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第一話 反転世界の神

俺は――何を見せられている?


さっきまで、世界は終わっていたはずだ。


空は裂け、

海は消え、

大地は崩れ落ちた。


あの地獄は、確かに現実だった。


なのに。


「……サンサーラ……?」


眼下に広がる巨大都市。


白い建物群。

複雑に交差する街道。

遥か彼方に見える蒼い海と、黄金色の砂漠。


そして――


どこまでも澄み渡る、青空。


風まである。


暖かい陽射しが頬を撫でた。


「これは……!」


信じられない。


崩壊したはずの世界が、

何事もなかったかのように存在している。


「これは何だ……!」


怒声。


リアナの声。


いや――違う。


“真理の神”だ。


だが、先程までとは決定的に違っていた。


世界そのものから響くような、あの絶対的な声ではない。


焦り。


苛立ち。


微かな狼狽ろうばい


それが混じっている。


“真理の神よ……”


静かで、透き通るような少女の声が響く。


“もう分かっているのでしょう?”


“ここは、あなたの世界じゃない”


“――私の世界よ”


空間が揺らぐ。


白い粒子が舞い、

その中心から、一人の少女が姿を現した。


黒く艶やかな長い髪。


凛とした瞳。


「ヘイン……!」


胸が震える。


ヘインが、真っ直ぐ俺を見る。


“ショータ”


“あなたを、独りになんてさせない”


その声を聞いた瞬間。


胸の奥で壊れかけていた何かが、

繋ぎ止められるのを感じた。


「ヘイン!!」


真理の神の声が歪む。


「お前ごときが! 私に歯向かうか!」


先程まで余裕に満ちていた神が、

明確な怒気どきあらわにしていた。


ヘインは静かに笑う。


“神よ”


“不完全な今のあなたなんて……”


“もう、怖くも何ともないわ”


その瞳には、一切の怯えがなかった。


“それに――”


“私を“お前”呼ばわりしたこと……”


ゆるさないから”


空気が張り詰める。


「……小娘がァ!!」


神の怒声と共に、世界が震えた。


「ヘイン! 皆は生きているのか!?」


俺は叫ぶ。


ヘインは即座に頷いた。


“生きてるわ”


その言葉だけで、

崩れかけていた心が救われる。


「皆はどこにいる!?」


“元の世界を、丸ごと私の世界へコピーしたの”


“みんなは今、その中にいる”


「世界を……丸ごとコピーしただと……!?」


真理の神の声が震える。


「そんな力……!」


「貴様ごとき小娘にあるはずが――!」


――パチン


ヘインが指を鳴らす。


景色は変わらない。


だが。


「……っ!」


感じる。


生命の気配。


人々の息遣い。


風の流れ。


世界が、“生きている”。


『みんな!!』


チョーカーへ叫ぶ。


『聞こえるか!?』


『ショータ殿! 聞こえてるぞ!!』


ライラの声。


『ショータ! 皆、無事です!』


エルフィリア。


『ショータさん! マルダです!』


『ヘインが……“愛の転生者”が……やってくれました!!』


「あぁ……!」


全身から力が抜ける。


「みんな……!」


「生きていてくれたのか……!」


涙が溢れそうになる。


だが。


「“愛の転生者”……だと?」


真理の神の気配が変わった。


怒り。


警戒。


そして――恐怖。


「マルダが言った! 愛の力とは!」

「お前かあ! ヘイン!」


神はさらに上空へ飛び上がる。


「ならば、この世界ごと消し去ってくれるわ!!」


右手が白く輝く。


凄まじいエネルギー。


空間がきしみ始める。


「まずい! ヘイン!!」


「世界ごと吹き飛ぶぞ!!」


だが。


ヘインは動かなかった。


“――させません”


静かな一言。


その瞬間。


神のてのひらの白光が、霧のように掻き消えた。


「なっ……!?」


神が絶句する。


“言ったでしょう?”


“ここは、私の世界”


“この世界では、不完全なあなたでは私に届かない”


「私を……超える力だと……!?」


神の声が揺れる。


「こんな箱庭ごときがァ!!」


“ショータ!”


ヘインが振り返る。


“みんなは別領域へ避難させる!”


“ここで、神をたおしましょう!!”


