第三章 セレスト村2
翌朝、
空気は冷えていた。
リー・テンは斧を肩へ担ぎ直す。
この斧を手に入れてからまだ4日目。
重いことは変わらない。
だが、初日ほどではない。
一昨日の死闘の最中、
本当に少しだが武器を力任せに振らない感覚をつかんだ。
――近くの森までしばらく歩く。
ふと桃花は森の入口で立ち止まった。
「もう一回確認よ。単独行動はしない。囲まれたら下がる。突っ込みすぎない。」
リー・テンは大きく頷く。
「わかってる。」
「本当に?」
「……たぶん。」
桃花は呆れた顔をした。
森へ入ってから一時間ほど、
痕跡はすぐに見つかった。
粗雑な足跡、
折れた枝、
食い荒らされた獣。
……そして、臭い。
リーは顔をしかめる。
「くっさ。」
放置された獣肉が直射日光と雨でねっとりした臭気を放っている。
即座に口呼吸に切り替えるが、汚物がのどにへばりつくようだ。
「小鬼は衛生概念ないから。」
桃花はしゃがみ込み、地面を見る。
「これから集落に近づくにつれて、もっと臭いはひどくなっていくわよ。今のうちに慣れておいて。」
しかし、そう言う桃花もいつもより明らかに不快そうな顔をしている。
そのまま痕跡を追う。
するとそう遠くないところから草を踏み分ける音が聞こえた。
「……っ、近い。」
リーは斧を握り直す。
心臓が少し速い。
だが、以前よりは落ち着いていた。
スライム相手に死にかけていた頃とは違う。
でも、怖くないわけじゃない。
昨夜桃花から聞いたことを思い出す。
小鬼は知性がある。
頭を使ってくる。
リーは対人戦もそうだが、
相手の思考を読むのが苦手だった。
知能の低い魔物や魔獣相手なら、
力や速度で劣っていても時間をかけて工夫をすれば勝てた。
今回はそううまくはいかないだろう。
だが、少なくとも、「戦う」こと自体には慣れ始めている。
大丈夫だ。
そう言い聞かせて目の前の草むらに意識を集中させる。
その時、茂みが揺れた。
小鬼が二体。
小柄だ。
身体はかびた緑色。
短い棍棒を持っている。
リーは反射的に踏み込み、斧を振る
以前ならここで力みすぎていた。
だが今回は違う。
重さを利用する。
振り下ろすんじゃない。
落とす。
桃花に言われた「流す」感覚。
まだ完璧じゃない。
でも斧は以前より自然に加速した。
小鬼ごと地面が砕ける。
リー・テンは少し驚く。
「……お。」
前より軽い。
振り切った後の隙も小さい。
そこへ横からもう一体。
リー・テンは咄嗟に柄で殴る。
吹き飛ぶ、
……が、さらに後ろに三体。
「多っ!」
桃花が刀を振りかぶった体勢で前へ出る。
速い。
一太刀ごとに急所だけを断つ。
予備動作も最小限で素早い。
無駄がないのだ。
だがリー・テンも止まらない。
斧を横薙ぎ。
木ごと叩き折る勢いだ。
小鬼がまとめて吹き飛ぶ。
「うおっ!?」
今度はリー本人が驚いた。
威力がデカすぎる。
桃花が少し目を見開く。
「……もうそこまで扱えるの?」
「え?」
「一昨日まで完全初心者だったでしょう。」
リーは自覚がなかった。
でも確かに
身体が覚え始めている。
重さ
遠心力
踏み込み
全部が少しずつ繋がってきていた。




