6-6-3 俺は栗栖との関係を
土曜日。
俺は早めに駅に着き栗栖を待つ。
俺が駅前で待ち始めて数十分。
「だーれだっ」
見知った声とともに司会を突如塞がれる。
「・・・・・・・・・く、くり、す?」
「そうだよ。そんなビビらないでよ」
栗栖がそう言って俺の目にかぶせた手を取り払った後俺の前に現れる。
「待った?」
「待ってない」
俺が栗栖の問いかけにテンプレな回答をすると栗栖はよかったと言う。
「それじゃ、行こうか」
「わかった」
俺は栗栖の後ろについて歩く。
今日のデートは全国的に有名な様々な遊びができる施設に行く。
ここには栗栖とデートで前にも何度か行ったことがあるところだ。
「今日もいっぱい動いて汗こうね」
「あ、ああ」
俺が運動がとことん苦手なことを体育の時間に俺のことを見てて知っている栗栖が勝ち誇ったような顔をすでにしている。
「伊良湖、まずはバッティングで体を温めるよ」
そう言ってバッティングマシーンがあるほうへ行く。
「ここでは勝負はなし。とにかくストレス発散としてお互いやろう」
栗栖がそう言った後機械を操作し前を向き真剣な顔でバッターボックスでバットを構える。
俺も栗栖と同じことをして構えをし、ボールを打っていく。
ちらっと横を見るとすごくさわやかな顔をしてボールを打つのが見える。
俺はその顔を見てすぐ前を向き、また飛んでくる球を打っていく。
「次はボウリング行こ」
バッティングで全球を打ち終わりフェンスを出てすぐ栗栖が言う。
俺は栗栖の言葉にわかったと頷きボウリングのレーンがあるところに向かう。
「今日もスコアで勝負しようよ」
「今日こそは、今日こそは」
「へへ、頑張って」
俺と栗栖は受付を済ませシューズを借りて指定されたレーンに行く。
ジャンケンで先攻後攻を決めボールを取った後ボウリングをプレイし始める。
「またガーター」
「でも前よりはスコアは高いよ。投げ方を教えた甲斐があったな。
じゃ、次はアタシね」
順々にボールを投げ栗栖の楽しんでいる顔を見ながら中俺は思う。
俺は今日のこのデートの最後に栗栖を悲しませることを言わなければならない。
俺が最後に言う言葉で栗栖は絶望してしまうだろう。
俺の言葉で栗栖は俺のことを間違いなく絶望した気持ちになるだろう。
そして栗栖はこれからは一生俺のことを軽蔑するだろう。
それでも俺はこれ以上栗栖が俺のことで時間を使ってしまわないように言わなければならない。
たとえそれが俺の自己満足だとしても。
「また負けた・・・・・・」
俺が今日の栗栖とのデートの最後について考えながら栗栖とのボウリング勝負に挑んでいたらやっぱり負けた。
毎度のことだが。
「でも今回はあと一歩のところだったじゃん。
伊良湖もやればできるんだよ、自信持ちなって」
「ありがとう栗栖」
俺は栗栖に励まされながらボウリングのレーンを後にする。
その後はダーツや卓球などで勝負をして、ものの見事に全部栗栖に負けた。
「結局今日も全部アタシの勝ちだったね」
「ああ、俺が栗栖に運動で勝てる日は恐らく来ないな」
「ボウリングのときも言ったでしょ?練習すればできるって」
「そうだろうか」
「そうだよ。ほら、そろそろ時間だし出よ」
栗栖と全部の勝負が終わり栗栖が時間だと言うので一緒に俺は施設を後にする。
そしてその後買い物したりして夕方になる。
俺と栗栖は待ち合わせ場所だった駅前に戻る。
「今日もすごく楽しかった」
「ああ、俺もすごく楽しかった」
「楽しんでくれてよかった。
じゃあさ、またこういうデートしようよ。
今日はここでお別れでしょ?
最後にさ、キスしようよ」
俺は栗栖が俺にキスをねだってきたとき、話をするならここしかないと咄嗟に思い俺は急いで話を切り出す。
「栗栖、話をしてもいいか」
「え、どうしたの?」
栗栖が俺が突然真剣な顔で話し始めるのを見て動揺する。
「まずは謝らせてくれ。
告白されたのに今まで返事を引き延ばしててすまない。
曖昧な態度で思わせぶりと思われることをして申し訳ない。
俺は今日、その状態を終わらせるために栗栖からの告白の返事をしようと思う」
俺の言葉に栗栖が緊張した顔になる。
「栗栖、俺は栗栖の彼氏になれない。栗栖とは結婚できない。
だからデートしたりキスしたりするのは今日で終わりにしよう」
俺の言葉に栗栖の表情が凍り付く。
「・・・・・・・・・・え?」
俺が言い切った瞬間栗栖が涙目で俺に問い詰め始める。
「どうして?何がだめだったの?教えて」
俺は栗栖の質問にその理由をいい問いかける。
「栗栖、俺の職業の性格上俺と彼女になったり結婚したいなら俺と一緒に死ぬことは覚悟してもらう。
そして俺はすぐ死ぬかもしれないということを常に頭に置いて過ごし、本当に俺が死んだときにはすっぱりと俺のことを忘れてもらう。
栗栖は俺それができないと言った。
そして栗栖は俺があの日栗栖の提案を拒否した後も俺に職業をやめるように俺と会うたび言い寄っただろ?
