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4.春の息吹とブラックホール#3


「……あかさたな……はまやらわ……」

「あったか?」

「む、むぅ……見つからないですねぇ……」


 それはそれはデカいクラス割の紙の前

 聞いたことも無い名前の群れの中。


 俺たちはそんな中から互いの名前を探す苦行を強いられていた。んだよこれ、ミッケかよ。非効率な……。


「あ! 私ありましたー!A組!」

「シンプルな見落とし」

「一緒のクラスでは無いみたいですね……残念です……」

「そいつは良かった」

「どういう意味ですかっ!」


 にしても、無いな。

 俺、本当に合格したの?


「曽根美咲……滝沢クリス太郎……」


 なんこれ? ハーフか?

 にしても太郎て。


「……楯橋真杜(たてはしまもり)……」


 極端な事にち、つ、て、との名字は俺のクラスには居ないようで楯橋さんとやらの下に「並河千尋」俺の名前があった。

 朝っぱらから手間かけさせやがって……。


 楯橋真杜とやらの名前を聞き、文が騒ぐ。


「可愛い名前ですね! 響きがまるっとしてます!」

「お前の感性が分からん。むしろ角ばってるだろ」


 顔も知らねぇ奴の話題でよくもまぁこんなにも……。


 ――きゃぁぁぁーっ!


「な、なんですか!?凄い悲鳴!」

「人間大のゴキブリでも出たんじゃない?」

「その感性の方が分かりませんっ!」


 野次馬根性で聞いている内にそれは悲鳴ではなく、歓声であることが分かる。なにやら心の中で全力全開土下座をスタンバイした方が良さそうだ。


――生徒会長よーっ!

――姫川せんぱ〜〜い! こっち向いて〜!


「まるでスターの御成りだな……」

「見てください千尋さん! あの人ですよ!」


――うふふ、みなさん。ごきげんよう。


ごきげんよう、て……。

そこそこの進学校とは聞いてるが

お嬢様学校に来た覚えはねぇぞ……?


「素敵ですねぇ……姫川アリス先輩ですよ……」

「姫川姫川……そういやパンフで見たな」


生徒会長、姫川アリス。


名前の通り不思議の国のアリスの話から出て来たような

艶のある金髪に白い花のカチューシャをつけている。


絵に描いたようなお嬢様。

歩く姿も、手を振る姿も優雅で……。


隣には肩幅の広い冴えない感じの、薄ら笑いを浮かべた大男がボディガードの様に寄り添っていた。


「あら?アナタ……」


やっべ。こっち来た。

 

クラス表見とこ。

剛徳路が不思議そうに俺を見るが構うもんか。


「剛徳路 文さん。よね?お会い出来て光栄だわ」

「えっ?!わ、わたし!?は、はい!剛徳路文です!」


……俺じゃ無いのか。まぁ、当然っちゃ当然だな。

にしても。こんな凄そうな人(嫌味)にまで名前を知られてるなんて

異能力特待生サマも、案外ダテじゃねぇな。


もうとっくに用は無いクラス表を見ながら

俺は2人の会話に聞き耳を立てた。


「あの、あのあの……!握手とか……!」

「えぇ。勿論よ。うふふ、可愛らしい手ね」


「か、可愛らしいだなんてそんなぁ!でへへへ……」

「この可愛らしい手の何処にあの、膨張する力(インフレイション)の力が秘められているのかしらね?ふふっ……!不思議で仕方が無いわ……」


「貴方のこの力があればきっと、素晴らしい未来を掴めるはずよ。胸を張ってね?」

「……は、はい!ありがとうございます!どんな高い壁も!打ち破って見せます!」

「ふふっ、頼もしい。けれど、学校では程々にね」


さて。と。俺はこの機に乗じて……

褒められて顔をでろでろに蕩けさせている剛徳路を置いて

1人で玄関を目指した。だが……。


――そしてあなたが……。


脚を止めるつもりは無かった。

 

だが、別人か?と思えるほど低くなった姫川アリスの

声はトラバサミの様に俺の脚を掴んだ。


「並河千尋くん……だったかしら?」

「千尋さん凄いです!」


「いやーはは。僕みたいな雑草をご存知とは恐縮……」

「千尋さん?なんですか?そのヘンテコな喋り方……」

「黙っとけ」


にしても。ほんと。なんで知ってんだ?

