7-1-4 俺は自分の中の姉に対して持っている気持ちに気づいてしまった
4月1日。
今日から綾瀬先輩との同棲生活が始まる日だ。
綾瀬先輩の家へ出発する直前俺は玄関で姉に力いっぱいに抱きしめられていた。
「今日からしばらく会えなくなっちゃうね」
「そうですね」
姉は俺と会えなくなるのが寂しいのだろうか、俺の体を更にきつく抱きしめてくる。
「健くん、今日から健くんがいない生活でわたしさみしくてたまらないよ。健くんはわたしと一緒に暮らせなくてさみしい?」
姉が俺に相変わらず抱きしめたままで訊いてくる。
俺は、俺は・・・・・・・・どうなのだろう。
自分と一緒じゃなくて寂しくないか。
すぐには俺は姉のその問いかけに答えられず黙る。
「さみしく、ないの?」
姉が悲しそうな顔で聞いてくる。
俺は姉のその顔を見て自分はどう思っているのかを考える。
少し考え俺は姉の腰に手を回しぎゅっとして思ったことを口にする。
「俺もさみしいです」
「っ!健くんもわたしと離れ離れになるのはさみしいんだ」
俺が自分の身体を抱き寄せながら口にした答えに姉はうれしそうにする。
俺は姉と互いに体を抱き寄せ合う中でふと思う。
俺がこの家に養子として来てから今日でおよそ1年と3か月。
その間姉は俺が悩んでるときには相談に真摯に乗ってくれ、失敗したときにはたくさん慰めてくれ、そして俺のことを一人の人間としてきちんと接してくれた。
考えてみると今までの人生の中で俺にそこまでしてくれた女性は姉しかいない。
そう思った途端に俺の脳内に姉と離れたくないという想いが生まれ胸に痛みが走り俺はさらに姉の体をきつく抱きしめてしまう。
「健くん、痛いくらいに抱きしめてくれるのはうれしいけどそろそろ行かないと」
「え?あ、そうですね。すみません」
俺は姉に指摘され時計を見ると確かに出発しないとまずい時間だった。
昨日のうちに持っていく荷物のほぼ全部を車の中に入れているとはいえ少し急がないといけない時間になっていた。
「姉さん。それじゃあ、行ってきます」
「うん。いってらっしゃい。
少しでも辛くなったすぐ帰ってくるんだよ?」
姉がそう言った後どちらともなく顔を近づけキスをする。
舌は入れずお互いに唇の感触を味わうようなキスを。
姉の唇の柔らかさ、感触、暖かさ。
今日からしばらくは姉とキスしてこれらを感じることができないと思うと名残惜しくなりいつもより長く姉とキスをしてしまう。
「気を付けてね」
「はい」
「気を付けて」
「はい、母さん」
姉と母に送り出されながら玄関を出る。
ちなみに母は玄関で靴を履いた時から姉とともにいた、
だが俺はさっきキスもハグも母が目の前にいるのもお構いなしに姉とした。
母はしたとことで何か言うどころかもっとしろと煽るだろうししなかったらしなかったで
「あれ、今日はしないの?」
なんて言うだろうから。
俺は玄関を出てすぐ父が待っている車に乗り込む。
「お待たせしました」
「ん。じゃあ行くぞ」
父が頷き車を発進させる。
そして父の運転する車で俺は綾瀬先輩の家へと向かう。
その車中俺は出発する前の姉との先程の行為とそのときの気持ちなどを思い出す。
あのとき姉とこれからしばらく会えないことに対して抱いた気持ち。
その少し前に気づいた姉と一緒にいるときに感じる謎の心地よさ。
なぜか姉にだけは俺が心のどこかで持っている女性に対する警戒心がほとんど出ない理由。
それらの正体と理由が今日玄関での一部始終で俺はわかってしまった。気づいてしまった。
俺は十中八九姉に"そういう感情"と"そういう想い"を抱いているのだと。
だがまだ本当にそうだと確定させるにはそれでも早計なのではないかという疑念を俺は未だ持っている。
なら今日から始まる綾瀬先輩との同棲生活の中でそれが本当に"そういう"ことなのかそうではないのか、それを見極めよう。
俺はそう考え綾瀬先輩の家へ向かう車中を過ごす。
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