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事故死した風俗店員がなぜか高校時代に戻ったのでせめてボッチオタクから抜け出してみようと思って頑張っていたらいつの間にかハーレムになっていた件  作者: 水源
夏は急接近の季節

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三日目は少し静かに過ごすみたいだ

 ――そして、三日目の朝。


 目を覚ますと、モーターホームの窓から柔らかな朝の光が差し込んでいた。昨日までと同じように遠くから鳥の声が聞こえているのに、今日はどこか違って感じられる。三日目。まだ旅は終わっていないものの、明日には帰ることになるのだと思うと、残された時間を少し意識してしまう。


「……もう三日目か」


 まだ少し眠気の残る目をこすりながら身体を起こし、窓の外へ目を向ける。昨日は朝からSUPに始まり、そのあと自転車、四輪バギー、夕方からはキャンプ飯まで楽しんだ。そのせいで脚や肩には疲れが残っていたものの、目覚めそのものは悪くなかった。それよりも、出発する前にもう一度だけ、この西湖の朝を見ておきたいという気持ちのほうが強い。


 カーテンを開くと、朝の西湖が目に入った。


 湖面は昨日の夕暮れよりも静かで、山の影が薄く水面へ映っている。淡い青色の空には雲が少なく、朝の風が木々の葉をゆっくり揺らしていた。


「……綺麗だな」


 窓に近づいて、思わず呟く。


 その声を聞いたのか、背後から布団の擦れる音がした。


「おはよう」


 振り返ると、九重さんがまだ少し眠そうな顔で立っていた。寝癖のついた髪を片手で押さえ、細めた目で俺の見ていた窓へ視線を移す。


「おはよ」


 俺が返すと、九重さんも俺の隣まで歩いてきた。肩が触れそうなくらいの距離で並び、しばらく無言のまま外を眺める。


「朝から外見てたの?」


「うん。なんとなく、もう一回見ておこうかなって」


「そっか」


 九重さんは小さく頷き、窓の向こうの湖を眺めたまま、少しだけ口元を緩める。


「昨日の夜も綺麗だったけど、朝もいいね」


「ああ。時間が違うだけで、こんなに雰囲気が変わるんだな」


「明日帰るんだよね」


 九重さんが少し寂しそうに呟く。


「そうだな。でも、今日一日はまだあるだろ」


「うん」


 その一言を聞くと、九重さんの表情が少し明るくなった。


「じゃあ、今日も楽しもう!」


「朝から元気だな」


「だって、まだ一日あるんだから」


 九重さんが楽しそうに笑う。


 そのとき、奥からお母さんの声が聞こえてきた。


「二人とも、そろそろ朝ご飯にしましょうか」


「あ、はい」


 俺が声のしたほうへ振り向いて答えると、九重さんは俺の袖を軽く引いた。


「行こう」


「分かった」


 朝食の席へ向かう。


「今日は何?」


 九重さんが席に着くなり、お母さんのほうへ顔を向けて尋ねる。


「今日は簡単なものよ」


 お母さんはそう答えながら、九重さんの前へ朝食を置いた。


「昨日はかなり動いたでしょう? 今日は少しゆっくりしてもいいんじゃない?」


「えー、でもまだ遊びたい」


 九重さんが少し口を尖らせる。


「もちろん遊んでもいいけれど、無理はしないようにね」


 お母さんが苦笑しながらそう言うと、九重さんは素直に頷いた。


「はーい」


 その様子を見ながら、俺も小さく笑う。


 朝食を済ませると、今日は昨日ほど大がかりな片づけをする必要はない。使った食器を洗って収納し、テーブルを整える程度で済ませると、俺たちはモーターホームの外へ出た。


「昨日はあれだけ遊んだのに、今日はまた出かけるんですか?」


 俺が尋ねると、お父さんが笑いながら頷く。


「もちろんです。まだ一日残っていますからね」


「何するの?」


 九重さんが期待したような顔で尋ねる。


「それは行ってからのお楽しみだ」


 お父さんが少し楽しそうに笑う。


「また秘密?」


 九重さんが眉を寄せる。


「今回はお父さんが決めたからな」


「えー」


 九重さんは不満そうに頬を膨らませたものの、すぐに興味のほうが勝ったらしい。ぱっと表情を戻すと、楽しそうに外へ出ていく。


     ◇


 しばらく走ったあと、モーターホームが向かったのは西湖野鳥の森公園だった。


「ここ?」


 九重さんが窓の外を覗き込み、少し首を傾げる。


「そうみたいだな」


 車を降りると、朝の森にはひんやりした空気が残っていた。木々の間からいくつもの鳥の声が聞こえてくるものの、声の主は簡単には姿を見せない。遠くで鳴いたかと思えば、今度は別の方向からまた声が響いてくる。


