6-5-6 俺は栗栖から放たれた言葉に気持ちが
「ああ、久しぶり。そこ、座って」
俺はベッドの横にある姉が持ってきていた椅子に座るように言うと栗栖がありがとうと言って座る。
「体調、大丈夫?」
栗栖が体調を聞いてくるので大丈夫と答える。
「よかった。全然来なくてごめんね」
「いや気にしないでくれ。
ここに入院してるってのは誰かから聞いたのか?」
「うん。担任の先生に聞いたらここだって」
あれ、担任教師がなんで俺が入院してる病院を?
いや、そういう情報はさすがに知ってるか。
それより、栗栖がヤツらからターゲットにされてないかを聞かないと。
そう思い俺は栗栖に問いかける
「それより、栗栖は俺が来なくなってから何か嫌がらせとかされてないか?」
「うん、大丈夫。伊良湖が入院してからも全然アタシに当たってくる人はいなかったよ」
「ならよかった」
俺は栗栖のその報告に安堵する。
だが栗栖がやせ我慢してる可能性も否定できないから後で本当か調べておこう。
「それにしてもどうして今のタイミングなんだ?」
俺が素朴な疑問を口にすると栗栖は表情を曇らせる、
俺は顔を曇らせたのを見てもしやと思った。
そして俺のその予感は的中した。
「実はさ、あの後伊良湖のこと、調べてたんだよね」
ああ、やっぱり嫌な予感はよく当たる。
ということはついに俺が何者なのか栗栖に知られてしまったと言うことか。
となると次に栗栖から発せられる言葉は自ずとわかる・・・・・・・・。
「伊良湖さ、バイクのレースですごい活躍してるんだね。
今まで散々アピールしててアタシ、伊良湖がそんなすごいヤツだって知らなかったよ」
「・・・・・・・・・」
俺は栗栖の言うことを黙って聞いている。
恐らく栗栖が言うであろう一言に備えて。
「だからさ伊良湖、もう十分すぎるほど活躍したんだからさ・・・・・・・・・・・
これ以上他の人から嫌がらせされるくらいならもうレース活動をやめようよ。
今日来たのはお見舞いというのもあるけどアタシはそれ以上に伊良湖にそれを言いたかったんだ」
栗栖からのその一言で俺の脳内でリレーが壊れる音がした。
やっぱりか。
栗栖に俺の人生も人格も存在意義も全て否定された。
栗栖の一言からその思いがどんどん俺の頭の中に広がっていく。
「アタシ、伊良湖がなんであそこまでイジメに慣れてるのかなってずっと思ってたんだ。
伊良湖が入院してから今まで伊良湖のことを調べてておおよそでわかったんだ。
伊良湖はたぶん今までレース活動してきていろいろ嫌がらせを受けてきたから慣れてるんでしょ?
だから、さ。もうレースで十分活躍したんだから活動をやめて別の道を探そうよ。頭いいんだからさ。
そうすればもう傷つけられることはないよ?
アタシはこれ以上伊良湖が外野から誹謗中傷されるのを見たくないし伊良湖がレースで事故して死ぬかもしれないって思いながら日々を過ごすのはもっと嫌だよ」
栗栖から発せられる言葉を何も言わずに訊く。
俺にとってレースに出るというのは人生そのものだ。
それ以外の人生など存在しないのだ。
レースの世界を生きていない俺は俺じゃない。
俺にはレース意外にない。
だからこそ俺ははっきりと栗栖に言う。
「ね?伊良湖、別の道が駄目だったときはアタシがなんとかするから、さ」
「・・・・・・・・・・断る」
俺は栗栖の言葉に断固とした拒絶の意志を示す。
だが栗栖は俺の言葉を聞いてもなお諭そうとする。
「伊良湖、もう傷つきたくないでしょ?
もう他の人から指さされたくないでしょ?
ねぇ、もうやめようよ」
栗栖がすがるように言う。
確かに栗栖の言う通り、レースの世界にいたことで数多の人間に傷つけられてきた。
後ろ指さされることも未だにある。
その世界で生きてる中で様々な使い古されたエンジンオイルなんてマシに思えるほどのドロドロに汚れた現実も見てきた。
それでも、例え好意を寄せてくる人間の頼みでも俺はレースの世界から絶対に引かない。引くわけにはいかない。
まだ達成してない目標も数多あるしまだ挑戦してない競技もある。
誰に言われようとこんなことでレースをやめるわけには、いかないんだ。
「だが断る」
「・・・・・・・・・そうだよね。
すぐすぐ諦めろと言われても無理な話だよね。
ごめん、アタシ今日はこれで帰るね」
栗栖がそう言って小走りに病室を去っていく。
俺は如何ともしがたいもやもやが脳内を支配する。
俺は勉強する気にならなくなったのでまた資料を作り始める。
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