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0.徐々に奇妙な日常



 ──今から数十年前。20xx年。そんな使い古されたベタな表記。この忌々しい時代が始まりを告げた年。


 そして、人類が次の進化の過程を進んだ年。

 そして……俺が、生まれる前から世界に爪弾きにされる事が決まった年。

 

 ……すまん。これを読んでるアンタにはまだ何の話かさっぱりだよな。

 俺、並河千尋(なみかわちひろ)はカッコつけて言えばまぁ……『持たざる者』。

 

 一人一つ、全人類に特殊な能力が与えられた世界で極めて稀な欠陥品。

 端的に言えば何も能力を持たないで生まれた無能力者だ。

 

 ──曰く、この世界で能力を持たないというのは猿以上人間未満と同じ。だそう。


 ・空を自由に飛べる奴

 ・火を吹いたりする怪獣みたいな能力を持つ奴

 ・人の心を読んだりするエスパーみたいな奴

 ・視力を保ったまま目を取り外せるみたいなくっだらない奴。


 更にもっとショボいのまでキリが無いほど色んな奴がいる。


 閑散としたこの通学路の住宅街にいる人たちも皆、何かしらの能力を持っているのだろう。

 

 駅に向かうサラリーマン。

 バス停に立ってる女子高生。

 その隣の急な突風でめくれるスカートに鼻血を流す阿呆


 

 自転車を漕ぐ母親。

 その後ろに跨がる園児。

 その親子を背後から見守るホームレス。


 全員が全員、何かしらの能力を持っているんだろう。

 

 会った事なんざないがどこぞの奇妙な国民的マンガみたいに人を本にして経験を読むとか

 物に生命を与えて操る、なんて奴もいるんじゃなかろうか?知らんけど。

 

 そんな面妖な奴らで溢れ返った世界で俺はそんなくだらない最低限の能力さえ与えられなかった

 ――言わば、必要のない存在。


 正直な話。俺からしたらそんな奴らの方がずっと化け物だっつーの。

 

 教科書とか図鑑で良く見るだろ。

 人類の進化の系譜。

 

 ・四足歩行から猫背になって

 ・猫背からしっかりと二本足で歩くようになって

 ・道具を持つようになったってアレ。

 

 なんであそこから火が吹けるようになる?

 空を飛べるようになる?

 目玉が着脱式になる?


 敢えて言おう。ダーウィンさんに謝れよバカたれが、と。

 

 ……そうだ。バカたれで思い出した。

 俺の後ろから軽快な足音を立てて走ってくるバカたれのこと。悪い奴ではない。ひとまず、頭以外は。

 

 ――ちーひーろーさーん!おはようございまーす!

 

 弾けるような笑顔で手を振り、駆け寄って来る華奢な身体のピンク髪の女。


 剛徳路 文(ゴウトクジ アヤ)

 厳つい名字に反し、どことなく見目麗しい雰囲気のある名前とは裏腹に

 底抜けに明るく活発で『天真爛漫』の擬人化のような奴だ。

 

 詳しくは追々語るが、色々あり懐かれてしまった。

 

 「はいはい。おはよーさん。毎度毎度言うがあまりくっつくな。

 俺とつるんでたら他の連中が良く思わんだろ?」

 

 無能力者への風当たりは半端じゃなく強い。

 いつの時代も人間ってのは長いものに巻かれたい生き物らしく……


 「まいどまいど言いますが!他の人がどうとか、興味ありませんっ!」

 

 伝染ると自分たちの能力まで奪われるだの

 能力を持ってないなんてキモくてダサいだの……

 

 「ストップ、ストーップ!ひょっとして!また朝からいじけてるんですかっ!?」


 けど、不可解なことに。コイツと、ほんの一握りの奴は違う。

 

 「マジで離れろ。そう言うのは彼氏とかいい関係の奴にしとけ。居んだろ?お前。顔は悪くないし」

 

 悪くないというのは俺の出来る最大限の抵抗。悪くないどころか実際にはかなりの美形だ。

 アイドルグループのなんとか46に居てもおかしく無いくらいには。

 

 「千尋さぁ〜ん。私がそういうのにとんと縁が無いこと知っているでしょ~?

