覚悟
ケイの思いもかけない言葉から数日後の夜。3人は屋敷の外にいた。
「へぇ、正直来れないものと考えていたが……」
ケイが感心したように言う。
「鍵開け名人と足場作りの名人がいるんだもの。抜け出すくらいわけないわ」
鍵を開け、箱や楔で足場を作る。そういう情景を想起させるもの言いだが、実際は留の門の力によるものである。
ケイにも、未だ留の能力は偽ったままだった。
「それで、魔族は……」
若干硬い声音で誠が尋ねる。
「こっちだ」
ケイは先頭に立って、地下への階段を降りていく。
「この間も話したが、こいつは眠っているところを発見された珍しい魔族だ」
むき出しの岩壁に、苔の生えた階段。
灯りはケイの持つ松明のものだけだ。
「基本的に何をしても起きない」
「殺せない理由は」
「眠った状態で100人は殺したな」
魔王を倒した後、眠りについた魔族の中で、なぜか人間の領域で眠りについた魔族。
殺そうと試みたことは何度もある。
けれどその度に、人間の死者が増えていった。
「寝相が悪いのね」
留が言う。
その言葉に、ケイは乾いた笑いを漏らした。
「害意とか、殺意に反応しているんだろう。お前らも死にたくなければ敵意を向けるなよ」
「理由がないわ」
「それもそうか」
ケイはまた笑う。
彼だけが饒舌だった。
「ついたぞ」
ケイが松明をかざす。
そこには、
「人間……?」
人の形をしたものが横たわっていた。
「まぁ、似てるな」
留が一瞬顔を歪めたが、気づくものはいない。
ーーまずい。
そう思った心の内を悟られないように、3人の後ろに下がった。
魔族が人の形をしている。それは予想できたことではあったが、歓迎することではなかった。
その姿は、殺意を鈍らせる。
二人の、那毱と誠の殺意を。
「見た目の違いは耳と手足か……」
誠が冷静に観察する。
尖った耳、鋭い爪を持つ血管の浮いた手足。
牢の外から見た限りでは、そのくらいしか違いがわからなかった。
「留」
那毱が留に囁く。
「何かあった時、きっと役に立つわ。ここにも門を」
「……」
「どしたの?」
那毱が尋ねる。留は少しの間、沈黙した。
「いや、冷静だな、と」
誠にせよ、那毱にせよ、もっと動揺するものだと思っていたのだ。
「覚悟は、してるわよ」
とうの昔に。
そう言って、那毱が笑う。
「かなわないわね……」
結局のところ。
一番甘かったのは自分か、と留は苦笑を漏らす。
傷つけたくない、汚したくない。
そう、考えていたけれど。
二人はとうに、覚悟していたのだ。傷つくことも、傷つけることも。汚れることも、全部。
「部屋に戻ったら情報を共有したい」
魔族から目を離し、誠が言った。
「そうね。洗いざらい、白状するわ」
「私も、かな」
この短い期間の単独行動の結果を。
己の考えを。
「なんだよ、俺は除け者か?」
「当然でしょ」
ケイに軽口を叩く。大丈夫だ。
「腹括ったわ」