エピローグ
「うう……もう限界だわ」
ティア姉が口を押さえてよろめきながら歩く。
アイリ以外の皆も同じような状態だった。
エカにはいったんオウルを経由してから、名前も知らない街近くの冷却の魔道具まで送ってもらった。
アイリはこのままヴィロラ辺りまで送ってもらおうと主張したけれど、ヤスカが強硬に反対した。馬車や荷物が置きっぱなしだからだ。
それに何よりアイリ以外の体力が持たなかった。
冷気と強風が吹き付けて凍える様に寒いし、初めての飛行で怖いし、何よりふわりとした感覚が三半規管を揺さぶって酔うのだ。
吐いて謝るシルヴィを見ては、アイリも折れざるえないだろう。
「ここまでありがとね。エカ」
ティア姉がお礼を言うと、人間の姿に変態したエカは満面の笑みを浮かべていた。
「ホントにこんな所で良いのか。タンペレに行きたいなら乗せてゆくぞ」
「ありがたいけど、人間には無理。エルフでもあれだもの。それより服を着て」
幌馬車の中で横になっているシルヴィを見ながらティア姉は言う。
エカは指をパチンと鳴らすと、ふわりとワンピース姿となる。
「そうか、それは残念だ」
本当に残念そうだった。人を乗せて飛ぶのが好きなのかも知れない。
「また何か用がある時は呼ぶが良い。そうだ、タンペレに行くなら、またわっちの屋敷の前を通るな。盛大に持て成す故、寄っていくが良いぞ」
「今日は本当に助かったわ。またね、エカ」
「うむ、それではまただな」
エカは翼を羽ばたかせると、一気に上昇して飛んで行ってしまった。
「さて、これでやっと勇者を追えるようになったわね」
ティア姉は厄介ごとから解放された様な爽やかな笑顔で言った。
「行くわよリータ。勇者を探しに!」
またスタート地点からの捜索となるけれど、ティア姉とならどこまでだって行ける気がした。