 はっ!ひょっとして、照れ屋さん!?」 

 

 「いや。普通に歩きにくいから」


 学業成績や素行より能力(スキル)の強さが重要視される世界で俺なんかの側にいるべき人間じゃない。


 お前のためなんだ。なんてダサくてとても言えないが。

 この底抜けの明るさに助けられてることを認めるのもなんかダサい。難儀だな。

 

 ってか。当たってんだよ。色んなところが。

 あんま舐めるなよ。例え人間未満でも俺はヒト科のオスだ。意識させるな、女を、バカたれが。

 

 「もー!千尋さんったら照れちゃって可愛い~!」

 

 ちょっとでも変な意識を持った自分が悔しくなってしまった。いかんいかん。あくまでクールに。

 

 「とにかく!年頃の女子が迂闊に野郎にベタベタすんな!

 学生の本分がうんぬんかんぬんで、公序良俗があーだこーだで……」

 

 この時。俺は文への照れ隠し目的の説教に夢中で気づいていなかった。

 

 「千尋さん!待って!」


 必死に呼びかける文の言葉も跳ね除けて歩き続ける。  

 絶対に気づくはずなのに。バカタレなのは俺だった。

 

 「待たん!だいたいお前は……」

 

 気づかなかった。

 閑散とした通学路を爆速で走ってくるトラックに……


 ――キキーーッ!

 

 っかしいな……走馬灯、流れて来ねぇぞ?

 轢かれてからか?そりゃ、そうだよな。

 今から死ぬってのに昔なんか振り返ってる余裕ねぇわな。終わっ……。

 

 「……」

 

 ガシャーン……? ズドーン……か?

 擬音はどうでもいい。

 クラクション混じりに馬鹿でかい破壊音が鳴り響く。


 俺は尻餅をついていて

 目の前にはピンクのオーラを纏う文がいて、


 トラックはフロントがぺしゃんこ。煙を吐いていた。 

 ……あぁ。分かってた。なんとなく助けてくれるんだろうなって、走馬灯よりも先に頭によぎってた。

 

 「もう。だから待ってって言ったのに……お怪我はありませんか?千尋さん?

 あ!先に言っときますけど、運転手さんも危なくないように加減しておきましたからね♪」

 

 華奢で優美。お姫様とか天使様のような姿を持つ文はその小さな拳一つから放たれるパンチで……。

 

 「悪い。お陰さんで助かったよ……」

 

 ――時速100キロは出ていたトラックを強引に停止させた。

 

 「も、もう……っ!本当はあまり使いたくないんですからねっ!この力、ぜんぜん可愛くないし……!」

 

 長い横髪で恥ずかしそうに顔を隠す文。

 彼女の能力は『膨張する力(インフレイション)』。

 身体能力を一時的に常人、文の場合は普通の女子高生の100倍にする能力だ。

 

 文はこの能力を可愛くないと言って忌み嫌っている。

 助けて貰った手前、こういっちゃなんだが……

 贅沢な話。お姫様願望を持つコイツにしちゃもっての他、なんだろう。

 

 「可愛いかはともかく。カッコいいとは思うぞ。正義のヒロインみたいで良いじゃねぇか」 

 「ま、まぁ。千尋さんがそう言ってくれるなら……」

 

 自分の不甲斐なさを痛感しつつ差し出された文の手を取る。立ち上がろうとしたが……

 なんだ?身体が……重い……?

 

 『ちーひーろー……?けがはない~……?』 

 「うわっ!ビックリした!影羅(エイラ)!いつから!?」

 

 俺の腰には背の高い幽霊みたいな女が巻き付いていた。

 黒曜 影羅(コクヨウ エイラ)

 影に潜り、その中を自在に泳ぐ『潜む静寂(クワイエット)』という能力を持っている。

 

 「ふふっ……勿論。千尋が家を出たあたりからだよ……っ?」

 

 ざっくり言うと俺のストーカーだ。文と同じく詳しくはまた今度の機会に語るが。

 文と同様に俺に付き纏い……

 その、なんだ。仲良くしてくれてる友人の一人……だ。

 

 「む!影羅!千尋さんから離れなさい!」 

 「どうして……?千尋が轢かれそうになった時、足を引っ張ってトラックから避けさせたのは私……

 故に私には千尋を抱きしめる権利があるわ……?」

 

 そうだったのか。全然気が付かなかった。

 終始助けられっぱなしの自分に嫌気がさすが毅然と。 

 

 「ありがとな。けど、お前にそんな権限は無い」 

 「どうして……?」

 

 「ほら!千尋さんもこう言ってるじゃないですか!」 

 ……状況を楽しんでる訳じゃ断じてない。

 

 「文ちゃんはトラックを粉砕しただけでしょ……?それで千尋を助けたつもりでいるの……?」 

 「ちーがーいまーすー!影羅こそ、千尋さんを転ばせるだなんてさいてーです!さいてー!」

 

 けれど。こんな騒がしい日々を悪くないと思っている自分がいる。

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