出会ったのは・・・釈迦
「俺は継がない!絶対に坊主になんてならないからな!!」
俺は学生鞄を玄関に投げ出し、家から飛び出て駆け出した。帰ってきて早々、跡継ぎだからあれしろこれしろと念仏のように言ってきて。俺は普通の生活がしたいんだ。田舎から市内の私立高校へ行ったよっちんたちは駅のスタバで勉強してるって言ってたっけ。俺もそうしたい。学校帰りに墓掃除なんてしたくない。どうしてうちの近くの高校を選んでしまったのか今でも後悔している。
田舎道をゆく宛もなくとぼとぼ歩いていた。
『ブッブッブーーー!!!!!』
後方から車のクラクションの音と「危ねぇから逃げろ!!!」という叫び声が響く。
振り向いてみると窓ガラスから見える運転手の表情は青ざめている。
あれ、この車俺に向かってきてね?うそ、ヤバい。ヤバいだろ。
止まる様子の見えない車はどんどん近づいてくる。
──俺、死ぬかも。極楽浄土に逝っちゃうかも。
*********
「お主、起きろ。起きろー」
「ンン。んんん?どこ・・・」
目覚めると真っ白で先も見えないような空間にいた。一風変わった呼び方で起こしてきたのはインドのサリーのような服を着た若々しい青年だった。
「起きたか?」
「どちら様ですか?」
青年はパッと見170cmはありそうで居るだけで存在感がある。その風貌では似つかない程の重々しさ。特別感。威厳。そんな言葉じゃ言い表せない。
「我が名は釈迦」
「え、お釈迦様ですか?!」
仏教徒でなくても誰でも知っている。仏の中でも最も偉い如来である。
「あぁ、その通り。」
「俺、死んじゃったんだ・・・」
「その通り。お主は死んだ」
俺は膝から崩れ落ちた。死んだなんて。信じたくない。親父とだって半分喧嘩別れしたようなものだ。悔いしか残っていない。死にたくない。死にたくないよ。
「そんなに死にたくないか」
お釈迦様は囁くように言った。
「死にたくないです。この世に未練があります。なんでもいいから、どんなことでもします。お釈迦様の言う通りします。だから生き返らせて・・・」
縋るように、涙と鼻水のせいでかすれ声になりながら言った。
「そうか。死にたくないか。」
お釈迦様は眉を揉んだ。
「お主は小さい頃から知ってるからな.....」
お釈迦様が俺を知ってる?なんで。
「小さい頃からお主は親父さんの隣でいつもお経を唱えていただろ?あの姿はとても可愛かった」
確かに幼い頃から親父の隣でお経を唱えていた。それが唯一親父が俺に関心を向けてくれる時間だった。お経が飛んでしまったり、言い間違いをしたら指導してくれた。それが嬉しかったのだ。
「どんなことでもすると言ったな?」
「は、はい。」
「なら、お主に頼みたいことがある。
今、お主の力を必要としているところがあるんだ。」
俺の力を必要としている・・・?
「そこにお主の魂を一時的に転生してやる。そしてその世界を立て直すことが出来れば、生き返らせてやろう。」
お釈迦様の提案は予想外のものだった。だが、その案を飲まない理由は無い。
「やります。お願いします」
頭を下げ必死に願った。それで生き返ることが出来るなら。
「では。重冨悟を輪廻転生!」
お釈迦様のお言葉は地面を揺るがした。
視界がゆらぎ、俺は吸い込まれるように眠っていた。