必要な物
「交渉成立だ」
ケイは3人が頷くのを見ると、満足げにそう言った。
「何言ってんの」
硬い声はそのまま、生意気さを足したような声をだしたのは留だ。
「交渉はこれからでしょう」
「契約内容の確認ね」
留の言葉に続けて、那毬が言う。
「内容?」
ケイが首をかしげる。
「私たちとあなたの立場を明らかに」
「取り決めも決めて」
「互いに何ができて何ができないか」
「当面の必要な物品の確認もしてしまいましょう」
矢継ぎ早に二人の女性陣から出る言葉に、男二人は感心の目を向ける。
「慣れているな」
「まぁ、遊んで暮らした20数年間ってわけではないからね」
「なるほど。で?」
頷いて、ケイが促す。
「そうね…あなたは私たち3人と契約を行うってことでいいのよね?」
「そうだな」
「もらうばかりとはいえ、立場は対等だと言わせてもらうわ」
「構わん」
「契約の破棄について、お互いに事前の了承を得ること。一方が…死亡した場合には自動的に解約」
「破棄については正直、事前に言ってくれるとは思っていないけれど」
「形だけでも、ね」
日本語で書かれた契約書が書き上がっていく。
おそらくケイにも読めるものになっているはずだ。
「まぁ、法的効力も何もないのだけど……」
苦笑交じりに那毬が笑う。
「効果、つけてやろうか?」
そう言ったのはケイだ。
意外そうな3人の目に、ケイも苦笑する。
「そんなに信用されていないというのもつまらんしな。契約するときの魔術がある。反故にした場合、それ相応の罰が相手に下されるものだ」
「でもあなたがかける魔術がそれだとは私たちに判断できないわ」
うっかり危険な魔術をかけられたとしても、今の彼らに判断はできないのだ。
「楔の神子様は疑り深いな」
信じていないのは他の二人も一緒だ。
「……仮契約、ということにしよう。一ヶ月後、改めて契約を結ぶ。その時その魔術をかければいい」
提案したのは誠だった。
「俺は構わん」
ケイの言葉に、他の二人も頷いた。
「じゃあ、私たちの求めるものだなんだけど…」
取り決めに関する内容を詰め、次の段階に移る。
「具体的に言ってくれよ」
ケイの言葉に3人はふむ、と考えるそぶりを見せる。
「世界地図、この世界の情勢に、中立な歴史の概要。あ、お金ある?あればいくばくか欲しいわね。あと、庶民的な服を人数分。町にも出てみたいわ」
「魔術について知りたいわね。あと神子に関する情報。私たちに扱える武器、魔族のことも知りたいし…紙やペンもいるけど…それらを保管する場所もほしいか…」
矢継ぎ早に那毬と留が喋り出す。
「ちょっと待ってくれ。一気にはさすがに無理だ。俺にも限界がある」
呆れたようにケイが二人を止める。
よほど情報に飢えていたのだろう。何も知らないことほど恐ろしいことはない。
「どこまでなら可能なんだ」
誠が二人とは対照的に静かな声で聞く。
「…例えば」
その問いに、誠はしばらく沈黙した。
「……体」
「え?」
ーーこの世界に蘭学者はいないようだ。
ーー人の形して喋るから人だと思ってたけど、根本から違う生物の可能性もあるのか。
ならば。
「死体は用意できるのか」
見てみればいい。
その言葉を聞いた瞬間、ケイは笑みを深めた。
とても、楽しそうに。
「あぁ、もちろんだ」