「……なんか、昨日の夜とは別の場所みたい」


 九重さんが周囲を見回し、驚いたように目を丸くする。


「昨日は火と湖だったけど、今日は森だな」


「鳥、いるかな?」


 九重さんが木々の上を見上げ、目を輝かせる。


「いるんじゃないか?」


「探そう!」


 九重さんはそう言うなり、勢いよく歩き出した。


「ちょっと待てって」


 俺が苦笑しながら追いかけると、九重さんが振り返り、少し申し訳なさそうに笑った。


「あ、ごめん!」


「本当に元気だな」


「せっかく来たんだから、見たいじゃん」


 九重さんは笑いながら先へ進む。


 しばらく歩いていると、九重さんが突然足を止めた。


「今の何?」


 耳を澄ますように首を傾け、周囲を見回す。


「分からない」


「えー」


「俺に聞くなよ」


「だって分かりそうな顔してたから」


「どんな顔だよ、それ」


 俺が呆れて返すと、九重さんは吹き出して肩をすくめた。


「じゃあ、一緒に探そう」


「それならいいけど」


 そのとき、お父さんが少し先にある望遠鏡へ気づき、手で示した。


「ここに望遠鏡がありますよ」


「あ、本当だ」


 九重さんがすぐにそちらへ向かう。


 施設には周辺に生息する生き物についての資料もあり、九重さんは興味深そうに掲示を眺めながら、時々望遠鏡を覗いていた。


「こんなにいるんだ」


 資料を読みながら、驚いたように目を見開く。


「結構種類がありますね」


 俺も隣から覗き込む。


「六十種類くらいいるみたいですね」


 お父さんが説明を読みながら教えてくれる。


「そんなに?」


 九重さんが振り返り、目を丸くする。


「この辺りは自然がかなり残っていますからね」


 お母さんが森を見上げながら穏やかに答える。


「鳥にとっても過ごしやすいんでしょうね」


「なるほど」


 九重さんが頷き、再び望遠鏡へ向かった。


 しばらく覗いていた九重さんが、突然「あっ」と声を上げた。


「いた!」


 さっきまでの落ち着いた表情が一瞬で消え、顔いっぱいに嬉しそうな笑みが広がっている。望遠鏡から顔を離すと、今度は俺の肩を軽く叩いた。


「いたよ!」


「本当?」


「うん、あそこ!」


 九重さんが指を伸ばし、枝のあたりを示す。


 俺もその方向へ目を向けると、枝の間で小さな鳥が動いていた。


「本当だ」


「見えた?」


「見えた」


「やった!」


 九重さんが両手を小さく握り、子どもみたいに嬉しそうな顔をする。


 その表情を見た瞬間、昨日SUPで湖へ漕ぎ出したときや、バギーに乗っていたときの姿が頭に浮かんだ。


 楽しそうなものを見つけると、すぐに表情が変わる。


 それは昔から変わらないし、たぶんこれからも変わらないのだろう。


「こういうのもいいね」


 九重さんが望遠鏡から離れ、さっきまでとは少し違う、落ち着いた笑顔で森を見渡す。


「うん」


 俺も頷く。


 昨日のように身体を動かすわけではない。ただ歩いて、鳥の声を聞いて、たまに足を止める。それだけなのに、時間がゆっくり流れていくように感じられた。


「西湖って、いろんな楽しみ方があるんだな」


「そうだね」


 九重さんが頷く。


「来る前は、SUPしてバギー乗って終わりだと思ってた」


「俺もそう思ってた」


「でも、森も楽しい」


「今日の予定、結構いいんじゃないか?」


 俺がそう言って笑うと、九重さんは得意そうに胸を張った。


「でしょ?」


 しばらく森を歩いたあと、モーターホームへ戻る。


 昨日のにぎやかな時間とは違って、今日はゆっくりと景色や音を楽しめた。昨日までとは違う過ごし方だったが、それもまた西湖らしい時間なのかもしれない。


     ◇


 公園を出るころには、朝の眠気もすっかり消えていた。