それを見て俺は職業に関して考え方に溝が埋まらない以上栗栖とこれ以上の関係になることはないという結論にたどり着いた。
だから俺は栗栖を彼女に、そして妻にすることはできない。
俺のことは今日これきりで諦めてくれ」
俺が理由を言い終わった瞬間栗栖は大粒の涙を流し始める。
そして俺に抱き着き懇願してくる。
「嫌。アタシは伊良湖のことを諦めたくない」
「なら栗栖、最後に訊くぞ。
栗栖は俺と一緒に死ぬ覚悟はあるか?
俺が先立ったあとに俺のことを忘れて次の彼氏や旦那を見つけて幸せになる覚悟はあるか!?」
「アタシは、アタシは・・・・・・・・」
栗栖は俺の最後の問いに言いよどむ。
いくら待っても栗栖がそれ以上言わないので俺はここまでだなと思い話を続ける。
「覚悟できないか?
なら俺は絶対に栗栖をパートナーに選ぶことはできない」
俺が言い切った瞬間俺の腰に感じていた栗栖の腕の力がなくなる。
栗栖が腕を離し俺から体を離した後俺は栗栖に落とし前をつけたいと言う。
「でだ、俺は一方的に話して無理やり関係を終わらせるようなことはしない。
今日このことを言ったということは告白されてから今まで中途半端な態度でいたことで栗栖の心を弄んだということになる。
だから俺はそのことへの落とし前をここでつける。
落とし前としてここで俺のことを殴るなりぶつなりなんでも好きにしてくれ。
無茶苦茶な要求をのませるというのでもいい」
栗栖が俺の言葉を聞き考え始める。
数分くらい経ったところで栗栖が口を開く。
「何にも思い浮かばない。だからいいよ」
「栗栖、俺に何してもいいんだぞ」
「いい。そんなことしても何にもならないし。
結局今回のことはアタシに伊良湖に降りかかるかもしれない運命に向き合い付き合う覚悟がなかった、それだけのことだから」
「いやそれでは俺の気が」
俺は栗栖の言葉に驚きそれでは気が済まないと言おうとしたが栗栖が語気を強めて言う。
「いいから。
今までアタシとデートしたりしてくれてありがとう。
アタシにたくさんの思い出をくれて、アタシに恋を教えてくれてありがとう。
それじゃあ、今までありがとう。さようなら」
栗栖が俺に別れの挨拶をして駅の改札がある方向へ小走りで向かう。
「・・・・・・・・・・ああ、さようなら」
俺はその背中を見ながら栗栖に別れの挨拶を返す。
栗栖との関係に終止符を打った俺はゆっくりバイクへ戻り家へと戻った。
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2月も終わりという頃の土曜日。
私はお父様に呼ばれお父様の部屋に来ていた。
「彼の攻略はどうだ」
「少しづつではありますが、信用は築けています」
「そうか、それならまぁいい」
彼との関係について近況を報告するとお父様は満足そうな顔をなさる。
「前にも言ったが、彼みたいな警戒心が人一倍強い人間にはそうやって少しずつ信用を得るのが遠いようで近道だ。
くれぐれの焦るなよ。
ところで桔梗の頼みで調べたあの情報は彼は喜んでくれたかな?」
「ええ。今彼からの見返りを何にするかについて考えています」
私のその言葉を聞いた瞬間お父様がいいことを思いついたと言う顔をなさる。
「桔梗、その言葉から察するに見返りはまだ貰ってないんだな?」
「ええ」
「その見返り、しばらく保留にできないか?」
お父様がそうおっしゃるので私はお父様に牽制する。
「お父様、見返りはお父様に対してのものではなく私に対してのものです。
余計な真似はしないでください」
「あの情報を調べたのは俺だぞ。
だからその見返りは結局は俺に対する見返りってことだぞ?
違うか?」
お父様のその反論に私は言い返せない。
「彼から提案があっても拒否して見返りを引き延ばせ。
いいな?」
「・・・・・・・・・・・・・はい」
「よろしい。今日はもう帰っていいぞ」
「はい、失礼いたします」
私はお父様に言い返すことができず結局お父様の言いなりになってしまった。
私は自分の部屋に戻る途中自分の意志の弱さを自分で恨んだ。
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