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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第五話「フィルの過去と月の魔女」

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5-7 月の魔女メロウ・グロウ


 村長たちとの話し合いが終わろうとしていた矢先、とんがり帽を被った背の高い女性が突如として乱入し、フィル達の視線を一身に集めていた。


 肌艶よく、二十半ば程に見える女性。

 彼女の薄紫色をした瞳が、受ける五人と一杖の視線を一つ一つ見返していた。

 彼女のスッと通る形良い鼻が楽し気に上向いており、赤い口元には美しい半円が描かれている。


 透き通るような美女が楽し気に笑っているのだが、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 そんな彼女へ向け、フィルの祖母トリーナが気安く声をかける。


「来てくれて悪いけど、パーラは帰ってないよ」

「あらあら、それは残念」


 彼女は、言葉とは裏腹に全く残念そうには見えない。


 彼女は滑るような歩みで、廊下から応接間の卓の側までやって来ると、対面する二つのソファの側面、フィルと村長の妻に近い位置で立ち止まった。

 そして彼女は、被っていたとんがり帽を胸元へ移し、優雅に一礼を決めた。


「どうもぉ。私の名は、月の魔女メロウ・グロウ。以後、お見知りおきを」


 乱入者の突然の挨拶に虚を突かれ、ポカーンとする村長の妻と息子。

 村長は、彼女の『メロウ・グロウ』の名に驚き、声が出なかった。

 直接の知り合いであるトリーナは『いつものこと』と、微笑(びしょう)を浮かべている。


 そして、フィルは……この『月の魔女』と名乗った美しい女性。その濃紺の髪に潜んでいたつむじを見つめながら、自分の中に湧き上がる不思議な感覚をビビッと感じ取っていた。

 それはメフィストと出会った時にも感じた、フィル自身にも分からない喜びにも似た何か。


「知らない人は憶えて帰ってね」


 一礼を終え、とんがり帽を被りながらニヤリと顔を歪めた女性を見て、フィルは思う。この人は何か違う人だ、と。

 彼女が卓やソファの近くに来た事で、フィルは彼女の格好が良く見て取れた。


 波打つ濃紺の髪。袖なく露出した腕。細く長い首。その首元から胸元へと続く細工美しいレース。レースの裏から薄っすら覗く白い肌と膨らんだ胸。半ば露出した胸の下半分を隠し、そのまま下へと体の線にピタリと沿って流れる紫。布地が続きスカート状に足元まで隠す服。スカートの側面は大胆に開いており、スラッと伸びた白い脚をチラリチラリと見え隠れさせていた。


 彼女の体を覆う服には、あちらこちらと黒い輝きが散りばめられており、見る者に暮れ始めた夜空を感じさせる艶やかさがあった。


 フィルはその紫の装いを見て、本の中で主人公の未来を予言した存在『占い師』か何かかと思った。だが同時に、頭に乗ったとんがり帽がどこか不釣り合いだな、とも思った。

 フィルは今、この不思議な女性に興味津々である。


 そんなフィルの腕の中で、メフィストがボソリと呟いた。


「何か変なのが来たな」と。


 瞬間、トリーナを見ていた女性の視線が動き、フィルの青い瞳を捉えた。

 そのまま彼女は、フィルへと柔らかに微笑(ほほえ)む。

 対してフィルは、向けられた微笑みの意味が分からず、メフィストを抱えたまま小首を(かし)げてしまった。


 そんなフィルの愛らしい仕草に、彼女の顔が『ほわほわぁ』と緩むのも無理はないことである。

 この場で緩んだのは女性の表情だけではなかった。魔女と名乗る彼女の出現で、張りつめていた空気が良くも悪くも吹き飛んでしまっていたのだ。


 しかし、そんな緩んだ空気に水を差す刺々しい声――村長の妻カラの声が、応接間に再び響き渡る。


「月の魔女? だかなんだか知りませんけど、今、私達は大事な話をしているの。部外者は出て行って下さらない」

「大事な話……フフフッ。元気な声でお喋りしてたよねぇ。外まで聞こえてたよ……特にあなたの声が」


「っ! 何が言いたいのかしら」

「べっつにぃ。ただの事実。『その子よ! その子が自分で壊して、自分で井戸の側に捨てたのよ!』だったっけかな?」


 真面目かからかいか分からぬ完璧な声真似が、余計カラの神経を逆なでする。

「全く、いつから聞いてたんだい」と呟くトリーナの声など、今のカラの耳には入っていなかった。


 これは、ブラモン家とクリスタ家の話し合い。

 村長の妻であることを自負するカラは、そこに突如として入り込んだ異物を排除せんとギロリと(にら)みつけ、魔女の乱入に拒絶の意思を示した。


 それを受ける魔女メロウは、先程フィルへ向けていた柔らかな表情とは別物の、どこか面倒臭そうな表情を浮かべている。

 大儀(たいぎ)そうな魔女メロウの態度を挑発と受け取ったカラが、顔を真っ赤に染め、今にも言葉で嚙みつかんと口を――開く前に、素早く立ち上がった村長が、己が胸元に手を当て丁寧に腰を折った。


