5-3-7 俺は綾瀬先輩の家から帰れない
「健一郎くん、課題は現時点でどれだけ進んでるかしら?」
俺は綾瀬先輩に課題の進捗状況を聞かれる。
「物理は全部終わって数学もほぼ終わりです。
現文・古典・化学・リーディング・ライティングは手すらついてません」
俺は今の課題の進捗状況を綾瀬先輩に聞かれたためそう報告する。
「綾瀬先輩のおかげで今日中に1教科終わらせることができました。
ありがとうございます」
「それは健一郎くんの実力よ。私は助力をしただけ」
「それでもです」
俺が感謝の言葉を言うと綾瀬先輩は謙遜する。
「でも、課題はお互いまだまだあるわよね・・・・・・・」
「でもこのままいけば8月入ったくらいには終わると思います」
「そうね。早ければそのくらいね」
俺は綾瀬先輩とそんな会話をしていた時にふとそう言えば、と思い窓の外を見る。
見るとすでに日は落ちており何時だと思って時計を見るともう夜の真っただ中という時間になっていた。
帰らないとまずい時間なので俺は綾瀬先輩にもう帰る旨を伝える。
「綾瀬先輩。
もうこんな時間ですしもう帰らないと親が心配します。
なので俺は帰りますよ?」
俺はそう言ってスマホを取り出し家に帰るために姉に迎えに来てほしいと電話しようとした。
がその時綾瀬先輩が突然それを止める。
「待って」
俺は綾瀬先輩のその制止に一瞬手を止める。
だが俺は構わず姉に電話しようと画面のダイヤルボタンをタップする直前その手を綾瀬先輩に捕まれる。
「健一郎くん、うちに泊まる気はないかしら?」
綾瀬先輩が俺の手を掴みそんなことを言う。
だがそれは今日1日来ればいいという綾瀬先輩自身が言った約束を自分から反故にするということだ。
俺は綾瀬先輩にそのことを問い詰める。
「綾瀬先輩、今日1日という約束でしたよね?それを反故にするんですか?」
そう綾瀬先輩に尋ねると綾瀬先輩は閃いた、という顔をして言い訳をする。
「私は今日1日来てほしい、と言ったのよ。
課題を一緒にするのは1日だけとは言ってないわ。
だから約束を反故にはしてないわ」
「いやいやその論理には無理があるでしょう。
確かに来るという行為は1日だけですがだからといってその言葉で課題をここでするのは1日ではないと解釈するのには無理が」
俺が論破しようとした矢先、綾瀬先輩は
「お、お父様に今日健一郎くんが泊っていいか確認してくるわね」
と言って物凄い速さで部屋を出ていく。
虚を突かれた俺は綾瀬先輩を追いかけようとしたがドアを開けて周りを見渡した時にはすでにいなかった。
馬鹿なっ早すぎる・・・・・・!
だがならすぐにでも姉に電話するまでだと思い俺は姉に連絡を入れる。
「もしもし姉さん?」
「あ、健くん。もしかして用事が終わったから迎えに来てほしいっていう電話?」
「そうです。すぐにでもお願いします」
「わかった。すぐ行くね」
俺は姉との電話を素早く終える。
だが数分して今度は姉から電話がかかってくる。
「もしもし」
「もしもし健くん?今大丈夫?」
「・・・・・・・・もしかして迎えに来れないっていう電話ですか?」
俺はなんとなく察しがついたので姉に訊く。
すると姉はそう、と一言申し訳なさそうに言う。
「お父さんがね、待てって止めてきて。
どうしてって聞いたらどんな手を使っても敷地内に入れないから行っても無駄だって。
だから諦めろって」
敷地内に入れない?
ああ、そういうことか!
確かにあのセキュリティシステムじゃ入ること自体まず不可能だろうな。
合点がいった。
「わかりました。ですが何も起きないように私も善処します」
「うん。まぁこういうときのためにアレを健くんのカバンや服につけたんだし」
「ああ、なるほど」
そう、俺が今日綾瀬先輩の家に行く準備をしているとき、行き先を聞いた姉が俺の服やカバンに超小型カメラとマイクを素早く取り付けていたのだ。
そのカメラやマイクは見た目にはほとんどわからずしかも防水防塵ぼバッチリで撮った画像やデータは家のPCに保存されるようになっている。
なので壊しても全く意味がないし何個もついているので全部見つけるのは恐らく不可能だろう。
「健くん、そういうことだから気を付けてね」
「はい、それじゃあ綾瀬先輩が戻ってくる前に切りますね」
「うん。それじゃ」
俺は姉との通話を切る。
部屋の中で綾瀬先輩の帰りを待っていると綾瀬先輩がうれしそうな顔をして戻ってくる。
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