こいつはともかく、一般入試の俺がこんな高貴な人(嫌味)に目をつけられる言われは……。


「不思議かしら?あなた、けっこう有名人なのよ?」

「へ、へぇ……そりゃ、どうも……」


有名人、ね。名声では無いのは確かだな。

いや、悪名を被った覚えもないが。


「聞いたわよ?濁流に飲まれそうな男の子を助けようと、無謀にも飛び込んだんですってね?」

「結局、二次被害を生んでコイツに助けられただけっすけどね」


「そうおっしゃらないで?」


姫川アリスは顎に手を当て、クスリと笑うと

さっき剛徳路にしていたように俺の手を両手で握り込んだ。


「真っ直ぐな子は……好きよ?」


……顔も声もスタイルも一級品。

並みの男なら一撃でハートを撃ち抜かれるんだろうな。


だが……残念ながら俺は『並み以下』。

 

のっぺらぼうの上にコピペされたような笑顔。

エメラルドの様な瞳を覆うぐちゃぐちゃのドス黒い渦。

スベスベとしていながら、真冬の鉄柵を素手で掴んだような手の冷たさ。


それら全てがこの女が俺を歓迎しちゃいないと言う事を知らしめるのに十分な要素だった。


「そっすか。なら……嫌われんのも時間の問題かもな」

「まぁ……それは残念ね?けれど、どうして?」


「さぁな。俺にも分から……」

「ちょっちょ!ストップ!ストーップ!」


剛徳路が強引に俺の頭を鷲掴みにして、一緒に頭を垂れさせる。ま。傍から見りゃ、どう考えても俺が悪い。


「ご、ごめんなさい姫川先輩!この人……その……あれです!中二病……みたいな!本心じゃないんですよ!」

「ごめん。マジ黙れ」


「ふふっ。元気でなによりじゃない?」


剛徳路にほぼヘッドロックをかけられている状態の俺を見て姫川アリスは笑い、通り過ぎていった。


世良(セラ)。行くわよ」

「はい。会長」


口を挟むでも無くただ後方で男は規則正しい足音で玄関へ向かう。2人の通った後に塩でも撒いてやろうか、ダメだ持ち合わせてねぇ。そんな風なことを考えてると……


「それじゃあお二人共?良い3年間にしてね?」

――……出来るものなら。


「……はいっ!お忙しい中、ありがとうございます!」


満開の笑顔で手を振る剛徳路にはあの会長サンがお花畑でスキップするお姫様かなんかに映っているのだろう。


俺の目には……一木一草ことごとく灰と化した焼け跡を去る、魑魅魍魎の類に映っていた。

 

声に出していないにせよ。あの女が口パクで付け足した最後の言葉は間違いなく「出来るものなら」だった。


ご丁寧なこった。わざわざ俺にだけ分かるように……。


「ステキでしたねぇ……姫川先輩!ねぇ千尋さん!わたしもあんな風になれますかね!?」

「あんな風に……ねぇ……」


いつものようにしいたけ目をキラキラとさせて俺を見上げる剛徳路。さっきの姫川アリスの指紋を拭うようにピンク頭へ手を乗せて、俺は笑う。


「どう足掻いてもお前にゃムリだ。諦めろ」

「むーっ!どうしてそんなイジワル言えるんですか!」


「褒めてんだよ。これでも」

「どこがですかー!?」


ひとしきりプンスカしたら満足したのか剛徳路は自分の右手を空にかざして見つめ始めた。


「それにしても感激ですぅ……!

わたし!もう一生手、洗いません!」


んな、大袈裟な……。


「そか。俺はふつーに洗うけどな。超洗う」


ちらっと睨むあの女の背中。世良とかいう野郎から消毒スプレーを受け取り常軌を逸した回数、手に吹きかけている。

そして高そうなハンカチで赤くなるまで強く擦り……

すぐ近くに居た炎属性の能力者に焼却させる……。


「千尋さん……?」


そうかい。俺の手は、そんな汚かったか。


「急ぐぞ。下駄箱、もうすぐ混む」

「……はいっ!」

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