属性は・・・僧侶
「さあさあ、どんどんお食べ下さい。たくさんご用意させて貰いました」
「こんなに食べられないんだけどな・・・」
村に招き入れられた俺は村人たちに盛大におもてなしを受けた。風呂も借りて汚れた体も洗い流した。
「わたち、シチっていうの」
4歳ぐらいの可愛らしい舌っ足らずの女の子が自己紹介してきた。
「これね、わたちのお母さんとおばあちゃんがつくったの。」
シチが指さしたのは白い綿のようなものに赤い果実がのせられたお菓子。
「いちご大福・・・」
「ダイフクってなにぃ?」
ひとつ手に取ってかぶりついた。
もちもちとした食感に口の中に甘い果汁が溢れ出して鼻からすーっと抜けるような花の香り。
「おいしい・・・」
昔、母が作ってくれたいちご大福を思い出した。いつからか作ってもらえなくなった。
自分が死んでしまったという事実を思い出し、あの町を思い出す。周りに畑しかないあの町を思い出す。胸が痛くなり涙が溢れそうになった。堪えようとしても堪えられない。
「涙出ちゃうくらいおいしい?」
シチが顔を覗き込んできた。布でそっと涙を拭いてくれる。
「おいしい。うぅ......」
「そんなに喜ぶならもっと作ってやるよ」
シチのお母さんも喜んでいた。いちご大福がこんなところで食べられるなんて。お腹が空いていたからか出された食事を全て平らげてしまった。お腹が空いていただけではないのかもしれない。ここの食事が元のいた世界のものに似ていた。味や形が異なっていても温かみがあった。温もり。作ってくれた人の気持ち。
死んで初めて知った。生きていた時に「いただきます」や「ご馳走様」とちゃんと言っておけばよかった。思春期をいいことにだんだんと家族との食事も減っていった。だから親父とだって話が合わなかったのかもしれない。親父と向き合えなかったんだ。
「あれ、グノン兄ぃがいないよ?」
長老の孫キクノが言った。グノンはキクノの兄だという。
「グノンは放っておいたほうがいい。あいつは頭を冷やす時間が必要なんじゃ。」
長老とグノンの間には何かあったみたいだ。
長老は眉間に皺を寄せた。
「勇者様、この世界についてお話します」
「勇者様なんて気恥しいな・・・。呼び方変えてもらってもいいですか?」
長老が困ったような表情を浮かべた。
「勇者でなければ何と?」
そっか。この世界には信仰という習慣がないのかな。宗教もない。なら僕の存在はなんと呼べばいいのだろう。
「サトリって呼んでください」
本名の悟をもじってサトリにした。
「サトリ様ですか・・・。分かりました」
村人達はサトリ、サトリと口々に呼び始めた。
そんなに呼ばれるのは照れる。
「サトリ様、この世界に今不思議な病が広がっています」
「病ですか?」
「はい。その病は医者に診てもらっても原因不明なのです。そしてその病にかかった者は────“自殺”します─────」
自ら死を遂げる病か。不思議だ。俺は医者じゃないし学生だった。今は僧侶の格好をしているがそんな俺に何が出来るのか。
「サトリ様は、不思議な力をお持ちなのですよね!」
「不思議な力・・・?」
キクノが目を輝かせて言った。
「はい!村の言い伝えによると千年前に世界を救った勇者は不思議な力の持ち主であったと。」
勇者は剣を使ったり魔法を使えたり、何かしらの属性があるだろう。
属性 僧侶
属性僧侶なんて聞いたことがない。初期の持ち物は数珠と教本だ。
それに僧侶になりたくない。寺を継がないと家を出たから僧侶としてのLvは1に満たないと思う。
このままでどうする?世界をどうやって救う?それに目に見えないモノらしいじゃないか。
このままじゃ元の世界に生き返られないよ。
教えて、お釈迦さまーーーー!!!!
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苦しい。声がでない。頭痛も酷い。今日でこの状態から何日目だろう。じぃさんと喧嘩した後からだから・・・うーん、頭が回らない。家の外に出られない。ボクはアイツになったのかもしれない。幸か不幸か家族にもまだ気づかれていない。
そういえばキクノが今朝「じいちゃんがね、今夜晴れたら勇者様を呼ぶって言っていたよ!」と伝えに来た。部屋には入れさせなかったからドアの向こう側で楽しみにしているのが声色で分かる。このままバレずに過ごせたらその勇者とやらが国を救ってついでにボクも治してくれるだろう。
もう少しの辛抱だと言い聞かせた。
助けを呼びたいが人に会いたくないという思いが強まっていた。何故か分からない。ただ会いたくない。
『『シャンシャン ドゥン シャン』』
太鼓の音がなり始めた。儀式始まったんだ。
じぃさんの言う通り勇者がいるのなら早く来てくれよ。ボク、死にたくないよ。
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「陛下、例の患者が人口の3割に達しました・・・!!」
「そうか、もうそんなに......」
国中は今原因不明の病に混乱している。城下でも既に死者が出ている。死者のほとんどは自殺だと言うから不思議だ。余が即位してからすぐのことであった。余が悪いのだろうか。日に日に不安が降りつもり円形ハゲが出来てしまった。シャワーを浴びる度に手に絡みつく髪の毛。いっその事刈り上げてしまおうかと何度も思った。前国王のお父上は郊外の方で隠居中。
国王やめたいと側近に言ったが「貴方様しか居ないのです」と聞き入れてもらえない。
どなたか余を救ってくれる方はいないものか。
「お兄さま、お父様が大変ですわっ!」
妹のシュリが息を切らしてやってきた。
「父上がどうした!?」
「お父様が──っ!」
なんだと..。ついに身内にまで。
目眩がしてその場に倒れた。もうこの国は・・・
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サーガの夜の星はこの世で一番美しく見えると有名だ。自身の存在を誇張するように最も輝いて見える一番星はキレイカと呼ばれた。
キレイカは今夜も赤く燃えていた。キレイカは地方では厄災をもたらす星だとされている。
キレイカを映し出す景色も西へと移り、夜が明けていった。