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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第5章

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第5章 第5話:橘哲也の反撃


あらすじ:進藤刑事からの資料提出要請に対し、橘哲也が動き始める。彼は、複数の法律専門家を通じて、要請を拒否するとともに、智也と美優への反撃を開始する。書籍「沈黙の推理者」の内容に対する法的な異議申し立て、美優のジャーナリスト資格への攻撃、そして、智也の学園での立場を揺るがす動き。橘は、かつてのシャドウ・ネットワークよりも、より法律の範囲内で、巧妙な攻撃を仕掛けてきた。智也は、その攻撃に対して、冷静に推理を続けながら、次の一手を考える。


---


資料提出要請への橘哲也の回答は、予想以上に素早かった。


要請から三日後、モーメントラボの代理人弁護士から、以下の書面が届いた。


「当社は、法律に基づいた適正なビジネスを行っており、個人情報の収集・利用については、利用規約に明記した範囲内で実施しています。今回の任意の資料提出要請は、根拠が不明確であり、応じることは困難です。なお、当社のビジネスについて、根拠のない疑惑を流布することは、名誉毀損に当たる可能性があります」


その書面は、極めて計算された内容だった。


資料提出の拒否。


そして、逆に、名誉毀損の可能性を示唆することで、智也たちへの牽制。


「橘は、法律を盾にしていますね」


智也は、進藤刑事に、そう伝えた。


「その通りだ。彼は、法律の専門家を使って、我々の動きを封じようとしている。ただし、これは、予想通りの展開だ」


「次の手は、何ですか」


「任意から強制捜査への移行を、検討している。ただし、そのためには、裁判所の令状が必要だ。その令状を取得するためには、現時点での証拠だけでは、不十分かもしれない」


「では、もう少し時間が必要ですか」


「そうだ。村上准教授の実証実験の結果が、正式な証拠として認められれば、令状取得の可能性が、大きく高まる」


「わかりました。実験の完了を、急ぎます」


だが、橘の反撃は、それだけではなかった。


その翌日、美優のもとに、出版社の法務部から連絡が入った。


「書籍『沈黙の推理者』の内容の一部について、モーメントラボ代理人弁護士から、訂正と謝罪を求める、正式な申し入れが来ました」


「どの部分ですか」


「橘哲也氏について言及している部分です。彼が、シャドウ・ネットワークと関連していたという記述が、根拠のない誹謗中傷だという主張です」


美優は、その連絡を受けて、すぐに智也に伝えた。


「橘が、書籍を攻撃してきた。シャドウ・ネットワークとの関連性を否定している」


「書籍の中での、橘についての記述は、事実に基づいていますか」


「最大限、慎重に書いた。シャドウ・ネットワークとの関連性については、確定的な表現は避けて、可能性として言及している。だから、名誉毀損が成立する可能性は、低いと思う」


「ただし、訴訟リスクを利用して、私たちに圧力をかけることが、橘の目的なのかもしれません」


「そうね。実際に訴訟を起こすことよりも、訴訟の可能性をちらつかせることで、報道や調査を止めさせる」


「それが、かつてのシャドウ・ネットワークの脅迫とは、異なる部分です。あちらは、物理的な危害を示唆していた。橘は、法的な手続きという、より洗練された方法で、圧力をかけている」


