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三節/3

「本当か?!」



 オルガは机に身を乗り出す。

 他二人もそこまでとはいかないが、随分と驚いた様子だった。



「……うん。

 確信するためには、実際にシャーリーを診る必要があるけれど。

 僕の予想通りなら、特に薬は必要ないはずだ」



 あった方が良いのは、確かだが。

 そんな思いを口にしないまま、興奮する彼らを宥める。



「……そうか、そうか」

「良かったですね、二人とも!」

「うん、これでシャーリーも元気になるね!」 



 和気藹々と喜び合っている三人。

 その笑顔がいずれ壊れてしまうことを知っているレイフォードは、心の中で謝罪した。


 答えを告げるのは、もう少し後で良い。


 もしかしたら、レイフォードの予想は外れているかもしれない。

 本当に、ただ体調が悪いだけかもしれない。

 

 しかし、それも希望的観測に過ぎないことも、また分かっていた。



「……レイくん」



 呟いた声は、彼の耳に聞こえているだろうか。

 哀しそうに目を伏せるレイフォード。


 また、君はそんな顔をする。

 テオドールは、机の下でぎゅっと手を握った。


 だが、ここで弱気になっていてはいけない。

 そう思い直して、前を向く。

 


「セレナさんが帰ってきたら、早速向かおうか。

 オルガ、シャーリーが居場所は分かってるのか?」

「おう。オレたちの秘密基地にいるはずだ」



 そうかと通り過ぎてしまいそうになるも、聞き捨てならない単語があることに気付く。

 あまりにも自然に言うものだから、気付かないところだった。



「……秘密基地? お前ら、またそんなもん作って……」

「別にいいだろうがよ。男の浪漫だ」

「分かる」

「レイくん……」



 数刻前とは違う意味で手を握り合う二人を前に、テオドールは項垂れた。

 


「ただ今戻りました。

 ……テオはどうしたのです?」

「……気にしないでください。呆れ返っていただけなので」

「お帰りセレナ。件の詳細なんだけど──」



 音も無く背後から忍び寄って来たセレナに、ひっくり返る三人衆を他所にレイフォードとテオドールは普段通りに接する。



「……あの姉ちゃん、何もんだよ」

「アーデルヴァイト家の使用人。

 細かいことは気にしない方が良い」

「絶対それだけじゃねェだろうが……忠告通りにするわ。怖過ぎる」



 オルガの背で震えるルーカスとウェンディ。

 その瞳には、明らかに恐怖の色が滲んでいた。



「なるほど、承知いたしました。

 ……ところで、私なんだか怖がられています?」

「寧ろ怖がられない要素が──セレナが綺麗だから驚いているだけなんじゃないかな」

「ふむ、よろしい。

 淑女(レディ)に対する扱いを心得ているようで何よりです」



 そういうことするから怖がられるんじゃないかな。

 という言葉を胸にしまい、レイフォードは椅子から立ち上がった。



「オルガくん。道案内は任せていい?」

「……おう。付いてこい」



 未だ口角がひくついているオルガたち。

 三人は、その後に続いて行く。


 向かう先は、とある路地裏。

 そこに作られているという、彼らの秘密基地。


 日が傾き始めた午後。

 太陽には雲が掛かっていた。

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