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33.王子様のはじめてのおつかい

更新が遅れてすみません!予約し忘れていました……


「よってらっしゃい見てらっしゃァァいッ」

「青海からやってきた珍味だよ!」

「山菜はいらんかー? 今朝採ってきた新鮮な山菜だぞー!」

「……これが市場か。盛況だな」

「ここバースクの街は国境付近の港と内陸の山脈を結ぶ交易街ですから、商人がたくさん立ち寄るんですよ」


フリーレン家がこの街に居を構える理由もそこにある。最も内陸に近いフリーレン領だと言うのもあるが、主な収入源であり、国としても重要なこの交易街に何かあっては困るからだ。国境へのアクセスも良い。領主が家を持つには良い場所だ。


「おお、シャルルじゃねぇか! おい寄って行けよ!」

「今日も元気だね、親父。なんか良いものでも入ったの?」

「おうよ!」

「あら、駄目よシャルル。今の親父さんに捕まったらしばらくは逃げられないわよ。こっち見ていきなさいな」

「あぁん? 女狐、テメェこそ長居させる気満々じゃねぇか! なんだその茶の準備は!」

「今日は暑いもの。ねぇ?」

「……人気者だな」

「あのふたりいつもああだから気にしないでくださいね。僕が、っていうよりは言い合いするのを楽しんでいるんですよ」


妙齢の女主人と親父が口喧嘩している間にシャルルはフィーの手を引いてその場を離れる。あまりここで時間を費やすわけにもいかない。頭が冷えた頃にまた来よう。


「なにかお土産でも買って帰りますか? オリヴィエール様とか泣いて喜びますよ」

「どうせそこらで隠れて付いてきていると思うがな。だがまあ……そういうのも悪くないか」

「でしたらもうちょっと奥に行きましょうか。装飾品とか値が張るものはもっと奥で出店しているので」


親父たち以外は、と付け足しながら人をかき分け進む。装飾品や実用品、古服などは食品に比べて高く、盗難も出やすい。そのためより警備の厚い奥で屋台を構えている。本来高級品などは市場ではなく専門店で売られているものだが、行商人の多いこの街では割と市場で色々なものが揃う。


「筆記用具が市場で揃うのか……? 普通商会で買うものだろう、これは」

「全然質が違いますので。この辺りで売っているのは代筆屋とか宿屋とか、店で使うことを前提にしているのでシンプルかつ長く使えるものしか売ってませんよ」


貴族の使うような装飾過多な羽ペンなどはもちろん売っていない。枝を削って補強したペンだとか、詰め替えられるインクなどが並んでいる。


「多分オリヴィエール様は実用性を重視すると思いますがこの辺りで買えるものはたかが知れているので、あえて飾りとかが無難だと思いますよ」

「飾り……」


バンダナを巻いた気のいい商人の店で、商品とにらめっこし始めたフィーをシャルルは微笑ましく見守った。自分の従者にお土産など、今日まで考えたこともなかっただろう。だがこの真剣ぶりを見るだに、オリヴィエールへの懐き方は推し量れるものだ。少しオリヴィエールを羨んでしまうな、などと思いながらシャルルは視線を巡らせた。


(……ん? 向こうがなんか騒がしいな)


男女の争うような声が反対の屋台の裏から聞こえてくる。向こうは噴水のある広場だったはずだが……。


「……シャルル、シャルル」


ちょんちょんとフィーが袖を引いてきたことに気がついてシャルルは振り返る。声を出せば男だとバレてしまいかねないフィーは、シャルルを通して交渉するしかない。まあシャルルにはこの場に不慣れなフィーに交渉させる気は初めからなかったけれど。


「これにする」

「獅子のコルク飾りですか。はたまた渋いもの選びますねぇ」


かつてワイン瓶の蓋に使われていたであろうコルクは、獅子の模様を彫られ針金を通されて、飾りとして生まれ変わっていた。自立するそれは、机に置いても良し壁に掛けても良しの良品に見える。


「お兄さん、これ良いコルクだね。年代物?」

「おっいい所に目をつけるね。それはな、俺の秘蔵酒のコルクだったんだ。旅の傍ら彫って見たんだがいい出来だろ?」

「へぇ、お兄さんが作ったの! 意外に上品な出来だね」

「お前それ褒めてんのかー?」


ゲラゲラ笑っていた商人はシャルルの後ろに隠れるフィーに気がついた。新人騎士の裾を引く幼いお嬢さんに若い商人はニヤニヤとシャルルを眺め始める。シャルルはその視線にウィンクをして応え、フィーの手を握った。


「かーッ! 見せつけてくれるねぇ坊主! 気に入った、まけてやるよ」

「いいの? ありがとう。またこの街に来たら贔屓(ひいき)にさせてもらうよ」

「いいってことよ。どうせ俺ら根無し草には無用の長物だからな。でもお嬢さんのお土産なら可愛いもんの方がいいんじゃないか? 確か兎なんかも彫ったはず……」


ゴソゴソと探し始めた商人を見て慌ててフィーが首を振った。これ以上女扱いされて溜まるかと憤りつつも正体が露呈するのを恐れて声を出せない彼は、シャルルへ頼るように視線を向ける。その様子があまりにも可愛らしかったのでシャルルはからかうのを止めて商人に声をかけた。……手に食いこむ爪が痛いからという理由もある。女装していても流石は男だ。これ以上焦らすとシャルルの腕が燃えかねない。


「お兄さん、フィーは獅子がいいんだってさ。兎は僕がもらうよ」

「おいおい、騎士様が少女趣味か?」

「フィーとの思い出だからね」


全く口がうまいと笑われながらシャルルは二つ分の料金を支払った。今フィーはお金を持っていないので立て替えている体だが、シャルルとしては返してもらわなくても良いという気分だった。対価はフィー、もといマティスフィア自身にたっぷりもらっている。


「袋はサービスだってさ、フィー」

「この辺りでは紙袋さえ有料なのか?」

「コルク飾りだけだったら包んでもらえないことなんてザラだよ」


悪態を吐きつつも嬉しそうに紙袋を胸に抱くフィーは、初めての買い物にずいぶんと浮かれているようだった。実際の交渉や支払いはシャルルがやったとはいえ、外に出て自ら選び受け取ったのは初めての経験だ。忙しくて引きこもり気味の王子様が浮かれるのも無理はない。


「じゃあ少し市場から離れるけど甘味でも食べる? フィーの口に合うといいんだけど……」

「はっ、離して! いい加減にしてよ!」


女性の甲高い悲鳴が、緩んでいた二人の空気を突如切り裂いた。


幼少期編ももう少しで終了です。いよいよ舞台は学園に! ……乙女ゲームの名称が雑すぎる?それ作者が一番思っていますので近いうちに修正が入ります。ハイ(;゜Д゜)

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