「メロウ様。このような(へん)ぴな村まで御足労頂き、誠にありがとうございます。まさか御自(おんみずか)ら動いて頂けるとは、思ってもみない幸運」

「いいのいいの。友達が実家に帰って来てないか、ちょっと確認しに来ただけだから。むしろ、魔術師協会に来てた依頼がついで」


『相手が美人だからって、なにこんな小娘にへりくだってるのよ、あなた』等と内なる怒りで更に顔を赤らめていたカラの顔色が『魔術師協会』と聞いた途端、一瞬にして青ざめてしまった。


 実際問題としての地位の高低や格の違いは()(かく)(へん)ぴな村に住むカラにとって『魔術師』という肩書は、非常に大きなものであったのだ。

 しゅんと萎縮してしまったカラには目を向けず、魔女メロウが右手で村長に着座を(うなが)す。


 村長がソファへ腰を下ろしたその時、着座を促していた魔女メロウの右手が突如として上へと跳ねた。彼女の手が、高い天井へ指し示す。

 その右手の動きを自然と目で追ってしまった村長達。


 ただ独り、フィルの目だけは別の物を追っていた。

 フィルが追っていたのは、魔女の右手が動くよりも少し前からであった。突如として魔女の左手にはまる指輪に流れた魔力と、そこから魔力で繋がった空中。

 その二点を追っていたのだ。


 結果として五人と一杖全員が応接間の天井方向へと視線を向けたのだが、そこに三つの小瓶が突如として空中に現れ、ふわりと浮かんだ瞬間を目撃したのは、フィルだけであった。

 他の四人と一杖は、どこかに隠し持っていた小瓶を上へと投げたように見えただろう。


 一瞬間を置き、空中から落下を始める三つの小瓶。

 それを魔女メロウは、落ちる小瓶たちをまるで一振りで叩き落とさんばかりの勢いで右手を振るい、まとめて薙ぎ払ってしまう。

 すると不思議なことに、払ったあとの彼女の右手の指の間に、三つの小瓶が綺麗に納まっていたのである。


 そんな大道芸じみた光景を目の当たりにしたフィルは、自然と「おぉぉ」と感嘆(かんたん)の声を上げながら、幼い(まなこ)をキラキラと輝かせていた。


 占い師じゃなくて奇術師だったと、認識を改めながら。


 そんな勘違いを受けている事を知らぬ魔女メロウは、この場でただ独り自分の意味のないパフォーマンスを喜んでくれた少女へ、嬉しそうに目尻を下げていた。


「まっ、お仕事の話は横に置いといてさ、私はこの場の誰が『うそつき』なのかが気になって気になって仕方ないのぉ。嗚呼(ああ)、このままじゃ夜も眠れないわぁ。この玉のお肌が荒れちゃったらどうするしてくれるのぉ……ところでお嬢さん、この薬、気になる?」

「うん。気になるー」


 素直なフィルの反応に「うんうん」と魔女メロウも満足げである。

 魔女メロウが卓上で右手を横に払うと、その後には、彼女の右手の指に挟まっていたはずの三つの小瓶たちが冷めた紅茶に並ぶように直立していた。


 フィルと村長の息子、そして村長の妻。

 その三人が卓を挟んで作る三角形。その中心に置かれた、三つの小瓶。


 その小瓶たちから感じる魔力に、フィルは『なんだろう? 凄いものかなぁ?』と再び興味津々である。

 先程までの話し合いとは全く違う光が、その青い瞳に浮かんでいた。


「ふっふっふっ……これはねぇ、真実を見抜く魔女の秘薬だよ~」

「ひやく?」

「そう、ひ・や・く。貴重なお薬のこと。これは正直者が飲めば甘いあまぁい甘露(かんろ)――えっと、美味(おい)しい飲み物になり、嘘つきが飲めば『うげぇー』ってなるぐらい苦い飲み物になる、不思議な不思議なお薬なんだよぉ」


「おぉー。魔法のお薬だぁ」

「そうそう。それとね、この魔女の秘薬、性根の腐った嘘つきが飲むと三日くらい何を飲んでも何を食べても、にがぁいのが口の中から消えないんだよ」

「うー。いやだぁ」


 お婆ちゃんが作ってくれるふわふわオムレツの味が苦くなってしまう想像をしてしまったフィルの眉間が、子供らしからぬシワシワ加減になってしまった。


 そんな、先程までとは違うある意味子供らしいフィルの表情を見て、村長の心がズキリと痛んだ。

 そして村長は思う。


 村で流れている『うそつき少女』の噂と違い、この子がこの魔女の秘薬を飲んでも、きっと甘く美味しいものになるだろうと。そして恐らく、息子が飲めば――頭を抱えたい気持ちをグッと(こら)えながら、村長が魔女メロウへ問う。


「メロウ様。我々にそれを飲めと仰るのですね」

「『我々』っていうか、お嬢さん……フィルちゃんだったね――「うん」――と、たしか、ブレックくん……こっちはだんまりかぁ。それと、あ・な・た」


 魔女メロウが冗談めかして指差したのは、村長の妻カラであった。

『何でわたしが!』と言わんばかりのカラの表情に、クスクスと笑う魔女メロウの美声が応接間に木霊(こだま)していた。

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