「じゃあ、次はどこへ行くんですか?」


 俺が尋ねると、お父さんがハンドルを操作しながら、ちらりとこちらへ視線を向けた。


「温泉です」


「温泉?」


 俺が聞き返す。


「昨日はかなり身体を使ったでしょう。帰る前に温泉へ寄って、疲れを取っておこうと思いまして」


「それはありがたいですね」


 俺が笑うと、お母さんも嬉しそうに頷いた。


「富士眺望の湯 ゆらりに寄ろうと思っているの」


「温泉!」


 九重さんが後ろから身を乗り出し、目を輝かせる。


「いいじゃん!」


「昨日シャワー浴びたばかりだろ」


 俺が呆れた顔をすると、九重さんは当然のように胸を張った。


「温泉は別だよ! シャワーを浴びるより、ずっと疲れが取れるよ」


「まあ、それは分かる」


 俺が苦笑すると、九重さんは満足そうに頷いた。


「でしょ?」


 やがてモーターホームが目的地へ到着する。


「結構大きいな」


 俺が建物を見上げると、お母さんが館内の案内を見ながら教えてくれた。


「いろいろなお風呂があるみたいよ。露天風呂もあるし、サウナもあるみたいね」


「やった!」


 九重さんが両手を上げる。


「何にそんなに喜んでるんだよ」


「だって温泉だよ?」


「それはそうだけど」


 中へ入り、受付を済ませる。


 ここから先は男女別なので、俺たちは入口で足を止めた。


「じゃあ、出たらここで待ち合わせな」


 九重さんがこちらを見上げ、軽く頷く。


「うん。ゆっくり入ってきてね」


「九重さんもな」


 そう言って、それぞれの浴場へ向かう。


 身体を洗ってから湯へ浸かった瞬間、思わず大きく息が漏れた。


「……あぁ」


 昨日までの疲れが、温かい湯の中へ少しずつ溶けていくように感じる。脚を伸ばすと、太腿に残っていた重さがゆっくりと和らいでいく。肩に残っていた張りも、じわじわと抜けていった。


「……やっぱり温泉っていいな」


 露天風呂へ出ると、風が肌を撫でる。


 空は青く、遠くには富士山の姿も見えた。


 昨日までの疲れを癒やしながら眺める景色としては、これ以上ないような気がした。


 しばらく何も考えずに湯へ浸かる。


 まだ今日一日は残っているし、明日には帰ることになる。それでも、こうして身体を休める時間があるだけで、残りの旅もまたゆっくり楽しめそうな気がした。


     ◇


 待ち合わせ場所へ戻ると、少しして九重さんもやってきた。


「お待たせ」


 髪を整えながら近づいてくる九重さんを見て、俺も笑う。


「おう。どうだった?」


「最高!」


 九重さんが満面の笑みで答える。


「こっちもかなり良かった」


「でしょ?」


「なんで九重さんが自慢するんだよ」


「いいじゃん」


 九重さんがいたずらっぽく笑ったところへ、お父さんとお母さんも戻ってくる。


「お二人とも、さっぱりしましたね」


 俺が声をかけると、お父さんが首を軽く回しながら笑う。


「おかげで身体がかなり軽くなりました」


「私もです」


 お母さんが肩を回しながら、ほっとしたように微笑む。


「これなら、午後も少し動けそうね」


「そうですね」


 俺が頷く。


 まだ今日は終わっていない。


 明日が帰る日だからこそ、三日目も最後まで楽しめる。


 そう思いながらモーターホームへ戻ると、九重さんが振り返って笑った。


「じゃあ、このあとどうする?」


「まだ何かあるのかよ」


「もちろん!」


 九重さんが楽しそうに答える。


 俺は思わず苦笑した。


 ……三日目も、まだ終わりそうにない。


 そして。


 この旅の最終日は、明日だ。

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