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三節/2

「猫……?」

「ああ、名前はシャーリー。

 オレたちの友達であり、家族だ」



 広場の休憩箇所に腰を落ち着けたレイフォードたち。

 セレナは荷物を置きに一度屋敷に戻ってしまったため、今は子どもたち五人だけだ。


 だが、彼女の脚ならば直ぐに帰ってこれる。

 精霊術も使えば、十分ほどだろう。


 セレナが帰ってくるまでの間、五人は昼食も兼ねた事情聴取を執り行っていた。



「そのシャーリーが、最近調子が悪くてな。

 苦しそうに唸ったり、身体を引き摺ったり……上げれば切りがない」



 オルガが言うには、初めは何かの病気だと思って大人に見せに行ったそうだ。


 けれど、彼らは言葉を濁して分からないというだけ。

 孤児院に住んでいる彼らには、医者に見せに行く金もなく、薬だって買えない。

 

 そうして彼らが頼ったのは、裏通りにある雑貨屋の店主だった。



「おっさんは『精霊領域に生えてる花を材料にした薬を使えば、治るかもしれない』って言ってた」

「……その花の名前は?」



 レイフォードの疑問に、オルガは腕を組んでふんぞり返る。



「知らん!」

「は?」



 絶対零度のテオドールの視線が、オルガを貫いた。



「知らんもんは知らねェんだよ。

 おっさん教えてくれなかったし」

「……じゃあどうやって見つけるつもりだったんだ?」

「そりゃあ、こう……雰囲気で」



 レイフォードとテオドールは、肩を落とした。

 いや本当に、流石にこれは。



「馬鹿かお前ら」

「あァ?! やんのかテメェ!」

「はいはい落ち着いて。気持ちは分かるけれども」



 また争い始めた二人の口に、人形焼を放り込む。



「お、旨いなこれ。卵の甘糊(カスタード)だ」

「粒餡……」

「おすすめは茶色の甘物(チョコレート)。食べる?」



 同時に頷いた彼らに、またもや人形焼を放り込んだ。

 その辺りの屋台で買ったそれは、動物や花を象っているため、人形と言っていいかは分からない。

 

 そして、とても今更な話ではあるのだが。

 この国、何故か餡や茶色の甘物などがある。

 地球で暮らしていたあの青年の記憶にあったものと、ほぼ相違ない。

 

 改めて考えてみれば、おかしな話だ。

 小豆も加加阿(カカオ)があるどころか、動物も植物も地球の大陸関係無しにある。

 同一の種というより、ただ似てるだけではあるのだろうが、些か不可解だ。


 まるで、元々別の大陸を一つに集めたような──ずき、と頭痛がした。



「レイくん、どうかした?」

「……ん、大丈夫」



 急に黙り込んだレイフォードの顔を、テオドールが覗き込む。

 何とも言えない不穏さを感じ取ったテオドールは、彼の動向を更に注意して観察しようと、顔に出さないように心に書き付けた。


 今日のレイフォードは、昔のように憂鬱そうな表情をすることが多い。

 最近はずっと、鳴りを潜めていたというのに。

 まさか、知らないうちに発作を起こしていたのだろうか。


 思考を続けるテオドールを他所に、三人は賑やかに過ごしていた。



「ねえオルガ。これも美味しいよ、はい」

「オルガくん、こっちもどうぞ」

「おう、ありがとよ……じゃねェ! テメェらも大人しくしとけ!」



 ウェンディとルーカスがちょこまかと歩き回っていることを見兼ねたオルガが叱りつける。

 口を突き出して文句を言うが、彼の手刀を頭に喰らえば静かに机に付いた。



「……続きだ。

 当然だが、オレらも危険だとは思ってたんだ。

 だが、こんな子どもの話をマジメに聞いてくれる奴はいねェ。

 どいつもこいつも、『はいはいそうですか』って聞き流しやがる」

「それで、自分たちで採りにいこうとしたと」

「……ああ」



 オルガ、ルーカス、ウェンディ。

 彼らが『悪ガキ三人衆』と侮蔑と敬意を込めて言われるのは、ただ突拍子もないことをするだけでなく、それなりに優秀な力を明後日の方向に活用するからだ。

 オルガは身体能力、ルーカスは思考力、ウェンディは精霊術。

 

 特にオルガは上に立つ力(カリスマ)も優れていることもあり、二人以外にも多くの子どもを巻き込んでやらかすことがある。

 それの収拾をするのが、教師陣とテオドール他数名。

 オルガがテオドールのことを『優等生サマ』もしくは『クソ真面目』と揶揄するのは、このことからだ。


 どれだけ精霊術を使ってもテオドールは術式を削除でき、身体能力や思考力だって劣らない。

 つまり、オルガはテオドールを敵視しているのだ。

 まあ、テオドールは特にそう思っていないらしいが。


 しかし、優秀な彼らでも、まだ『子ども』だ。

 彼らだけで街の外に出るのは許されない。

 しかも、彼らは前科がある。

 情状酌量というのも難しいだろう。



「本当、見つけたのが俺達で良かったな。

 衛兵あたりに見つかってたら、お前らどうなってたかわからないぞ?」

「分ァってるわ、んなこと……。

 それでも、オレらはシャーリーを助けたかったんだ」



 机に肘を付いて、そっぽを向くオルガ。

 『ゲインロス効果』、『ストックホルム症候群』なんて言葉が脳裏に浮かぶが、余計過ぎるので放り投げる。

 今は彼らを助けることだけを考えるべきなのだ。



「……いくつか質問しても良いかな?」

「どうぞ。

 つっても、オレらに答えられることもあんまりねェよ?」

「そこは大丈夫。簡単なことしか聞かないから」



 不思議だという顔をするオルガに、レイフォードは三つの質問をした。


 一つ、シャーリーとはいつ出会ったのか。

 二つ、シャーリーは現在何歳ほどか。

 三つ、シャーリーは大きな怪我をしたことがあるか。


 返答は以下の通り。


 出会ったのは、五歳の頃。

 孤児院の裏で、烏に突かれて怪我をしているところを助けた。

 年齢は不明だが、少なくとも十歳以上なのは確実。

 孤児院の前院長がよく餌を上げていたという。

 今の院長は動物嫌いであるから、近付かないそうだ。

 大きな怪我も、出会ったとき以上のものはない。



「……なるほど、ありがとう」

「つうか、何でそんなこと聞くんだよ?」



 野良猫、十歳以上、それといった大きな怪我は無し。

 導き出される答えは、一つだった。



「──多分、分かったよ。

 シャーリーの体調が悪い理由と……解決方法も」

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