無邪気な願い
箱の中の作戦会議を終えた翌日、朝。
イネスが深刻そうな顔で三人の前に現れた。
「……神子様」
出されたお茶を一口飲むと、三人に顔を向ける。
「王都が、何者かに占拠されたようです。」
「ほう」
反応したのは三人ではなくハインケル伯爵だ。
正直三人はこ事の重大さがわからない。
「誰に、何故」
ハインケル伯爵が尋ねる。
「王都を占拠したものの正体は不明です。声明も何もありません。目的も不明です」
「王たちの身は」
「ご無事だと、連絡がありました」
「ほう……」
「神子様を探すため、我々が王都を離れた隙を突かれた形となりました」
イネスは報告の相手をハインケル伯爵へと移す。実際子どもにこのような話をしてもどうしようもない。
「……国も一枚岩ではない、と」
「どこも同じだな」
三人は2人の様子を怪しまれない程度に観察する。話の成り行きでは、自分たちの処遇にも影響がある。
「素晴らしいタイミングよね。内通者がいたとしか思えない」
「まったくだな」
ぼそり、と2人にしか聞こえないようにつぶやいたはずの留の言葉は、別の人間に拾われた。
「……!」
すぐさま声の主を振り返る。
ケイが立っていた。
「……」
どう取り繕うか。
さほど近い距離でもない。ケイに聞かれているとしたら、イネスもハインケル伯爵も留の言葉に気づく。そんな距離だ。しかし、イネスとハインケル伯爵は、こちらを気にする様子もない。
楽観的にこの状況を分析するならば、ケイの言葉は別の誰かに向けられた言葉の可能性もある。
「魔術……」
那毬が呟く。
「ご名答」
ケイが答えた。
三人に近づく。
「荒事はよしてくれよ、神子様」
「…っ!」
身構えた留の、わずかな敵意に反応するかのように、ケイが言う。
「留さん」
誠が首を振った。
「安心しろ」
ケイが笑う。
威圧的な笑みだ。
「神子様方の事は、知っている。餓鬼のふりしてる事とかな」
とん、と那毬の頭に手が置かれる。
それはわかりやすい、人質。
彼が攻撃的な魔術を使ったところなどまだ見た事はない。けれど、三人とも動けなかった。
動けば、死ぬ。
そう思わせるだけの何かが、あった。
「どうこうするつもりはない。言うつもりもない」
イネスやハインケルのそばで、三人は助けも呼べず、身動き一つできない。
「何が目的だ」
絞り出すような声で誠が聞く。
「強いて言うなら……もっと楽しみが欲しい」
「……?」
ケイが何を言っているのか、言葉としては理解できても意味が理解できない。
「こんなんでボロを出されてはつまらんのだよ」
要は
「もっと踊れ。楽しませろ」
その笑みは、無邪気。
三人は固まったまま、イネスとハインケル伯爵の話が終わるまで動けなかった。




