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魔王の救世主様  作者:
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反撃の糸口



 少々の波乱はあったが大した混乱はなく、宗一にとってはほぼ予定通りに顔見せという山場を乗り越えた。

 あくまで宗一にとっては、だが。


 計画とは大幅に異なる宗一の行動にアリシア達はご立腹であった。

 今この場にいるのは宗一、アリシア、レイチェル、カイル、オリバー、ディボット兄妹、ベアトリス、ロメロの総勢9名。

 これが今回、自身の独断に対する説明において宗一が同席を認めたメンバーである。


「まずは謝罪する。俺はお前らを騙した」


 計18の瞳に見据えられた宗一は素直に謝罪した。

 その言葉を受けてアリシアが問う。


「なぜあのような事を?」


 事前の計画であれば宗一に奇襲があった場合、完全に接敵を許すのは一人までで、複数からの攻撃があった場合残りはカイルやベアトリスが受け持つことになっていた。


 複数からの同時攻撃は捌けない。

 宗一が語った、自動障壁を持たぬ自身の決定的な弱点だったはずである。


 ところが蓋を開ければ攻撃を受けなければ動けないはずの宗一が誰よりも速く先制攻撃を仕掛けた。

 この時点で計画は瓦解。

 カイル逹遊撃部隊は下手に動くこともできず宗一からの指示があるまで立ち尽くすことになった。


「内通者を炙り出すためだ」


「内通者、だと?」


 カイルが眉をひそめる。

 臣下の中にそんなものがいるとは信じられないといった口振りだ。


「まあ内通者か間者かは未だ不明だけどな。とりあえずこの中にはいないと踏んでいる」


「なぜそれが分かるのだ?」


 内通者などといった疑わしい存在は今まで察知されていなかった。

 それだけにレイチェルの疑問は最もだ。


「じゃあ種明かしといこう。リン、『サイレント』で姿を消して室内の好きな場所に移動してくれ」


「……それになんの意味が?」


「俺が刺客に対して先制攻撃を仕掛けられた秘密を教えてやる」


 不満げではあったがその秘密への興味も手伝い渋々といった感じでリンは姿を消す。

 これでリンの居場所を正確に知ることはこの場にはいない。

 ただ一人を除いては。


「そこ」


 宗一はいきなり体の向きを変えて入り口横の壁を指差す。

 すると背景がわずかに揺れてリンが姿を現した。

 サイレントを見破られたリンも、それを見ていたアリシア達も言葉を失う。


「次はもっと速く、複雑に動きな」


 リンは再びサイレントを行使して会議室内を縦横無尽に駆け回る。

 が、その存在のことごとくを宗一は正確に捉え続けた。


 それを10回ほど繰り返すとリンから諦めの声が上がった。


「もういいです。何で分かるんですか?気配は無いはずなんですけど」


「その通り、気配がない。だから分かるんだよ」


「どういうことですかな?」


 要領を得ない宗一の解答にロメロを始め皆が首をかしげる。

 驚きと困惑の視線を受けながら宗一は種明かしを続けた。


「サイレントは立派なもんで気配はおろか音や香りも感じ取れない。でもそれは本来なら存在するべき空気の流れすらも感じさせないねーんだよ」


「空気の流れ?」


「何もない場所や空間でも空気は存在してそれは絶え間なく動き続けてる。だがサイレントを使うとそういった空気の流れさえ消し去っちまう。するとどうなるかというと『本当に何もない空間』が浮かび上がるわけだ。これは不自然すぎる」


「待て!貴様には空気が見えるとでも言うのか!?」


 レイチェルが驚愕のあまり声をあらげるが無理もない。

 宗一の言葉が真実ならば彼に対してサイレントは全く意味がないことになる。


「目に見えるわけじゃないけどな。流れを感じるってのが的確な表現か」













 開いた口が塞がらない。

 それがこの場にいた魔族の偽らざる心境だった。


 強者であればわずかな気配から相手の存在を察知する。

 それを阻害するのがサイレントの遮断効果だ。


(事もあろうにそれを逆手に取って隠密を見破るだと!?)


 そんな手段、そんな技術を寡聞にしてレイチェルは知らない。

 この世界において知っている者などいるはずがなかった。


「これで分かったと思うけど、城内に時たまサイレントを使ってうろちょろしてる奴がいるんだよ」


「それが内通者なのね?」


「頻度からして侵入者ってよりはこっち側の魔族だろうな。そいつは当然魔天楼の対策会議にもいた。だからお前らを含めて嘘っぱちの力と弱点を教えたんだ。絶対的な有利を確信した者は油断を招く。それは人間でも魔族でも変わりはないみたいだな」


 平然と口にする宗一ではあったが、もし魔天楼員が訪城するという一報があった段階でここまで思い描いていたと言うなら、自分達は一人残らず宗一の掌で踊らされていたことになる。


「……僕らにサイレントについて詳しく聞いてきたのはそのためだったんですね?」


「ああ、確証を得るために必要だったんだよ。顔見せの場で最大限の油断を生じさせ、なおかつ俺自身の力量をある程度誇示するためにもな」


「……認識を改めなければいけませんな。タカムラ殿は『只者ではない人間』などという範疇に収まる方ではありませぬ」


「んじゃなんだよ?」


「『怪物』でしょうかな」


「魔族に怪物と呼ばれる人間か。いいね、気に入った」


 実に楽しそうに、心底可笑しそうに、眼前の人間は笑う。


「最初からこれが狙いだったのか?」


 だとしたら感嘆の念を禁じ得ない。

 一際人間に憎悪を抱くレイチェルですらそう思わせる手腕。

 知力では自分など足元にも及ばないと痛感させられた。

 だが、高村宗一はこの程度に留まる男ではなかった。


「まさか。これで反撃の糸口を掴んだんだぜ?」


 この男はまだ何か企んでいる。

 空恐ろしさと疲労感がレイチェルの双肩を襲う。

 それを知ってか知らずか、宗一は口の端をつり上げる独特の笑みを作る。


「レイアートを筆頭とした反抗勢力を狩り尽くすぞ」




イーグルス初優勝おめでとう。

本当にありがとう。

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