「だから、より対応が難しい」


美優は、そう言いながら、出版社の法務部と対応策を協議することにした。


さらに、翌週には、より直接的な攻撃が来た。


智也の学園に、ある書類が届いたのだ。


差出人は、モーメントラボではなく、**ある匿名の人物**だった。


その書類には、以下のような内容が記されていた。


「千葉智也は、複数の学園関係者および警察関係者の、個人情報を、許可なく収集し、利用していた可能性があります。これは、個人情報保護法の観点から、問題となり得ます」


その書類が、学園の管理職に届いたことで、智也は、教頭に呼ばれた。


「千葉君、この書類について、説明してほしい」


教頭の声には、困惑が混じっていた。


「この書類の内容は、事実ではありません」


智也は、冷静に答えた。


「私が収集した情報は、全て、任意での提供によるものです。強制的に収集したものは、一切ありません」


「でも、こういう書類が届くと、学園としても、無視できない」


「わかります。もし、正式な調査が必要なら、応じます。ただし、その調査の結果が、私の主張を裏付けることになると、確信しています」


教頭は、しばらく沈黙した後、以下のように言った。


「わかった。今すぐ、何かするつもりはない。ただし、外部からの圧力が続くようなら、学園としても、対応を検討する必要がある」


その会話の後、智也は、図書館の奥の席に戻った。


複数の戦線での攻防が、同時に展開されていた。


書籍への法的な攻撃。


美優のジャーナリスト活動への圧力。


そして、学園での智也の立場への攻撃。


橘は、三方向から、同時に圧力をかけていた。


その戦略は、かつてのシャドウ・ネットワークよりも、はるかに洗練されていた。


物理的な危害ではなく、法的・社会的な圧力を通じて、相手の活動を封じる。


智也は、その攻撃に対して、感情的な反応を示さず、冷静に分析した。


「橘が三方向から攻撃してきているのは、なぜか」


その問いを、自分自身に向けた。


「それは、彼が、私たちの調査が、自分のビジネスに、重大な影響を与えることを、認識しているからだ」


「つまり、彼が強く反応しているほど、私たちの調査が、正しい方向に向かっている証拠だ」


その認識が、智也に、落ち着きをもたらした。


その夜、美優と進藤刑事と村上を、オンラインで集めて、対策会議を開いた。


「橘の反撃に対して、以下の対応を、提案します」


智也は、以下の三点を、提示した。


「一つ目:書籍への法的な攻撃については、出版社の法務部と協力して、対応する。書籍の記述は、事実に基づいており、名誉毀損は成立しないという、法的な根拠を、明確にする」


進藤刑事が、頷いた。


「二つ目:美優さんへの圧力については、報道の自由を守るための、複数の報道機関との連携を、強化する。一つのメディアへの圧力は、他のメディアでの報道によって、無効化できる」


美優が、メモを取り始めた。


「三つ目:学園への書類送付については、匿名の書類の出所を、追跡する。その書類が、橘の指示によるものだと、立証できれば、逆に、橘への新たな証拠になる」


村上が、その提案に、技術的な観点からの補足を加えた。


「書類の追跡については、私が、技術的な支援を提供できます。デジタルな送付の場合、メタデータから、出所の痕跡が残っている可能性があります」


「ありがとうございます。では、それぞれの対応を、並行して進めましょう」


会議が終わった後、智也は、一人、考えた。


橘の反撃は、予想通りだった。


むしろ、反撃が来たことで、調査の方向性が正しいという確信が、深まった。


だが、同時に、時間的な制約も、感じていた。


橘の法的な攻撃が、長引けば、実証実験の結果を報道に活用する前に、動きが制限される可能性がある。


「急がなければなりません」


智也は、村上に、メッセージを送った。


「実証実験を、予定より早く、完了できますか」


「残り一週間の予定を、三日に短縮することは、可能です。ただし、データの精度が若干下がる可能性があります」


「それは、許容範囲です。三日で完了してください」


「わかりました」


翌日の朝、学園に登校した智也は、廊下で、一人の生徒に声をかけられた。


「千葉先輩、大丈夫ですか?」


振り返ると、そこには、見知らぬ一年生の女子生徒が立っていた。


「何ですか」


「先生たちが、先輩のことで、何か話していたのを、聞いてしまって。もしかして、困っていることがあるかと思って」


その気遣いに、智也は、一瞬、驚いた。


「大丈夫です。ありがとう」


「あの書籍、読みました。先輩のしてきたことは、すごいと思います。応援しています」


その言葉が、智也の心に、温かく響いた。


見知らぬ後輩からの、純粋な応援。


それが、橘からの圧力に、最も効果的な解毒剤だった。


「ありがとうございます。その気持ちが、力になります」


智也は、そう答えた後、図書館へと向かった。


橘の反撃は、続いているかもしれない。


だが、自分には、信頼できる仲間がいる。


美優、進藤刑事、村上。


そして、見知らぬ後輩を含む、複数の応援者たちも。


その信頼の力が、どんな圧力にも負けない、最大の武器だった。


ノートに、智也は、以下を書き加えた。


**「橘の反撃は、私たちが正しい方向に向かっている証拠だ。圧力に屈せず、推理を続ける。信頼できる仲間と共に。」**


その言葉が、第五章の、新たな局面への、決意を示していた。


---

第5章 第5話「橘哲也の反撃」完


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