7 ストーカーの事情
俺も、葵も黙り込んでしまった様子を見て、井上由美と名乗る少女もまた、申し訳なさそうにしていた。
「だ、だから驚かないでって……まぁ無理ですよね。一体学校が始まって何日だって話ですよね」
「ごめん」
何とかして彼女をフォローしてあげたかった。でも、命がかかっていると訴える少女に、無責任に「大丈夫だよ大丈夫」などと声を掛けてあげることなんてできなかった。
「でもさ~どうしてもう四回も死んじゃったの?」
葵もすでに剣は鞘にしまい、先ほどとは打って変わって、今度は敵ではなく、一人の少女として彼女のことを心配していた。
「私、弱いですから、あるやつにいいように四回」
そして彼女の申し訳なさそうな口調は依然続いていた。
だが、そんな彼女の言葉に引っかかりを感じる。
「『あるやつ』ってことは一人に四回も? そんなのありなのか?」と。
俺はそれを葵に確認した。
「まぁありっちゃありだよね~。殺す相手を必ず変えなきゃいけないなんてルールは無いから」
そんなの、弱いものが搾取されるだけではないか。そう思ったけれども、そんなことをここで言ってもどうしようもなかった。
そしてこの学園へのやるせない気持ちが強くならないように、俺は話題を少しだけ変えることにしてみた。
「あと、ここ数日俺らのことを付けたり――みたいなことって」
すると彼女は囚人が警察官に謝るがごとく模範的に頭を45度の位置まで下げる。
「すいません! どうしてもあと一回殺される前に五十人殺して卒業してしまおうと思いまして、私みたいなのでも不意打ちなら何とかなるかなって。まぁ何ともならずにこうして捕まっちゃってるわけですけど」
なら、もう少し早く襲い掛かってきてもよかった気がしたが……。
「で、これから、あなたはどうするつもりなの?」
葵が聞くと由美ちゃんは「うーん」と少しうなってから「また別の人でも殺します」と答えた。
だが、戸惑いながらそう答える彼女を見て、俺だけでなく、葵も一緒のことを思ったのだろう。
「こいつには無理だ」って。
さっきの剣裁きや、襲いに来るときにわざわざ「ごめんなさーい!」って叫びながら走っているんじゃ、どう考えても五十人殺す前に返り討ちにあってしまう。
そうなれば当然、卒業する前に自分から奇襲をかけて命を落とすという羽目になってしまうだろう。
なら、俺が、彼女にしてあげられることって考えたとき俺は自然と彼女に言葉をかけていた。
「なぁ俺たちと友達にならないか?」
弱いものいじめはダメですよ!