「ああ!!」


拳を握る。


「ヘイン!」


「行くぞ!!」


――パチン


指が鳴る。


その瞬間。


世界から、一斉に生命の気配が消えた。


静寂。


俺とヘイン。


そして神だけが残される。


「ヘイン……」


隣に並ぶ。


「君となら……神を斃せる」


ヘインが、少しだけ微笑んだ。


“ショータ……”


“私、あなたを独りにはしない”


その言葉に、

胸が熱くなる。


だが。


「……もう、勝った気でいるのか?」


神が笑った。


低く。


不気味に。


「ヘインよ……随分と勇ましくなったものだ」


「今のお前なら……」


「私の“器”になれるかもしれんなぁ?」


ゾクリと寒気が走る。


「ヘイン!!」


「気をつけろ!!」


だがヘインは退かなかった。


“ショータ、大丈夫”


“この世界の主導権は、こちらにある”


神が笑う。


「ああ……その顔だ……」


「自信に満ちたその表情……実にたまらんなぁ……」


「愛の転生者か……」


「確かに、お前は成長した」


「だが――残念だ」


「その自信に満ちた顔を…絶望へと変えてやる」


「ヘイン!!」


嫌な予感が走る。


「何か来る!!」


ヘインが叫ぶ。


“ショータ!!”


“この世界ごと! 消し去ってください!!”


「あああああああーーーーーーーーー!!」


全身から白光が噴き出す。


蒼穹そうきゅうの中心で、

俺自身が太陽のように輝いていた。


「神よ!!」


「この世界ごと――消えろォォォォォーーーーーー!!」


閃光。


世界が白に呑まれる。


視界も、

音も、

存在すら塗り潰される。


“ショータ……すごい……!”


ヘインの声だけが響く。


やがて。


ゆっくりと白が晴れていく。


そして――


“……うそ……”


ヘインの震える声。


「……なんだ……」


目の前を見た瞬間。


背筋が凍った。


世界は消えていた。


空も。


大地も。


何もない。


なのに――


「なぜ……消えてない……!?」


そこに、“神”だけが立っていた。


無傷で。


“ショータ!! 逃げます!!”


――パチン


世界が切り替わる。


景色が変わる。


次の瞬間には、全く別の空間にいた。


「ヘイン……!」


「あいつは一体……!?」


ヘインの顔が青ざめている。


「神が……」


震える声。


「完全体に……」


「“完全なる精神体”に変貌しました……!」


「完全なる精神体……!?」


理解が追いつかない。


「どうやってそんな――!」


“――ここかぁ?”


声。


世界全体に響く。


「もう見つかった!?」


ヘインが息を呑む。


――パチン


再び世界が切り替わる。


だが。


“無駄だ、ヘイン”


声が追ってくる。


どこへ逃げても。


「ヘイン!! 一体何が起きてる!!」


ヘインが唇を震わせる。


「ショータ……」


「マルダさんが……」


嫌な予感。


「“神の器”に、されました……!」


「……なに?」


頭が真っ白になる。


「マルダが……?」


その瞬間。


黄金の光が現れる。


ぼんやりと揺らめく、人型のエネルギー体。


“ようやく……”


“本当の私の力を得たぞ……”


その中心。


マルダの身体が浮かんでいた。


「マルダァァァ!!」


“まさか、忌々しい卑弥呼が……”


“私の器となり得るとはなぁ……”


“あの一瞬…! 賭けではあったが……”


“これも運命……”


“いや、神の悪戯いたずらか”


「やめろォォォ!!」


だが。


“この抜け殻はもう不要だ”


マルダの身体が、

闇へ落ちていく。


「ヘイン!!」


――パチン


ヘインが指を鳴らす。


マルダの亡骸なきがらが、瞬時に消えた。


ヘインがうつむく。


「マルダさん……ごめんなさい……」


「私が……油断しました……」


神が笑う。


“亡骸は箱庭へ飛ばしたか……”


“優しいなぁ、ヘイン”


愉悦ゆえつに満ちた声。


“だが私は……”


“初めて“死の恐怖”を味わったぞ”


“お前は素晴らしい”


“私に初めての感情を与えたのだからなぁ!!”


狂気じみた笑い声。


“卑弥呼も……”


“最後の最後で、私の養分となったか……”


“つくづく浮かばれん女だ”


「――おい」


怒りで視界が赤く染まる。


「それ以上……」


拳が震える。


「ベラベラ喋るんじゃねえ」


殺気が溢れる。


「ショータ……」


隣で、ヘインが俺の手を強く握る。


その瞳には、怒りの炎が燃えていた。


「私も……あなたと共に戦う」


「もう、あいつだけは――」


「絶対に赦せない!」

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