訓練兵寮
入隊式は拍子抜けするほどあっさりと終わり、翌日から早速訓練が始まった。
「死ぬわ……」
留はそう呟くと固いベッドに倒れ伏した。
留は神子という立場のためか個室を与えられていた。
他の訓練兵は4人で1部屋が割り当てられている。
これほどまでにない特別待遇だ。
たとえそこが、元納屋で窓もない一室だったとしても。
そこは埃臭い部屋だった。
窓もないため当然昼夜問わず暗い。
常にランプの灯りが灯されている。
灯りの源は留の魔力だった。
だが、留には好都合な部屋だ。
ランプを消してしまえば広がる闇は、彼女に隠し事を容易にさせた。
とはいえ。
「嫌だ。何もしたくない」
その元気があれば、の話だ。
もうすぐ夕食準備の時間だが夕食の時間が近いというだけでも吐きそうだった。
初日の訓練では、疲れすぎて食べたものを吐いた。
延々と走らされ、延々と壁を登り、延々と筋力を鍛え、延々と素振りをし、延々と怒鳴られる1日。
座学は長くても半日程度だ。
それ以外はひたすら身体を苛め抜く。
訓練が始まってまだ数日。
慣れるにはまだ時間がかかるだろう。
だが、弱音は吐けない。
逃げるわけにもいかない。
ドアがノックされた。
「はい」
重い身体を引きずってドアを開ける。
そこに立っていたのは、教官の1人だった。
「ザイン教官」
いつか3人を護衛していた彼だった。
教官もれっきとした軍人だ。
数年の間に護衛任務から教官の任に移ったのだろう。
「書類に不備があった。至急教官室まで来るように。夕食準備は免除だ」
「あ…はい」
ついいつものように返事をすると、険しい顔で睨まれた。
大声で言いなおす。
「失礼しました!了解です!」
「よろしい」
慣れなければ。馴染まなければ。
ザイン教官の後を急いで追いかける。
この場所は通過点だ。
あの2人を支えるための。
あの2人と共にいるための。
そして。
この物語の結末への。
くだらない、異世界のゴタゴタに巻き込まれて命を賭けるのはごめんだ。
その前に幕引きをしよう。
そのためには今、ここですべきことがある。