↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/92

恐れるもの

「ご無事ですか!?」


 闘技場から外へ案内された三人に、イネスが駆け寄ってきた。


「……」

「……」

「……まぁ」


 三人は三人ともひどく疲弊していて、彼らの相手をする余裕すらない。


「本当に……ご無事でよかった…!」


 そう言って三人の前に膝をつくイネスに、裏があるようには思えなかった。

 彼は心底、「神子」という存在を必要としているのだろう。今日一日の中でも、彼がどれだけ「神子」に傾倒しているのか、いやでもわかった。

 だが。

 ――この世界は、どうだろうか……――

 「神子」を必要とし、こうして心底身を案じるものがいる一方、役に立たなければ死ねばいいと、簡単に殺そうとする者までいる。

 どちらが真意なのか、三人ははかりかねていた。


「……疲れた」


 つぶやいたのは留だ。一応の危機を乗り切ったことで疲れが一気に出てきたようだった。今にも座りこみそうだ。


「……魔術の行使は精神的に疲弊する。慣れない身ではつらいだろう」

「ハインケル邸へ行きましょう。あの方ももう無茶をさせるようなことはないと思います。今日はもう、夕食をいただいてゆっくりと休みましょう」


 そう言って、三人を馬車のような乗り物に案内する。


「寝たい」

「おなかすいた」


 那毬と誠も歩きながらつぶやく。

 けれど、考えることは山積みだ。ゆっくり休んでばかりはいられないだろう。


「神子様」


 車に乗り込んですぐ、イネスが口を開いた。硬い表情をしている。


「ハインケル伯爵は乱暴な手段をとりましたが、選別式自体は正しく行われました。力に、目覚められましたね?」

「……」


 直球で投げられた言葉に、どう答えていいものかと三人は口ごもる。

 はい、と頷いてしまうのは簡単だが、三人目の、「箱」と「鍵」以外の神子がどうなるか、この状況ではわかったものではない。イネスは共に行動できる、というようなことも言っていたが、ハインケル伯爵の態度を見る限り、それも怪しいものに思えた。

 能力が判明した瞬間、一人だけ離されることもありうるのだ。それだけは避けたかった。この世界のことを、ほとんど知らない今の状況では。三人以外、頼る者がいない状況では。


「……よく、わからない、です」


 長い沈黙の後、答えたのは誠だった。


「何か、違う、けど……箱とか、鍵とか、よくわからない」


 嘘だった。三人は自分がどのような能力を持ったかをすでに知っている。


「それは、どの力を持っているか、種類がわからない、と?使い方がわからない、と?」

「どっちも……」

「いま、使って見せることは?」


 黙って首を振る。

 那毬も留もそれに倣った。


「……何を、恐れているのですか……神子様」


 イネスの中の疑惑は確証に変わる。この神子たちは、能力を隠そうとしている。文献では、選別式を行った後には能力が発現すると書かれていた。そして、神子たちはその力を、その瞬間から行使できるようになるのだ、と書かれていたのだ。

 彼らはなぜか、嘘をついている。


「……たくさん」

「え?」


 呟いたのは那毬だ。


「こわいこと…たくさん」


 その言葉に、イネスはしばらく口を開けなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。