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第七話 はじめてのおつかい

 軽トラックに乗り道人(みちと)が向かった先は、隣町にある産地直売所。天ぷらなどの野菜類は、いつもここで調達している。

 道の駅と併設していて、飲食コーナーや、外にはちょっとした遊具のある広場があり、平日の昼間でも多くの人で賑わっていた。広場の方から子供たちのキャッキャッと楽しそうな声が聞こえてくる。

 軽トラックから降りたたぬ子は、体をふらつかせた。


   (……生まれて初めて車に乗りました、怖かったです)

   (心臓が飛び出るかと思いました)

   (何だか吐き気がします……これが車酔いというやつでしょうか?)


 先を行く道人が足を止めて後方を振り返る。


「大丈夫? まさか、車酔いするタイプ? いや、軽トラだから乗り心地悪いけど」

「い、いいえ。これくらい、なんのその! へっちゃらです!」


 毅然とした態度で前へと進み歩んでいく。


   (きっとこれは、〝研修〟なるもので、試されているのです)

   (失敗は許されません)


 現時点で、十分にヘマをして見えているだろう。たぬ子の様子を窺いつつ、道人はメモ用紙にササッと筆を走らすと、たぬ子にそれを手渡した。


「これ、頼むよ」


 渡されたメモ用紙には、野菜の種類が書かれてある。ニンジン、ごぼう、なすび、大葉など。決まって大量に消費するジャガイモや玉ねぎなどは、農家の人が直接届けてに来てくれている。


「野菜の種類とか鮮度、分かる?」


 少し意地悪っぽく道人は言った。


「野菜のことなら、お任せくださいっ」


「お、」と、道人は感心したように目を丸める。──そんな道人は、店を始める前まではネギとニラの判別がつかなかった。

 とりあえず、たぬ子は広々とした直売所内を目当ての野菜を探してウロチョロする。道人は数メートル離れてついて歩いた。


   (わたくしタヌキは雑食です。なんっでも、食べます)

   (故に、味の違いにはうるさいですよ?)


 たぬ子はニンジンを見つけると、鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。

   (こっちの方が甘い香りがしますね)

   (ビニール袋に包んでいても、バレバレですよ? 野生動物は鼻が利きます)


 ニンジンをビニール袋の上から必死に嗅いでいるたぬ子の姿を見て、道人が少し呆れた顔して側に近寄る。


「……匂い、する? いや、気持ちは分かるけど」


 と、道人も真似てみる。


「あぁ、するな。かすかに」


「でしょう? こちらの方が特に美味しそうな香りがプンプンしてますっ」


「そ、そう……俺はそこまでニンジンの香りには詳しくないねぇけど、見た目の判断でそれでOKだよ。香りなら、ニンジンよりも……」


 道人が一メートル先を指差す。


「ゴボウはよく香るよ」


 言われ、たぬ子はすぐさま鼻の穴を全開で嗅ぎつく。

 ……こうゆう子なんだ。と、道人は思い込むことにより徐々に慣れてきた。すると何だか、一気に親しみが湧き、愛着すら感じる。相手にそう感じさせる面が、たぬ子にはあった。


「フンガッ!」


 たぬ子が顔をしかめて目に涙を滲ませている。手には、ネギを持っていた。


「こ、これはとても刺激的な香りがしますぅ」


「あぁ、薬味だからな。苦手? たまにいるんだよなぁ」


「しょ、少々。けど、生き抜いていくためには好き嫌いは言ってられませんっ。多少腐っていようが、何だって食べますよ!」


「そ……だな、うん。良い心構えだ」


 手間取り四苦八苦しながらも、命ぜられた食材を何とか全て選び終えた。それを道人はチェックをして、「よし、合格」

 たぬ子は、無事に与えられた任務をこなす事ができた。


   (やりました!)

   (わたくし、やればできる子でした!)


 ひとしきり達成感に浸る。


「あとは……(あゆむ)にミカン買って帰ってやるか」


 そう言う道人は、いつの間にか、かまぼこやちくわを買い物かごに入れていた。たぬ子の野菜の入った重いかごも一緒に持ち、レジへと向かった。

 待っている間、たぬ子は色とりどりの物に目が釘付けになる。


   (これは……)

   (何という食べ物でしょうか?)


 会計を済ませた道人が気づき、


「アイス、欲しいの?」


「アイス……ですか? いわゆるアイスクリンですね? いえ、珍しくて見入っていただけです」


 直売所内には、旬のフルーツを使った様々な種類のアイスクリームがショーケースの中に入って販売されていた。


「どれにする?」


「あ、わたくしは恥ずかしくも所持金がありませんので……」


「奢るよ。俺も欲しいし」


 ……前々から一度食べて見たかったが、男が一人でショーケースの中を覗き込んで選んで買うのは、何となく恥ずかしくて勇気が出せず買えなかった。という、変なプライドと小さな本音。


「俺は、イチゴにする。たぬ子ちゃんは?」


「で、では、お言葉に甘えて……リンゴとやらを」


 高い位置に実が実るゆえに、未だ食べたことのなかったリンゴ──の、味を選んだ。

 たぬ子は生まれて初めて食べたアイスクリームの冷たさに驚き、道人は長らくの願いが叶って大いに満足した。

 こうして、道草をして時間のロスをしてしまった道人たち。足早に慌ただしく駐車場へと向かい軽トラに乗り込むと、


「あとは肉屋と魚屋と……ラストは、大根舞台!」


「大根……舞台ですかぁ?」


 道人はたぬ子の質問に答える暇もなく、エンジンキーを回して車をバックさせると、産地直売所を後にした。


読んで頂きありがとうございました!


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