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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第五話「フィルの過去と月の魔女」

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5-11 それが魔女との出会い


 泣き止んだフィルは、メフィストを抱き抱えたまま、引き続きベッドの端に腰を下ろしていた。

 その指には、赤い指輪が輝いている。


 嬉しそうに指輪を見つめるフィルの隣に、同じくベッドに腰を下ろした魔女メロウの姿があった。

 フィルは指輪から視線を離し、隣の魔女さんを変わらず嬉しそうに見上げた。


「魔女さんってすごいんだね」

「伊達に魔女をやってないからねぇ。でも凄いのは物を直すだけじゃないよ。私がもうちょっと若かった頃は、フィルちゃんのお母さんとコンビを組んで、小粋に悪党共を千切(ちぎ)っては投げ千切(ちぎ)っては投げぇってしてたものよ。あぁ懐かしい」

「お母さんと?」


 予想外の登場人物に、フィルの顔から驚きが飛び出していた。

 そんな素直な反応に、魔女メロウの舌も饒舌(じょうぜつ)に回る。


「そうだよぉ。魔女パーラ・クリスタと魔女メロウ・グロウの美少女コンビといえば、魔女界隈では知らない人なんて居なかったんだから」

「魔女界隈ってどんな界隈だよ……」


 メフィストのツッコミが虚しく響く中、フィルは「んー?」と首を(かし)げていた。


「フィルちゃん、どうしたの?」

「ねぇねぇ魔女さん。わたしのお母さんも魔女さんだったの?」

「うん。そうだよぉ……あれ? おばさま――お婆ちゃんから聞いてない?」

「うん」


 コクリと頷くフィルを見て、魔女メロウの額に冷たい汗が流れる。


「……もしかしてこれ、言っちゃ駄目だったやつ? あちゃぁ……あとでおばさまに怒られないかなぁ…………まっいいか」

「おいおい、大丈夫かよ」

「何とかなるさ、アハハハ」


 乾いた笑い声を響かせる魔女の横で、フィルはじぃっと指輪を見つめていた。

 フィルの心に浮かぶのは、もっと小さい頃に一度会っただけの記憶おぼろげな父と母の姿。それがフィルにとって思い出せる、父と母の全て。


「お母さんも魔女さん……そっかぁ……」

「フィル? 大丈夫か?」


 呟きに反応したメフィストを、フィルはゆっくり撫で撫でし始めた。

 フィルは撫でる手を止めぬまま、心の中で『よぉし』と意気込むと、真っ直ぐな視線を隣の魔女へと向けた。


「ねぇねぇ魔女さん。わたしも魔女さんになりたい」


 フィルの突然の宣言に、魔女メロウはパチパチと目をまばたかせてしまう。

 わずかな沈黙のあと、魔女メロウが笑い出した。


「あはははは。子供ってば気が早いなぁ。ねぇフィルちゃん。君はまだ魔女のこと何にも知らないでしょ」

「うっ」

「それなのに『なりたい』なんて言っちゃうのかなぁ」

「だってぇ……」


 言葉に詰まるフィルの頬を、細い指で突っつく魔女メロウ。

嗚呼(ああ)、いい感触ぅ』と、ほっぺたを堪能しながらも魔女メロウは話を止めない。


「第一、魔女になってもいい事なんてそんなにないんだよぉ。むしろ面倒事の方が多いくらい」

「でも、お母さんも魔女さんも魔女さんなんでしょ?」


「そうだよ。私やパーラには力があったし、そうなりたい理由もあった。だから魔女になったんだぁ」

「なら――」


 魔女メロウは、頬を突っついてた指を止め、そのままフィルの愛らしい唇に指を立てかけ、言葉を封じた。

「フィルに嫌がらせすると許さねぇぞ」と言うメフィストにクスッと笑いかけ、魔女メロウは言葉を紡ぐ。


「ねぇフィルちゃん。それはね。私だけの理由であって、パーラだけの理由なの。フィルちゃんの理由じゃないんだよ」

「そっかぁ……」


 指をどかした魔女メロウと、少しの納得と共にがっくり肩を落とすフィル。

 小さな子供が悲嘆に暮れる姿を見て、今度は魔女メロウが『ありゃりゃ困ったなぁ』と、自分の頬をかき始めてしまう。

 そこへ、呑気そうなメフィストの助言が飛んだ。


「なぁフィル。別に今考えなくてもいいんじゃねぇか? 杖と違って、きっと人の生き方は色々だぜ」

「いろいろぉ……」


「杖君の言う通りだよ。フィルちゃんがもっともぉっと大きくなって、魔女のことも知って……それでも魔女になりたいなら、その時は私が手を貸してあげる」 

「ほんとう?」

「うん。ほんとう。はーい、約束の握手」


 そっと差し伸べられた右手を見つめ、フィルは小さな手をそこに重ねた。

 伝わる温かさと共に、ゆっくりと手が上下に揺れる。


「ほい。約束完了ぉ!」

「やったぁ」


 メフィストの「なんだ、良い奴じゃねーか」と言う声を裏に、二人は手をつないだまま、ニシシと歯を見せ合い、笑い合った。

 手が離れた後も、ぎゅっぎゅっと右手を動かすフィル。

 そんな嬉しそうなフィルに、魔女メロウはアドバイスを送る。


「魔女を目指すにしろなんにしろ、まずはその発動体(スターター)で魔法の練習をいっぱい頑張らなきゃ、ねっ。カッコいい魔法使いになるのが先だよぉ」

「うっ……魔法……魔法……」「嗚呼、フィルぅ……」


 ピタッと硬直したフィルの呟きに、メフィストの(なげ)きが重なる。

 そんな一人と一杖の反応に、魔女の首が横へと(かたむ)く。


「ん? どしたの? まぁフィルちゃんなら、すぐに『強い魔法使い』くらいにはなれるんじゃないかなぁ。なにせフィルちゃん、君ってば一目見ただけで分かるくらい魔法の才能にあふれているもの。それにフィルちゃんの魔法の先生ってコズモお爺ちゃんでしょ? なら安心だ」


 そんな魔女メロウの言葉に、フィルの反応はなかった。

「おーい」と呼びかけ、ようやくフィルがハッと目を覚ます。

 再び魔女の目を見つめるフィルの双眸(そうぼう)には、不安の色がにじみ出ていた。


「うぅ……魔法使えないと、魔女さんになれないの?」

「うん。魔法を使えるのは、魔女の数少ない必須条件だからねぇ」

「ガーーーン。そんなー」


 フィルは、己の前に立ちはだかった高い高い壁に愕然(がくぜん)としてしまった。

 魔法が使えないフィルには、壁を超える方法が思いつかない。

 先程よりもカッチカチに固まったフィルを見て、魔女メロウの頭からとんがり帽が落ちんばかりに彼女の首が横へと倒れてしまう。


「再び、どしたの?」

「ああ、魔女の嬢ちゃん……実は、フィルはな……」


 魔法が使えぬ事実を『かくかくしかじか』とメフィストから聞いた魔女メロウ。


 未だショックから抜け出せないフィル。

 そんな痛ましいフィルに、何を言っていいのか分からないメフィスト。

 そして、魔女メロウの口からは「嘘でしょ? え? そんな……え?」と、本心からの驚きが零れ落ちていた。


 その後、紅茶とクッキーを持って来た祖母トリーナが、二人と一杖の様子に困惑した話は、わざわざ語るまでもないだろう。


 これが、後に師弟関係となる月の魔女メロウ・グロウと弟子フィルメイル・クリスタの出会いの話である。

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