表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/57

第3章 第3話:シャドウ・ネットワークの追跡


あらすじ:AIと人間の推理を組み合わせた調査が本格化する。村上准教授の技術チームが、AIによる自動投稿の発信源の追跡を開始する一方、智也は人間的な視点から、シャドウ・ネットワークの行動パターンの分析を始める。その過程で、ネットワークの内部に、かつての「ゲーム」の被害者が関わっているという、衝撃的な事実が浮かび上がる。


---


調査が本格化して、一週間が経過した。


村上准教授の技術チームは、複数のサーバーの追跡を続けていた。


だが、相手の追跡回避システムは、想像以上に高度だった。


発信源を特定しようとすると、即座に、別の場所へと移動する。


まるで、幽霊を追いかけているようだった。


「相手は、極めて高度な技術を持っています」


村上は、智也に報告した。


「通常の追跡手法では、限界があります」


「では、通常ではない手法とは、何ですか」


「相手のAIシステムの弱点を利用することです」


村上は、ノートパソコンで複数のグラフを表示させた。


「AIシステムには、必ず、**パターンの癖**があります。どれほど高度なシステムでも、設計者の思想や傾向が、システムの挙動に反映されます」


「つまり、そのパターンを分析することで、設計者の特性を把握できるということですか」


「そうです。そして、設計者の特性から、組織の特性を推測することができます」


智也は、その考え方に、深く共感した。


それは、彼が普段行っている推理の手法と、本質的に同じだったからだ。


人間の行動にパターンがあるように、AIにもパターンがある。


そのパターンを見抜くことが、追跡の鍵になるのだ。


「では、今まで収集したデータから、どのようなパターンが見えますか」


村上は、複数の分析結果を提示した。


「まず、AIによる自動投稿は、**特定の時間帯に集中している**という特徴があります」


「日本時間の午前二時から四時の間です」


「その時間帯は、どの国の時間帯と一致していますか」


村上は、世界地図を表示させた。


「ヨーロッパの午後七時から九時の時間帯と一致します。つまり、**このシステムは、ヨーロッパの時間帯で運用されている可能性が高い**のです」


「ヨーロッパのどの地域ですか」


「現時点では、西ヨーロッパか中央ヨーロッパのいずれかだと思われます」


智也は、その情報を頭の中で整理した。


西ヨーロッパまたは中央ヨーロッパ。


そこを拠点に、国際的な民意操作を行っている組織が存在するということか。


「次に、AIが生成する文章のパターンについてですが——」


村上は、複数の投稿文を表示させた。


「複数の言語で書かれた投稿ですが、文章の構造に、共通した特徴があります」


「それは、**感情的な反応を引き起こすことを優先した文章構造**です」


「具体的には、否定的な感情、特に、恐怖や怒りを引き起こす表現が、意図的に使用されています」


「これは、どのような心理的な効果を狙っていますか」


「恐怖や怒りの感情は、人間の批判的思考を低下させます。つまり、情報の正確性を確認する能力が弱まるのです。その状態で、特定の情報を提供することで、その情報を批判的に検討することなく、受け入れやすくさせるのです」


智也は、その分析を聞いて、かつての「ゲーム」との類似性に気づいた。


「それは、学園内の『ゲーム』での手法と、本質的に同じですね」


「どういう意味ですか」


「学園内の『ゲーム』では、生徒たちの心理的な弱点を利用して、彼らを追い詰めました。そして、その状態で、特定の情報を与えることで、彼らを意のままに操作しました。AIによる民意操作も、同じ原理を、より大規模に適用しているのではないですか」


村上は、その指摘に、深く頷いた。


「その通りです。実は、学園での実験データが、このAIシステムの学習に使用されていたという事実は、まさにその証拠です」


「学園での実験は、このAIシステムの設計のための、**予備実験**だったのです」


その言葉が、智也の心に、重く響いた。


複数の学園で、心理的な虐待を受けた生徒たちは、単にデータ収集の対象だっただけでなく、**AIシステム設計のための実験台**でもあったのだ。


その事実は、事件の悪質さを、さらに深めるものだった。


その時、美優が、図書館に駆け込んできた。


「大変。新しい情報が入った」


彼女の顔色は、明らかに緊張していた。


「何ですか」


「かつての『ゲーム』の被害者の一人が、シャドウ・ネットワークに接触していた可能性があるの」


「誰ですか」


「**田島由美**。第一章で、家庭問題を暴露されて、被害を受けた生徒よ」


智也は、その名前を、即座に思い出した。


両親の不仲について親友に相談したことを暴露され、校内で「両親が離婚しそうな子」というレッテルを貼られた生徒だ。


「彼女が、どのようにシャドウ・ネットワークに関わっているのですか」


「調査チームの分析によると、彼女のSNSアカウントが、AIによる自動投稿のネットワークに、組み込まれている可能性があるの」


「つまり、彼女のアカウントが、AIによる投稿の拡散に利用されているということですか」


「そう。だが、問題は、彼女が**自発的にそれに参加しているのか、それとも、知らないうちに利用されているのか**、それが不明なの」


その情報は、智也に、複数の推理を促した。


もし、田島由美が自発的に参加しているとしたら、彼女は、ゲームの被害者から、シャドウ・ネットワークの実行者へと変化したことになる。


それは、かつてのゲームで、敗北者が実行者側に組み込まれるパターンと、同じだ。


「ゲームの構造が、より大規模な形で、再現されているのかもしれません」


智也は、そう言った。


「どういう意味?」


「かつてのゲームでは、敗北者の一部が、実行者側に組み込まれました。シャドウ・ネットワークも、同様に、被害者たちを組み込んでいる可能性があります」


「つまり、被害者が加害者に変えられているということ?」


「その可能性があります。そして、そのメカニズムが、AIによって、自動化・効率化されているのかもしれません」


美優は、その推理を聞いて、深く思考した。


「であれば、田島由美は、被害者でもあり、同時に、実行者でもあるということになるわ」


「はい。彼女を責めることは、適切ではないかもしれません。むしろ、彼女がどのようにして組み込まれたのかを知ることが、シャドウ・ネットワークの手法を明かす鍵になるはずです」


