17.続いていく日常
わたしたちが地上に帰ってきて、十日たつ。
師匠とジャンナさんの話を、一眠りした後に聞いたけれど、驚きの連続だった。
まず、わたしとルークが地上に出てくるまでに、地上では何か月かすぎていたことがわかった。
あの後、地上にはローギウス神の力が満ち、世界が刷新された。
今は新旧の世界が入り混じり、一部姿を消した神もいるそうで、ギルドや神殿、王城にいる偉い人たちはその把握に追われているそうだ。
その影響で、今、ギルドには、新しくなったダンジョンの攻略のための依頼が張り出され、師匠の所にも新しく見つかったものの解析がきているという。
それを全て断り、師匠はこの数ヶ月間、わたしの捜索に全力を注いでくれていたらしい。嬉しい。けどそのせいで、今は、溜まっている依頼をさばくのに、師匠はアトリエから出てこれなくなっている。
手伝いたいけれど、師匠にしかできないことみたいで、わたしはひたすら邪魔しないようにして過ごしていた。
今日はようやく、師匠が部屋に籠る前に言われた休養期間が終わったので、ギルドに行くところだ。
出かける前に、お母さんとお父さんのお墓に寄る。
オルディナに操られていた二人の体を、師匠が連れて帰ってくれていた。そしてアトリエの近くの、王都を見下ろす見晴らしのよい場所に弔ってくれていた。
わたしもこの十日の間に、何度も通った。
二人がここに眠っているなんて未だに実感がないけれど、心の中で二人にこの十年間分の話をして居る間に、少し心が軽くなった。
今日は、いってきますの挨拶だ。
――ようやく新しいダンジョンを見に行けるよ。いってきます。
そう告げて、王都に向かおうと、アトリエの前を通る。
「あ、師匠」
師匠はアトリエの前庭に出てきた。
すごくやつれた顔をしている。でもその瞳は穏やかだ。
「気をつけていっておいで」
「はい、いってきます! 師匠のご飯は、鍋に作っていますから、ちゃんと食べてくださいね」
「ありがとう」
師匠は、そのまま見送ってくれるみたいだ。
わたしは師匠に手を振って、ギルドへと向かった。
ルークは、ジャンナさんと共に王都に引っ越している。
ジャンナさんは最初は師匠のところでお世話になっていたけれど、いつまでも師匠のところにいるわけにはいかないと、王都に住むところを見つけてきたそうだ。
食堂で仕事も見つけていて、ルークと共に王都に腰を落ち着けるみたい。
ルークも一通り師匠の診察を受けた後、ジャンナさんの家に帰っていった。
今日はギルドで待ち合わせである。
「こんにちわー!」
「おう、リリ、来たか」
ギルドに入ると、珍しくギルマスがいる。
「モーゼスさん!」
この十日の間に、一度ギルドには戻りましたとごめんなさいの挨拶に来ている。
あの時のモーゼスさんのやり方は酷かったけれど、ギルドとしての判断は仕方ないと思うし、わたしも言うことを聞かずに窓を破って逃走してしまっている。
このままだと、冒険者廃業をするしかなかったけれど、セナちゃんの証言もあって許されたみたい。
セナちゃんはあの夜、呆然と座り込んでいたところを保護されてから、これまでの経緯を全部話してくれたそうだ。わたしは王都から不死者の脅威を退けたとして、しばらくの無償活動で許してもらえることになった。
無償活動については、後日ギルドから連絡がくるみたい。
セナちゃんの方はギルドで話をした後、罪を裁くために、今は王城の牢にいるときく。
会いに行きたいけれど、今はまだ面会の許可がでなくて会えなかった。でも、許可が降りればすぐに会いに行く予定。
モーゼスさんはわたしを見つけると、ニヤリと笑った。
「今日から復帰と聞いている。
ギルドの窓を破壊した分、せっせと働けよ!」
「わかってますよー!」
「そうかそうか」
そういうと、ギルマスは笑って、二階に戻っていった。
おかげで騒然としていたギルドの中がシーンとなってしまった。
「リリ、こっちだ」
掲示板前の打ち合わせ用のテーブルのひとつに座っているルークが、呼んでくれる。それを契機にギルドの中のざわめきは戻っていく。
わたしもルークのいるテーブルに向かった。
「久しぶりだな」
「うん。ルークこそ。元気?」
「問題ない」
「そっか」
ルークは右腕を見下ろして答える。
そして、ふと顔を上げた。
「リリは? 加護が消えたんだろ」
「うん。でも、全然問題ないよ。前に戻っただけだし。師匠がいうには、まだつながりは切れてないみたいだけど、前みたいにダンジョンを変える程の力はないって」
「なら、安心だな」
「うん!」
「さ、依頼を選ぼうぜ」
そういうとルークは立ち上がった。
「選んでないの?」
「リリが来てからでいいと思った」
わたしも張り出された依頼を見に向かう。
張り出された依頼は、薬草採取から、魔獣の素材集め、何でもいいから新しいダンジョン素材を持ってきてほしいなんて依頼もある。
やっぱり今まだ見たこともない依頼があって楽しい。
「決まったか?」
「わたし、これ、気になるんだけど」
「岩山のダンジョンか。懐かしいな。これにするか」
そう言うと、ルークは依頼をはがし、受付に持って行く。
選んだのは、岩山のダンジョンで新しくとれるようになったという素材の採取。
新しくなったダンジョンに入るのは初めてだから胸が躍る。
新しい世界でやりたいことはたくさんある。
今まで行ったことのあるダンジョンがどう変わったのか見てまわりたいし、まだ行ったことのないダンジョンにも行ってみたい。
あ、それに、知の女神様は新しい世界にもいらっしゃるみたいだから、お礼をいいにいきたい。
けど、まずは目の前のことからだ。
「それじゃ、いこう!」
「おう」
わたしは、依頼を受けて戻ってきたルークと共に、ギルドの外に飛び出した。
師匠も解析依頼が終われば、リリたちとダンジョンに潜ったりすると思います。
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