第2章 そして歯車は動き出す
「そろそろだと思うのよね」
ふと、そんなことを言い出したのは留だった。
この世界に飛ばされて数年が経っていた。
まだ子どもの姿ではあるが、身体にも環境にも馴染んできたところだ。
「なにが」
書き物をしながら、誠が訊く。
「私が二人の前からいなくなる時」
天気の話でもするような、軽い口調で留が言う。
「……」
同じく書き物をしていた那毱が、ちらり、と留を見やる。
「確かに、王都奪還が果たされそうだとは聞いている。情勢は大きく動くだろうけど」
「急だな」
「まぁね」
三人は未だハインケル邸に身を置いていた。イネスとケイも、王都に戻れずにいた。
「昨日、イネスさんに兵に志願するかと聞かれたわ」
「兵に?」
イネス曰く、留には三つの道があると言う。
「政略結婚の駒にされるか、力を使い世界に貢献するか」
「兵となるかって?」
「そう」
二人のそばにいるためには、道は一つしかない。
「世界貢献できるような力ではないから、結婚か兵か、というところね」
二人の役に立とうと思うのなら、政略結婚を受け入れるのも手だろう。
今更結婚に夢を見る歳でもない。精神年齢は30に近いのだ。
そばにはいられない可能性が高い。けれど権力者との結婚は、二人を守る力になるかもしれない。
そこまで考えて。
けれど、三人は決めていたのだ。
「兵か……留さん、また一人苦労を背負うのか」
「運動音痴で身体小さいのに……私心配」
「それね」
あはは、と笑う。
選択肢を三つ出された瞬間、答えは決まっていた。
なるべく近くで二人を支える。それが留の願い。
できる限り長く、互いの側にいるのが三人の願い。
「兵に志願することになれば一時的に離れることになるわけね」
「仕方ない」
「ま、兵になるかはわからないわよ」
笑いを納めた留が言う。
「その前に殺されそうだから」




