25
夕方、俺達は港町ハーディーズに着いた。
紫色の篝火が至る所で見受けられ、オシャレな酒場のような建物で溢れかえっていた。
「一杯飲もう。ガキ共にはジュースを」
とフォックス。
派手な看板が目立つ煉瓦造りのバーに俺達は足を踏み入れた。
営業時間が始まったばかりだったためか、客はまだ一人しかいなかった。
隅の方の椅子に腰掛けた仮面の男。
寡黙でどっしりとした雰囲気を醸し出している。
「アレは『サイ』って名の客人だ。そっとしといてやってくれ」
三十歳くらいの店主が言った。
サイの方は仮面のせいで年齢が予測出来ない。
だがそこまで大柄ではなかった。
フードをスッポリ被っており、黒で統一したファッションだった。
ブーツがよく似合う。
そして只者ならぬオーラも若干感じられた。
「ウィスキーを頼もう。こいつらにはオレンジジュースを」
(おいフォックス、勝手に決めんな!)
とは言え別にオレンジジュースは嫌いじゃない。
飲み物が出されるまで席につく事にした。
「サイって人について何か知っているのか?」
仮面の男の方をチラチラ見るホワイトロック。
彼女がアスカや俺達以外に興味を示すのは珍しい事だった。
「うん……有名な指名手配犯よ」
と彼女は囁くように言った。
え、ヤベー奴じゃん。
でもここで会ったのはやはり偶然。
なんか気になるんだよなー。
「……坊や俺が気になるのか?」
まさかのサイの方から言葉が飛んできた。
声からしても自分とそこまで歳は離れてない。
「ま……まあ」
「その首飾りはエメラルドの塊と同じくらいの価値があるぜ。カードゲームで賭けてくんないか?」
セレナに貰った十字の首飾りの事を言っているようだった。
「仮に俺が勝ったら何が貰えるんだ?」
「そうだなー、俺はアンタみたいなガキは嫌いじゃねぇ。黄金の眠る天空島へと渡る魔法陣の地図をやろう」
黄金をくれるわけじゃなく島へとワープする魔法陣の在処を示した地図か。
セレナからの首飾りを賭ける気にはならねーなー。
「この首飾りはどういう効果があるんだ?」
「お前がカードゲームに勝ったら教えてやるよ」
ウィスキーとオレンジジュースが到着した。
どうやらフォックスはフライドポテトも注文したようで油で揚げる音が聞こえてくるのだった。
「やめとけ。嫌な予感しかしない」
フォックスがグビっとウィスキーを口にしながら、足を組んで言う。
そもそもどんなカードゲームだ?
見せられたのはハーフエルフ?の絵柄を一番前の表にしたデッキだった。
ナオミブラストと書かれてある。
妙に人間味溢れる絵柄のカードだった。
「その首飾りは使い方が分かっていないと価値は石ころ同然。逃げるのか?坊や」
サイがカードでイカサマをする可能性も無きにしもあらずだった。
だって指名手配犯だぞ?
「天空島とはホントに実在するんかいなー」
斜め後ろにレインが立っていた。
彼が黄金という言葉に引き寄せられたとは考えにくい。
夢やロマンと言った具合か。
こらアスカちゃんニヤけるな。笑。
「黄金があれば一生遊んで暮らせるぜ?さあ、どうする?」
元々現実世界でカードゲームに縁が無い訳ではなかった。
ナオミブラストの名は初めて耳にするが、今からルールを覚えてやってもいい。
「アルテマサーガ」と呼ばれるこのゲーム内で、どんなカードゲームが流通していると言うのか。
「私が代わりに勝負します」
手を上げたのはレダスだった。
そうかクリエイターの彼なら強いデッキを所持しているはず!
そもそも今からルールを覚えて戦うのは馬鹿げていると言えた。
フライドポテトを摘みつつ、サイ対レダスのカードバトルを見守る事となった。
「この首飾りどういう効果だと思う?」
「さあな。全く予想がつかないが」
俺に寄越せという言葉をフォックスは何とか飲み込んだようだった。
俺がオレンジジュースのコップに手を掛けた、その時だった。
『助けて!』
エリザベスの声だった。
脳裏に浮かんだ情景は雲の上の草原。
何者かに連れ攫われていく。
ハッと気づいた時、カードゲームは終わっていた。
どうやらレダスが勝利したようだ。
「チッ、約束だ。地図はくれてやる。それからその首飾りだがな、過去に倒した敵を召喚できる仕組みになっている。握りながら祈りを込めろ。好きな時に召喚できるはずだ」
「エリザベスがピンチだ。直ぐにでも地図の示す場所へ」
「え?」
顔色を変えたのはクレラ達だった。
レインが地図を受け取りテーブルの上に拡げる。
此処から南東に船で向かうのが最短か。
ガゼドに行く前に天空島に寄り道だ。
ついでに黄金奪取も視野に入れてやる。
「敵が……おるんか?」
珍しくクロウが口を開く。
緊張感から来る言葉というよりかは冷静そのものだった。
だが闘いを覚悟した態度、と俺は受け取った。
そしてその為の首飾りと言っても過言ではない。
過去に倒した敵で一番強いのはダンジョンのゴーレムか?
だが召喚獣にできるのは恐らく一匹が限界だろう。
使い所を間違えないようにしないと、取り返しのつかない事になる。
「天空島は最近追加されたコンテンツです。絶対に気を抜いてはいけません。それに……私も全貌を知ってるわけではないんです」
レダスの額には薄っすら汗が浮かび上がっていた。
「南東の港へ向かうにはイサベル号に乗るこった。幸運を祈ってるぜ」
指名手配されているサイを仲間に加えるべきではないだろう。
根っからの悪人という感じはしなかったが、またいつか会えるのだろうか。
イサベル号は真っ赤に塗られた木製の大型船だった。
今晩出港し、明日の朝には着くようだ。
アニキ達とは一旦違うルートを辿る事となった。
俺は闘技場で得た金貨の殆どを差し出し、八人をイサベル号に乗船させた。




