表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/92

コロシアム2

 獣は三人から一度距離をとった。


「留さん、大丈夫か?」

「まぁ、なんとか」


 服にかすってバランスを崩しただけだ。かすり傷もない。


「無茶して!」

「それはこっちのセリフよ」


 那毬の言葉に、留も少し怒ったように返す。


「……まぁでも、ありがと」


 一拍の後、思い直して留は礼を言った。


「どうしたの急に、気持ち悪い」

「失礼ね。いつ死んでもおかしくないから言っておこうと思っただけよ」

「あー、なるほど」

「お前ら暢気だな」


 獣を目の前に怒ったり納得したり、妙に緊張感がない。


「ごめんごめん。ところで能力が使えるようになったみたいだけど?」

「……そうみたいね。ご丁寧に使い方まで頭に叩き込まれたみたい」

「だな。だが、方針は同じだ」

「りょーかい」

「しかしどうしようね。アラームはうまくいったみたいだけど」


 スマートフォンで設定したアラームは、絶妙のタイミングで期待通りの効果を発揮してくれた。

 だが、次の作戦、次の次の作戦がうまくいくとは限らない。


「命を投げ捨てるのだけはやめてね」

「はいはい。私だって、二度とごめんだわ」

「一番リスキーなことしてるの、留さんな気がするけどな」

「そう?」


 普通、獣の口の中にナイフを突っ込むことができるだろうか。ミスしたら、腕ごと噛みちぎられていただろう。彼女はなにか…リスクを恐れないのとはちがう、自分を軽視しているような感が否めない。那毬の行動もそうだ。互いが互いのためなら、命を投げ出せるとでも言うのだろうか。

 誠はこの世界に来てから二人を知った。だから、彼女たちがどれほどの関係なのかは知るところではない。けれどどこか、異様な気がした。


「さぁ、おしゃべりしてる間に来たわよ!」


 口にナイフを刺したままの状態で、獣が三人に向かってきた。


「相手が四つん這いの状態なら、首に刃物が届く!立たせるな!」

「今度は私がおとりだ!二人は散って!」

 

 ナイフを失った留は、棒を構えて獣を迎え撃つ格好だ。


「チョー怖い…」


 正面からくる獣の威圧感に、足が震える。けれど。


「死なせるわけには、行かないもんね」


 那毬も、誠も、そして自身も、死ぬわけにはいかない。死なせるわけにはいかない。

 コロシアムにつく前、ケイに教えてもらった言葉を思い出す。

 那毬はケイに、簡単な魔術を教えてほしいと頼んでいたようだった。

 そしてケイは、魔術の素養がわずかでも見られた二人、那毬と留に簡単な魔術の呪文を教えてくれた。そうして、持つべき武器も。

 それが、この棒だった。魔術の発動を助ける杖。


「さぁ、あと少し……」


 十分にひきつけたところで呪文を叫ぶ。


「咲き誇れ!大火!」


 イメージは、打ち上げられる花火だった。実際には、小さな火の玉が杖の先に現れただけだ。

 獣が立ち上がって腕を振り上げる。

 同時に、火の玉が音と一緒にはじけた。

 またしても響いた大音と、熱い炎の塊に、獣はひるんだ。


「トーチトワリングっていうの、ちょっとだけやっててね」


 まだ火の燃え盛る杖を、留は振り回す。


「火自体は怖くないんだなー。あなたは、どう?」


 そういうと、獣の眼前に炎を振り下ろす。

 予想通り、獣は炎から逃げようとする。

 逃げに転じた獣に、追い打ちをかけるのは那毬と誠だ。

 二人同時に、背後から足を狙う。

 正確には、あるであろう足の腱だ。

 誠の剣は、幸運にも、それをとらえたらしい。

 力任せに引くと、獣が膝をついた。

 那毬は獣の足には届いたが、刃が短いせいか腱までには至っていないようだった。素早く杖をナイフに添わせる。


「咲き誇れ、大火!」


 小さくできた傷口から入り込んだ炎は、獣の足を内側からずたずたに引き裂いた。

 獣は完全に両足をついた。

 腕を振り回し、暴れまわっている。

 三人は距離を置いた。


「投擲、自信ある?」

「得意だぞ」

「じゃあ、はい」


 留がブラックジャックを誠に渡す。


「顔面にあたるか、払いのけられるかするでしょうけど、そこに那毬と私が出るわ」

「後は、スマホの出番」

「止めは、頼んだわよ」


 二人はじりじりと獣に近づく。

 ブラックジャックが、誠の手から放たれた。

 威力は期待できないが、必ず、獣はリアクションをとる。そこからが勝負だ。

 ブラックジャックを払いのける獣。

 そこへ、スマートフォンをかざした二人が近づく。

 フラッシュライトを眼球にかざす。

 未だかつて経験したことがないだろう、明るさの光。

 獣は目を覆った。

 

「畳み掛けるわよ!」

「咲き誇れ、大火!」


 二人はもう一度魔術を行使する。

 そして。


「うおおぉぉ!」


 誠が渾身の力で、空いた首へとその剣を突き刺した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