暗い夜に
ちょっと、グロいかも知れません。
実際場面はでてきませんが、解剖します。
「あんたが人の感情の機微がわかる類の人間だとは思わなかった」
事前に指定していた場所でケイと落ち合うと、二人はランプの灯りを頼りに暗い夜を進む。
「わかるさ。むしろ私は、そういうのに聡い方だと思っているぞ」
「意外だ」
「あの2人なら納得しそうなんだがな」
ケイが笑いを漏らす。
「人間の感情ほど、面白い見世物はないぞ」
「悪趣味な奴」
上機嫌なケイと対照的に、誠は不機嫌そうに言う。
「悪趣味なのはどちらかな?」
「……」
「人の死体を欲しがるなど。何をするつもりだ?」
ーーなるべく損壊の少ない、大人と子どもの、男女の死体が欲しい。
ケイと取引をした日、誠はそう言った。
「あの2人に見せる気は無いんだろう?現に今、連れてきていない」
「…あんたもあまり、見ない方がいいと思うぞ。明日肉が食べたかったらな」
あの2人に気づかれないよう、自分にだけ情報を流してくれたケイへの、せめてもの警告である。
「人の中身が知りたいんだよ」
「中身?たまに獣に食われている奴ならいるが」
「……それ見てるなら平気かもな」
余計なお世話だったかもしれない。そういえば自分たちも、危うく獣の餌になるところだったのだ。
「小さくて切れ味のいい刃物、ちゃんと用意してくれたか」
「あぁ。高かったぞ」
「そりゃどうも」
話している間に、2人は薄汚れた小屋に着いた。
ハインケル邸の外れに位置しており、見張りもいない。
「よく持ってこれたな」
「ま、特権があってな」
ケイは高位の魔術師らしい。どれだけの地位なのかはまだわからないが。
多少の無理が通るくらいには権力者なんだろう。
小屋の鍵を開けて、中へ入る。
薬草らしき匂いがした。
「人払いは済んでいる。存分にやるがいい」
「……感謝するよ」
誠は亡骸に手を合わせると、静かに作業を始めた。
「……お前、正気か」
帰り道、若干顔を青くしたケイが言った。
「普通、あんな事思いつかねぇよ」
誠達の世界でいう解剖…の真似事をした誠に、悪魔にでもあったような目を向ける。
「……コロシアムと何が違うんだか」
つぶやく言葉は、拾われなかった。
「血の匂いがするな」
服は着替えているのだが、匂いが染みついている気がする。
「川で洗え」
ケイが指差す先から、水の流れる音がした。
2人で川に入り、身体を洗う。
「それで、知りたいことは知れたのか」
「……あぁ」
ケイの問いかけに、誠は小さく頷いた。
身体を開いてわかったことがある。
「ほとんどの」器官は自分たちと変わらない。
ただ、肺に、自分たちには無い器官が備わっていた。あれは、なんだろう。
大人達のその器官は、子ども達のそれと比べて硬く、色も違って見えた。
成長とともに変化する器官なのか、それとも。そもそもなんのためのものなんだ?
思考を巡らせる。
「……ケイ」
身体を拭きながら、今度はケイに尋ねる。
「神子は、どのくらい生きるものなんだ」
導き出した仮定は…絶望をもたらした。