Ep.1 どうだっていい事を、嘘って吐いて戻れない
スマホから響く機械的なアラームに音に、俺はしぶしぶ体を起こした。雨粒が窓ガラスを叩くのを聞いて、苛立ちと嫌悪感からため息を吐く。
冷たい水で顔を洗って、軽く朝食を腹に詰め込み、寝巻きから制服に着替え、昼飯用に買い置きの菓子パンをカバンに入れて、荷物を持って家を出る。
自分より少し大きめの傘を右手に持ち、雨粒を避けるように肩をすぼめて学校に向かう。家から学校までは歩いて10分かそこら。受験の時は、なるべく近くなるように学校を選んだ。
教室に入ってしばらくすると、担任の先生が入ってきて、そのままホームルームが始まった。
「この間受けたテストの成績表を返すから、順番に前に取りに来て」
言われた通り、クラスが教卓の前に列を成した。
「お前、何点だったー」
「いや〜言えね〜(笑) 今回ガチでやべーわ」
普段は静かにしなさいと注意する先生も、学生恒例このタイミングでだけは寛容に呆れていた。
俺は周りと比べるのが嫌いだ。周りと比べられるのが嫌だ。何をやっても中の上が関の山。努力して、勝負したところで勝てることもない。馬鹿にされるほどでもないが、どれだけ頑張ったって最後に得られるのは劣等感だけだ。
だから最初から、俺は俺に期待なんてしない。それできっと、俺はたぶん俺が一番嫌いだ。よく言えばユーティリティ、悪く言えば器用貧乏。何もできない俺が、俺は嫌いだ。
「ちょっと、体育祭の垂れ幕づくり、ちゃんと手伝ってよね!」
1日分の授業を終えて帰ろうとした俺を呼び止めたのは、うちのクラスの学級委員長。
「なんで俺なんだよ委員長。やりたい奴が他にも沢山いただろう? そいつらにやらせてやれよ」
「私は君に言ってるの。せめて担当になったんだから、やろうよ」
委員長は、扉と俺の間に割り込むようにして体を入れると、俺の進路を塞いだ。
「断っただろ、俺は。勝手に委員会を決められて、迷惑してるのはコッチだぜ。こうやって押し問答してる間にでも作業を進めれるんじゃないのか?」
「勝手に決めたのは君が話し合いに参加しようとしなかったからでしょ。とにかく、他でもない君自身がやるんです」
今にも掴みかかってきそうな勢いの委員長から、心持ち距離をとるように、ほんの少し後退する。
「もぅ、責任持ってやってください! 大体どうして君はそんなにワガママなの、もう少し協調性ってのを……」
「別にワガママは俺だけじゃないだろ。そもそもワガママは我が道を行くことで、悪いことじゃない」
「へっ、屁理屈でしょう。そんなの」
「屁理屈じゃないさ、誰しも自分が一番カワイイのは当たり前だろ? 誰だって好きも嫌いもあって、自分が誰よりも大切で、他人は集団は二の次なんだから」
むぅっと頬を膨らませて睨みつけてくる委員長を尻目に、そのすぐ横を通って教室を後にした。
「あっ! ちょっと待ってよ!」
半ば叫ぶように俺を制止する委員長を、俺は無視してその場を立ち去ったのだった。




