第5話 二重トラップ
臣民党の三沢深雪幹事長は、野川代表との密談を終えた。
深雪は無言で指定された場所に向かう。
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紺色の地味なリクルートスーツの女は、携帯電話を耳に当てながら密談の内容を電話相手に愚痴った。
「先生、私はこの合併案は罠と思います。でも野川さんは譲らないのです」
「そうだね。そんなに単純なことじゃないね」
「日進派のようなカルトが約束を履行する筈がないじゃ無いですか」
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小川進一郎は、三沢を宥めて電話を置いた。
深いため息のあと、禁煙中の煙草に手を伸ばす。
三沢の言う通りの罠なら、連立離脱は偽装の可能性がある。
小川は苛立ちの中、煙草のパッケージを弄ぶ。
おそらく自戒党が自作自演・・・・・・。
そして、メディアが煽り潰しに掛かるだろう。
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小川の脳裏には落選後の自身の青写真が浮かんでいた。
「議員年金で隠居も悪くないーー 」
運転手が小川に尋ねた。
「先生、それ本当ですか」
「いや、老人の独り言だよ。慌てないようにね」
「失礼しました」
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三沢深雪を乗せた赤い車が、湾岸の倉庫街のレストラン前の暗い駐車場に停車した。
湾に停泊しているヨットの帆が月明かりに照らされ光っている。
時より浦風でレストランの赤い旗がハタハタとざわめいていた。
雨上がりの駐車場には三沢の車以外にも公用車が数台見える。
乱暴に進入して来た白い車が大きなブレーキ音を軋ませた。
その車が三沢の車に貼り付く寸前でぴったりと止まる。
刹那、ライトが消え駐車場が闇の中に溶け込む。
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赤い帽子を深く被る白いスカートスーツの女が車から降りた。
夜空を仰いでいる女の顔は黒いサングラスに遮られ見えない。
鈍い光沢のネイビーカラーの車からヤクザ風の顔立ちの要人警護が女の前後左右を素早く囲み鉄板入りの鞄を構えた。
女は雨上がりのアスファルトの水溜りを気にしている。
赤いハイヒールの先を無邪気に水溜りの中に入れ薄笑いを浮かべた。
黒い液体が透明な水溜りに広がる。
レストランのスモークガラス窓から漏れる光が車に映り反射した。
会員制レストランのVIP専用口に、初老の総支配人と筆頭執事が寒空の下に立って女を出迎える。
グレースーツの執事は腰を低くしながら、警護のSPと女の間に入った。
サングラスの女を店の奥へ案内した。
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仄かに明るいレストランの廊下の壁面に裸婦の絵画がライトで浮かんでいる。
不気味に光る油絵の光沢。
セキュリティサービスは店の出口に数人が残った。
女性警備数人は個室の入り口外に佇んでいる。
高石百合の携帯電話がブルブルとレストランの個室で踊った。
「はい、高石です」
「先生、すべて予定通り順調でございます」
「広告、小道具もね」
「すべて手配済みでございます」
「気象情報が分かり次第、始めるわよ」
「はい、敵側は二重トラップに気付いていません」
お読みいただきありがとうございます。
三日月未来




