第10.5片「星は見ている〜運命の定義」
夜。
王都の高台。
見上げれば満天の星空。
街の灯りが遠くに揺れ、夜風が静かに吹いている。
そんな絶好の星見日和にもかかわらず。
「師匠」
「なに」
「仕事してください」
「してるわ」
「してません」
即答だった。
ベンチに寝転がりながら星を眺めているのはセレナ・アルヴィア。
その隣で帳簿を抱えている少女が深いため息をついた。
名はリナ。
年は十七。
半年前。
『あなた星が見えるわね』
と突然声を掛けられ。
『見えません』
と答えたにもかかわらず。
気づけば弟子にされていた。
意味が分からない。
本人にも未だによく分かっていない。
「師匠」
「なに」
「今月の収支、赤字です」
「星は満点よ」
「聞いてません」
「大丈夫」
セレナは夜空を見上げたまま言う。
「お金はなんとかなるわ」
「どうやって」
「運命が」
「ならないと思います」
即答だった。
セレナは少しだけ口を尖らせた。
「夢がないわね」
「現実見てるだけです」
「それを夢がないと言うのよ」
「理不尽です」
夜風が吹く。
しばらく沈黙。
リナは帳簿を閉じた。
そしてふと思い出したように口を開く。
「師匠」
「なに」
「運命の人って本当にいるんですか?」
セレナが少しだけ目を細める。
「いるわ」
即答だった。
「そうなんですか」
「ええ」
「どうやったら分かるんです?」
セレナは少し考える。
そして。
「分からないわ」
「は?」
リナは思わず聞き返した。
「分からないんですか?」
「分からないわ」
「占い師ですよね?」
「占い師よ」
「占い師の言うことですか、それ」
「占い師だから言うの」
セレナは空を見上げたまま続ける。
「だからみんな苦労するのよ」
リナは納得いかなかった。
「でも運命の人なんですよね?」
「そうよ」
「なら分かりそうじゃないですか」
「分からないわ」
「なんでですか」
セレナは少しだけ笑った。
「だって本人達が気づいてないもの」
「……?」
意味が分からない。
リナが首を傾げる。
セレナは遠くの街並みを見下ろした。
「運命ってね」
静かな声。
いつもの調子とは少し違う。
「出会った瞬間に分かるものじゃないの」
「そうなんですか?」
「ええ」
夜風が髪を揺らす。
「気づいたら隣にいるのよ」
リナは少し考えた。
「それって運命なんですか?」
「後からそう呼ぶの」
セレナは小さく笑う。
「運命なんてね」
「はい」
「後から付ける名前よ」
リナは黙った。
なんとなく。
少しだけ分かる気がした。
その時。
高台の下を歩く人影が見えた。
赤い髪。
騎士団の制服。
どこか見覚えがある。
「あれ」
リナが指を差す。
「あの人、前に師匠が追いかけてた人じゃないですか」
「追いかけてないわ」
「茂みから出てきましたよね」
「星がそうしろと言ったの」
「追いかけてますね」
セレナは聞こえないふりをした。
リナは下を見る。
赤髪の騎士は工房街の方から歩いて来る。
「あの人ですか?」
セレナは少しだけ目を細めた。
「半分正解」
「半分?」
「もう半分は工房の娘」
「ああ」
リナはなんとなく察した。
「知ってるんですね」
「星が教えてくれたもの」
「盗み聞きじゃなくて?」
「……」
セレナは答えない。
「盗み聞きですね」
「星も聞いていたわ」
「共犯じゃないですか」
夜空を流れ星がひとつ横切る。
セレナは満足そうに頷いた。
「順調ね」
「何がです?」
「全部」
意味が分からない。
でも。
なぜかセレナは楽しそうだった。
高台を風が吹き抜ける。
遠くに工房の灯りが小さく見えた。
セレナは静かに夜空を見上げる。
そして小さく笑う。
「うふふ」
リナはため息をついた。
「師匠」
「なに」
「やっぱり意味分かりません」
「そのうち分かるわ」
「嫌な予感しかしません」
夜空には今日も星が瞬いている。
「星はそういうのが好きなのよ」
おわり
「田舎で暮らしたい騎士団副長、恋愛フラグだけ都会級」を最後まで読んでいただきありがとうございました。




