歌
ただ、なんとなく。
口ずさまれた歌に、ケイは奇妙な顔をした。
「なんだ、それは」
「え」
無意識でのことだった。
だから那毱は、はじめ何を言われているのかわからなかった。
「今お前の口から音楽が流れたように思えたが」
気のせいか、とケイは言う。
「歌、ですけど」
怪訝な顔で、那毱は答えた。
「ウタ……?」
おうむ返しの言葉はたどたどしい。
そういえば、と那毱は思う。
この世界に来てから、音楽はあれど、誰かが歌うところなど見たことがなかった。
ーー歌を知らない。
そう言うことだろう。
だからと言って、それがどうという事はない。
「面白いな」
そういうと、ケイは那毱の鼻歌を真似しようとする。
けれど、出てくる音は平坦なままだ。
「どうやっているんだ?」
「どうって……」
「魔法か?」
心底わからないという顔をしたケイは、ひとしきり試みて、最後には諦めた。
「そういえば、あまり起伏が無いというか、平坦な喋り方してますもんね」
ケイに限ったことでは無い。
この世界の住人は皆平坦な喋り方をしていた。高低差が無いのだ。
那毱達は方言のようなものかと思っていたのだが。
ーーそもそも、歌えないのか。
平坦な喋り方しかできない。
そういう作りの身体なのだろうか。
以前誠が話していた。
那毱達にはない器官のこと。
それが関係しているのかもしれない。
「まだ、わからないことばかりね」
この発見を伝えたい相手が1人、足りない。
それがもどかしかった。