「彼女に会いに行く?」


智也は、少し躊躇した。


人前に出ることの苦痛は、依然として消えていない。


だが、田島由美に会うことは、必要だと感じていた。


「はい。会いに行きます」


翌日、智也と美優は、田島由美の自宅を訪問した。


田島由美は、最初、訪問を拒否しようとした。


だが、美優が丁寧に説明すると、彼女は、ゆっくりと、扉を開けた。


「何が知りたいの」


彼女の目には、警戒心と、同時に、何か深い疲れが映っていた。


「君のことを責めに来たのではありません」


智也は、静かに言った。


「君が、どのような経緯で、特定の活動に参加するようになったのか、それを知りたいのです」


田島由美は、長い沈黙の後、語り始めた。


「半年前に、SNSで、あるアカウントからメッセージが届いたの」


「そのメッセージには、『あなたの過去の被害について、補償を提供したい』と書かれていたわ」


「補償の内容は、何でしたか」


「金銭的な補償と、心理的なサポート。それから、『あなたの被害を社会に訴える機会を提供したい』というものだった」


「そのオファーを、受け入れたのですか」


「最初は、疑っていた。でも、実際に、金銭的な補償が振り込まれてきたの。そして、複数の心理カウンセリングセッションが、無料で提供された」


「その後、何を求められましたか」


田島由美は、視線を落とした。


「特定のSNS投稿を、拡散すること。自分のアカウントで、特定のハッシュタグを投稿すること。それだけだった」


「その投稿の内容は、何でしたか」


「国際民主主義保護条約に反対する内容だった。でも、最初は、そのことに気づかなかった。文章が巧みで、まるで、自分の意見のように感じられたから」


その言葉が、智也の心に、深く刺さった。


AIが生成した文章は、まるで自分の意見のように感じられる。


それが、AIによる民意操作の本質的な恐ろしさなのだ。


「今は、その活動を継続していますか」


「先週、止めた。なんとなく、おかしいと感じ始めたから」


「どの点がおかしいと感じましたか」


「投稿する文章が、どんどん過激になっていった。最初は、条約への疑問を呈するだけだったが、いつの間にか、特定の人物への攻撃になっていた」


「特定の人物とは、誰ですか」


田島由美は、智也の目を見た。


「あなたよ。千葉智也」


その言葉に、智也は、内心、深く動揺した。


だが、表情には出さなかった。


「わかりました。貴重な情報をありがとうございます」


「私は、罪を犯したの?」


田島由美の目には、恐怖が映っていた。


「あなたは、被害者です。あなたを利用した組織こそが、責任を負うべき存在です」


その言葉に、田島由美の目から、涙がこぼれた。


帰り道、智也は、美優に、今回の訪問で得た推理を伝えた。


「シャドウ・ネットワークは、ゲームの被害者たちを、意図的に狙っています」


「なぜ、被害者たちを狙うの?」


「彼らは、既に、心理的な傷を負っています。その傷を利用することで、より簡単に、組み込むことができるからです」


「つまり、二重の被害者ということね」


「はい。ゲームに傷つけられ、さらにシャドウ・ネットワークに利用される。その構造を断ち切ることが、私たちの次の使命です」


その夜、智也は、村上に、田島由美から得た情報を伝えた。


村上は、その情報を基に、複数の分析を行った。


そして、翌日、以下の結論を智也に伝えた。


「田島由美のケースから、シャドウ・ネットワークの行動パターンが、より明確になりました」


「まず、**ゲームの被害者リストを入手し、その中から、心理的に脆弱な人物を選定する**」


「次に、**補償と支援を提供することで、信頼を勝ち取る**」


「そして、**徐々に、特定の活動への参加を求める**」


「最終的には、**その人物のSNSアカウントを、AIによる投稿の拡散ネットワークに組み込む**」


「その手法は、極めて巧妙で、被害者自身が、自分が利用されていることに気づきにくい」


智也は、その分析を聞いて、新たな推理を立てた。


「つまり、シャドウ・ネットワークは、ゲームの被害者リストを持っているということです。そのリストは、どこから入手したのですか」


「それが、まだ不明です。ですが、最も可能性が高いのは、田中隆太郎の組織から、流出したデータです」


「田中隆太郎が逮捕される前に、データを移送したということですか」


「その可能性があります」


その推測が、新たな調査の方向性を示していた。


田中隆太郎の組織からシャドウ・ネットワークへのデータ移送の追跡。


それが、シャドウ・ネットワークの正体を解明する、次の鍵になるのだ。


学園の図書館で、智也は、新たな推理の糸口を見つけたことに、静かな興奮を感じていた。


まだ、遠い道のりだ。


だが、少しずつ、シャドウ・ネットワークの実態が、見え始めていた。


その実態を完全に明かすことが、第三章の使命なのだ。


---

第3章 第3話「シャドウ・ネットワークの追跡」完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