5、交われぬ二人
先週は更新できず申し訳ありませんでした……!
「では、検討を祈ります」
「そちらこそ」
二度目のダンスを終え、互いに深々と礼をする。次のダンスは誰かの誘いを受けなければならない。ある程度相手を選べるとはいえこの後のことを考えるとまた胃の辺りがキリキリし始めた。腹をくくりぐるりと周りを見渡してみれば近くに人がいない。しかしながら視線は感じる。皆に見られながら遠巻きにされるという並の令嬢であれば怯えてしまうかもしれない状況に、シャルロッテは首を傾げた。
(もっと殺到するものかと思ったけど、みんな意外と遠慮がち……?)
人気がないのなら良いのだがみんな何故かこちらを見たまま困ったように近づいてこない。中には慌てたように後ろに引っ込む者さえいる。
状況の理解ができず、扇で顔を隠しながら首をかしげているとカツンと後ろで足音が響いた。
「シャルロッテ嬢」
心臓が飛び上がるかと思ったが、持ち前の鉄仮面でその場に踏みとどまる。まるで、もともと気づいていましたよと言わんばかりの微笑でゆっくり振り返り、誘いの相手を見上げた。
あまりにも聞き覚えのある声だった。浮かべられている微笑みはいつもと違い、背筋が凍るほど冷たい作り物だったが。
「私と踊っていただけるかな」
「まあ、光栄ですわ。殿下」
微塵の動揺も見せず、差し出された手を取る。
この場には両陣営が出席してはいるが、第一王子派が圧倒的に多い。ここで誘いを断ったり動揺すれば派閥全体に影響が出るだろう。マティスフィアはそれを狙っているのか、それとも……。
「こんなに早く仕掛けてくるなんて思いませんでしたわ」
「未来の義姉君と交友を深めたいと思うのは当然だろう?」
「ふふ、そんな心にもないことを」
傍から見れば穏やかに交流する二人に見えるだろう。微笑み合い、和やかにダンスを進める。お互いに敵意を丸出しにする訳にはいかない立場だ。だからこそなおさら、こんなにも大胆に接触してくるとは思わなかった。こんなに直接動かずとも、友人の貴族子息を使えばいい。直接ダンスに誘わなければ話せないこととは、一体なんだろうか。普通なら見当もつかないが、シャルロッテにはひとつだけ心当たりがあった。
「どうせ、あの子の為でしょう?」
「…………」
「いけませんわ、もう少し飄々としませんと」
恐らく表情に出すまいと思ったのだろうが、逆に無表情になった事で反応が割れてしまっている。こんなに迂闊な人ではなかったはずだが、“シャルロッテから”切り出されるとは思わなかったらしい。
「今日のパーティに出席されたこと自体、少し驚いたんですの。以前とは状況が違いますから」
「……国の守りの要たるフリーレン家との繋がりを薄めるわけにはいかぬからな」
「本当にそれだけ?」
にこにこと笑いながらそう茶化せば、マティスフィアの眉間にシワが寄る。先程までの張り付けた笑顔をよりよっぽど良い表情だ。残念だが、シャルロッテとして話を引き出すにはこうして仮面を引き剥がすしかない。
「……性格が悪いと言われるだろう」
「あら、初耳ですわ」
音楽は中盤を過ぎた。そろそろ本題に入らねば話を出来る時間は終わる。シャルロッテは促すようにマティスフィアの瞳を見つめた。マティスフィアはパチパチの瞬きをし、観念したように口を開く。
「単刀直入に言う。シャルルを手放す気はないのか」
「手放すだなんて、彼は私の玩具じゃありませんわ」
「問いに答えろ。どれだけ勧誘しようがシャルルは貴様の名を上げるからな。ずいぶんお気に入りだそうだな?」
(あー、遂に来たか)
歳を重ねるにつれてマティスフィアからの勧誘は直接的なものになっていった。それをかわすのにフリーレン家自体を盾にし続けるのははばかれて、自分に降りかかるならば良いかとシャルロッテに被せ続けていた。シャルロッテという主がいる限りそちらに行くのは不可能だと。実際、シャルロッテとシャルルは切って離せない存在なのだから嘘は言っていない。
「……シャルルは私の影。光があれば影が残るように、現れた残滓のようなものですわ。切り離せるようなものではありません」
「貴様……」
「私たちがどう望もうが、それは関係のないこと。……つくづく、貴族というのは面倒なものです」
マティスフィアは何も言わない。彼の心には何が宿っているだろうか。シャルロッテへの怒りか、それとも言葉の真意を汲み取ろうとしているのか。どちらだったにしても二人の関係は変えようがない。
「そうそう、忘れるところでしたわ。殿下はこの夜会のあと、少しお時間があるのかしら」
「……どういう意味だ」
「我がフリーレン家には広大な庭がありますの。その中でも薔薇の花園は見惚れる美しさ……ああ、でも、氷雪の星を見るにはその先の小さな広場が良いかもしれませんわ」
「!」
(読みが早くて助かるわー)
薔薇の花園は生垣が高く、抜けるまで先の広場は見えない。広場自体、それぞれの花園に囲まれた経由地点のため、どこかの花園を抜けなければ見えない。言わば隠れ家のような場所なのだ。密会にはもってこいである。
「楽しいひとときでしたわ、殿下。夜会から飛び出すようなことがないと良いのですけれど」
「舐めるな、そこまで愚かではない。……伝言感謝する」
見た目は何事も無かったかのように、二人は礼をし別れる。当たり障りのない交流を行ったのだと周りには見えるだろう。その実、マティスフィアは少し浮き足立って壁へと向かい、シャルロッテはそんな彼を楽しげに眺めていたのだったが。
(追記)次回更新も訳あって規定の時間には厳しそうです…!
土曜日に更新しようと思います……




