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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
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第5話 皐月の夜は明け、光は満ちて…… Part3

―グラウ―


「いったぁ~~い!!」


「っ!なんで俺もげんこつくらわないといけないんだよ!俺は悪くないだろっ!!」


「知るかッ!ここだどこだかわかるか?神を祭る神社だ。破廉恥なことをする所では断じてないッッ!まったく・・・人が起きてそうそうなんてものを見せつける・・・・・・」


 確かに寝起きで見る光景として今のは最悪だろうな。だがある意味助けられたともいえる。あのままソノミが現れなかったら、俺とネルケは・・・・・・と、これ以上考えるのはよしておこう。


 この神社に初めて来た時は神聖で厳かな雰囲気に思わず息をのんだわけだが、今ではもう悪い意味で慣れてしまった。ソノミの鉄拳も、祭られている神様の裁きだと捉えれば、納得できなくもないな。


「その男勝りの拳の強さなら、ソノミが本当に頼りがいがあると再確認したよ」


「喧嘩売っているのか、お前?」


 足を組み直し、一つ息を吐いた。ソノミは未だ不機嫌そうにぶつぶつつぶやきながら、俺の右側に腰を下ろした。


 三人そろったし、今後の話を切り出そう。


「それじゃあこれからのことを――うっ!」


 ぐぅ・・・ぎゅるるるるるっ・・・・・・・・・


 聞こえた音はカエルの鳴き声?それとも雷が近くに落ちた?否――


「お前、お腹が空いていたんだな」


「・・・・・・ああ。腹ぺこだ」


 ここまでの音を鳴らしては、今更自分じゃないとアピールするつもりも起きない。神社に戻ってきたあたりからそうだったのだが、あの時は眠気が優っていた。しかし今は・・・・・・お腹に空洞が出来たような感覚だ。


「はあっ、まったく・・・・・・大食漢が。ちょっと待っていろ」


 そう言うとネルケは荷物の中から数十時間前に取り出した重箱を取り出し、下段を開いた。


「なっ・・・・・・まだあったのか!」


「お前のことはよく知っているからな。誰か(・・)より、な」


「う~~~!」


 犬のようなうなり声が背中から聞こえてくるが、今はそれより目の前のおにぎりへの関心が勝る。口の中がよだれでみたされていく。


「・・・・・・四人分ある。いっぱい食えよ」


「そうだな。あいつの分も俺が食おう」


 まずはそうだな・・・見た目からして普通のものをいただこうか。味は・・・う~ん、酸っぱくてしょっぱい。これは梅干しのようだ。梅干しは栄養成分が豊富に含まれている。十種類の健康効果の中でも、今ありがたいのは疲労回復の効果だな。


「どうだ?」


「相変わらずおいしいぜ。しかし、こうもはやくソノミの作ったおにぎりにありつけるとはな・・・・・・うれしいのはもちろんなんだが、本当はここを抜け出してからと思っていたんだが」


 流魂との戦いの最中に交わした約束がこうもはやく達成されるとは思っていなかった。まさか24時間の内に果たされることになるなんて。


「ふん、帰ったらまた作ってやる。何度だって、お前が望む限り・・・・・・今度はお前の望むものを作ってみせよう」


「リクエストを受けてくれるのか。そうか、それなら何を頼もうか・・・・・・」


「ねぇ、ソノミ。わたしにもくれないかしら?」 


 今の今までネルケの存在を忘れていた。さっきからずっとうなり続けていたが、ようやく人の言葉を話すようになったようだ。


「別に勝手にとってくれてかまわなかったんだがな・・・・・・ほら」


 ソノミは俺を超して重箱をネルケに差し出す。それをネルケは両手に一つずつとり・・・勢いよく口の中へと詰め込んだ。


「なんだお前、ハムスターの真似か?」


「うるひゃい・・・わたしもおなかすいていたのよ・・・・・・」


 それを咀嚼し終えてまもなく、ネルケはまたおにぎりを手に取った。いちいちソノミが重箱を差し出すのもどうかということもあり、結局重箱は俺の膝の上に落ち着いた。


 俺もまだまだ食べ足りない。今度はこの海苔のついてないものを・・・・・・おっと。上からではわからなかかったが、これは枝豆のおむすびか。枝豆の緑色が、白いご飯に映えて美しい見た目をしている。味は・・・枝豆のほどよい塩加減、、ご飯はごま油で風味付けされている。これもまた美味!


「ふん。おいしいか、そうか」


「なによそのしたり顔・・・・・・いつか鼻をあかしてやるんだからぁ~~パクっ!」


 さてお次は・・・・・・このラップに包まれたものをいただこう。四角い形でふわっとしているな。そしてこの断面は!おにぎらずか。そして断面から判断するに、これはハムとチーズがはさまっている。では一口。うんサンドイッチの具材がお米にあうのかと思っていたが、これもなかなかいけるじゃないか!


