、体を包んだ。


空に、星が出ていた。


少し考えてから、答えた。


「問いを持てる人間が増える、そのプロセスについての章になるかもしれません」


「どういう意味ですか」


「これまでの章は、問題を追い、解決することが中心でした。でも、第十三章の出発点は、本多先生という、問いを持った一人の人間からの手紙でした。あとがきが問いを生み、その問いが次の問いを生んだ。その連鎖が、章全体を動かしている。そのことが、この章の核心的なテーマになるかもしれない」


「問いが増えていく章、ということですか」


「そうです。解決ではなく、問いの広がりが主題になる章。それが、今の第十三章の感触です」


「それは、書くのが楽しくなりそうね」


「そうかもしれません。問いは、解決よりも書くのが難しいですが」


「あなたは、いつもそういうことを言う」


美優は、電話越しに笑った。


「難しいことの方が、面白いでしょう」


「そうですね」


電話が終わって、智也は、夜の道を歩き始めた。


街の灯りが、冬の空気の中で、くっきりと輝いていた。


どこかで、年末の音楽が、遠く流れていた。


来年、この問いはどこへ向かうのか。


まだ分からなかった。


しかし、問いがあることは、確かだった。


その確かさが、今夜の智也には、十分だった。


---


冬休みの最初の朝、智也は、少し遅く起きた。


珍しいことだった。


朝食をゆっくり食べ、窓の外を見ると、薄く雪が積もっていた。


東京では珍しい、早い雪だった。


その白さを見ながら、智也は、ノートを開いた。


年明けに向けた、整理をしようと思った。


**「第十三章、現時点での整理。」**


**「問いの出発点:本多誠司先生からの手紙。美優のあとがきが、問いを生んだ。」**


**「観察された事実:ユニバーサル・キャンパスを使う学生の思考パターンが均質化している可能性。『なんとなくそう思った』という感覚の増加。自分の考えに至った道筋が説明しにくくなる現象。」**


**「技術的な仮説:ユニバーサル・キャンパスの問題は、コンテンツの中ではなく、コンテンツの選択プロセスの中にある可能性。選択肢の設計と、その後のコンテンツ推薦の仕組みが、思考を特定の方向に誘導している可能性。」**


**「資金の繋がり:プリズム・グロース・ファンドが、ユニバーサル・キャンパスの運営会社とドイツの件の設計者を、間接的に繋いでいる可能性。」**


**「年明けの課題:本多先生の大学の協力を得た実際のシステムの解析。木村刑事とインターポールによる資金フローの確認。マーカスのチームによる、選択プロセスに焦点を当てた新しい検出方法の検討。長谷川の友人への追加インタビュー。」**


**「この章の核心的な問い:選択という体験を通じた思考の誘導に、どう気づき、どう対抗するか。」**


整理を書き終えて、ノートを閉じた。


窓の外では、雪がまだ、静かに降り続けていた。


白い世界の中に、東京の街が、静かに佇んでいた。


来年、問いは続く。


旅は続く。


そして、問いを持つ人間が、世界のどこかで、また一人、増えているかもしれない。


その可能性が、今の智也には、十分に温かかった。


---

第13章 第2話「ユニバーサル・キャンパスの内側」完


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