「お前が料理する姿はまったく想像つかないな」


「いや、見た目だけでいったらソノミも・・・・・・まぁ、実際っ、料理とかあまりしないけれど。ぱくっ」


 料理か・・・昔はよく、ユスの手料理を食べていたな。蛇の煮込みにカエルのフライ、何かの幼虫・・・・・・見た目は凄まじかったが、ああいう料理も案外意外なおいしさがある。もちろんあの頃の食事に戻りたいとは思わないが。


「ネルケ、安心しろよ。俺が出来る料理は卵焼きだけだ」


「器用そうに見えて案外料理作らないのね、グラウは」


「料理など無理だ。砂糖と塩を間違えるところから俺の料理ははじまる。フライパンの油を敷く量が過剰なのか、卵焼きが卵揚げにもなる。それでよければいつか披露しようか?」


 二人に向けて俺は提案する。


「「遠慮しておきます」」


 しかし断固拒否。そう返されると思って言ったのだが・・・口裏を合わせたかのようにそろわれると、少し傷つくな。


「お前、栄養とか絶対気にしていないだろ」


「いや、栄養学の本は読んだことがあるからな。食べ物にどんな栄養が含まれているかは大方把握している。ただあの駒の形をしたガイド通りに食べてはいないな」


「よくあれ(・・)の存在を知っているな・・・・・・はぁ、帰ったらお前の食生活を見直す必要がありそうだ」


 ソノミもずいぶんと俺のことを気に掛けてくれるようになったものだ。以前は完全に仕事だけの関係だったというのに。でも悪い気はしない。


「頼む。身体が資本なのに、狂った食生活はよろしくないからな。ただ・・・・・・」


「ただ?」


「ソノミのおにぎりはおいしい。今はこれで充分満足なんだが・・・ここを出たら真っ先に食べたいんだ・・・・・・分厚い肉が」


 肉厚なステーキが目の前に浮かぶ。ああ、切ったら肉汁がじゅわーっと出て、噛めばほろほろと口の中でとける。それを白米でいただきたい。


「ふふふっ、こんな時はわたしの出番ね!」


「お前の?日本は私のテリトリーだ。ステーキの店なら・・・・・・チェーンで良いなら、知っている」


 チェーン店でも良いな。日本のステーキチェーンは二店ほどマークしている。たれが有名なところと、立ち食いのところ。そのどちらも捨てがたいな。


「ふっ、甘いわね!うふふ・・・・・・グラウ、このあとシャトーブリアンはいかがかしら?」


「なっ!?シャトーブリアン、だと!!」


 究極の赤身、幻の部位といわれるシャトーブリアン。牛一頭からったった600グラムしかとれないそれは、数多の食通をうならせ虜にしてきたという。一度食べてみたいと思ってはいたが、いかんせんその値段故に機会に恵まれたことは一度も無かった。


「お金は気にしないで。わたし、たくさんあるから」


「成金が・・・・・・財力で釣る気か・・・・・・・・・!」


「利用できるものは利用する。当然でしょう?」


 まるで俺みたいなことを言ってるな、ネルケ。


「そうだな・・・こんな機会二度と無いだろうし・・・・・・ネルケ、是非俺をそのシャトーブリアンを出してくれる店に連れて行ってはくれないか?」


「ええもちろんよ!ふふん・・・・・・グラウ、あなたがわたしのものになれば、食べたいものをなんでも食べさせてあげるわよ。どうする?」


「ぐうっ・・・・・・資金力に屈するのか、グラウっ!?」


 毎日シャトーブリアンか。それだけじゃない。フォアグラにトリュフ、そしてキャビア。高級食材が食べ放題・・・悪くない、むしろ最高じゃないか?だが――


「悪いがヒモになるつもりはないんだ。もしもその提案を受け入れたら、俺はネルケから離れなくなって、働かなくなるだろう。だが俺はこの道で成し遂げたいことがある。少なくともそれが達成されるまでは、この道から足を洗いはしない。せっかくのうれしい提案だが、遠慮させていただく」


 ネルケは目を丸くし、ソノミはなぜか安堵のため息を吐いている。


「・・・・・・そうね。グラウらしい回答。それだからわたしはあなたをものにしたいの!」


「破格の提案に、養ってくれるのが美人のネルケというのなら、どんな男でもなびくだろうに」


「そう思う本人は全くなびいてないでしょう?確かに近づいてくる男はこれまで何人もいたけれど、彼らの目的は金か私。グルーピーには興味はない。わたしは逃げる人を追いかけたいのよ」


 俺もネルケみたいな美人のことをなんとも思っていないわけでもないんだがな。


「人の気持ちなんてわからないが・・・それって男の心理なんじゃないのか?」


「うん?追いかけたくなるのは別に男性に限ったことじゃないわよ。ね、ソノミ?」


「私に振るな!とりあえずはやく食え。作戦会議をするんだろ?」


「おう、そうだった」


 まだまだお腹に納められる。重箱が空になるまで食べてしまおう。

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