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上司の部屋を静かに退出し、ドアを背にして瞬間大きなため息をついた。


怖かったー。涙そうになったわ。


上司もとい王弟殿下は一瞬私を見たかと思ったけどすぐに下を向き、折れたペンをずっと眺めている。

返事をひたすら待ち続けたけで微動だにもせず、部屋は静かに明かに寒気が出るくらいに温度が下がった。

室内には4名の部下がいたのもわからないくらい静かだ。


最初に口を開いたのは40代半ばの温厚な管理官のグラウド様だった。

「サ、サラサ?退職って聞こえたのは聞き間違いかな?」

「いえ、聞き間違いではないです。契約期間が終了間近ですし、延長の話もありましたが色々考えた末、退職しようかと思いまして」

笑顔でグラウド様に返答した。私が疲れた時にいつも甘いものをポケットから出して癒してくださるグラウド様は愛妻家で誰よりも娘を溺愛している。ポケットにおやつがよく入っているのは娘様が喜ぶからだとか。

家族の話を聞くたびに私もそんな素敵な家族が欲しいなぁと思っていた。

「色々って何か嫌なことでもあった?」

慌てて私の顔の前に近寄ってきたのは近衛の中でも王弟殿下が最も信頼するユート様。私と同じ歳で学校も一緒でもっとも話しやすい仕事仲間ではある。王弟殿下は主に国の防衛に特化した仕事を中心としている方である。なので近衛の方はよく出入りするのだけど仕事にも厳しいので出入りする人間はかなり絞られその中でも先輩後輩の中だったユート様に仕事が集中している。

人懐っこいため、すぐにいろんな人と仲良くなるし犬みたいに可愛らしく人の懐に入るのがうますぎてついなんでも話してしまいがちだけど剣、弓、体術なんでもできる方なので怒らせると怖いと思っている。

もしかして私が誰かから嫌がらせを受けていると思ったならこっそりと何かをするくらいわけない。

「嫌なことなんか何もないですよ。すごく働きやすい環境かと思います。お声をかけていただいて私は本当に幸せだったと思います」

胸に手を当てて思い返しても何も嫌なことはない。自分得意なことを活かしていい上司たちに恵まれのびのびと3年間仕事をさせていただけた。それだけでも幸せなのだ。

「じゃあ、なんで急に辞めるなんて」

すごく悲しそうに尋ねてくださったのはリリー様。王弟殿下の従姉妹にあたりまさしく百合のように可憐なお方。王族に相応しくうっすらとピンクが混じった金髪、背丈は低めも愛らしいお顔立ち、優しく控えめな性格は誰もが囲いたくなるだろう。実際、あらゆる貴族から無理やり娶られそうになったところを王弟殿下に助けを求められ避難されてきた。しかし見かけによらずかなり優秀で特に法律関係に精通しておられ気づいたらここで働くことになっていた。実は王弟殿下と親しい中ではないかと思っている。2人はすごくお似合いなのだ。

「急にではなくてですね。実は1年ほど前から考えていたのです」

「1年前?それは君の弟が結婚して後継になったことと関係あるの?」

ソファーに座って資料を読んでらしたザック様が珍しくフードを外して静かに尋ねた。ザック様は魔法省の管轄の中で実力はトップであるもそこのしきたりや決まり事が嫌でふらふらしているところを王弟殿下に声をかけられこちら管轄の人となった。いつもフードを被っているけどこの執務室では被らないことが多いので素顔を見たことあるのがここに集まっている4名だと私は思っている。それにしてもよくさらりとしか話していないことを覚えてるなぁ。

「そうなんです。もう弟の方も結婚して落ち着いてこの夏には子供が産まれる予定なんですよ。その頃には向こうの手伝いもしたいし、赤ちゃんにも会いたいし、それに」

「それになんだ」

動かなかった王弟殿下がようやく口を開いた。

「実家の方に戻って私も結婚相手をみつけて落ち着こうかなと思いまして。両親もかえっていい加減婚約者を見つけろとうるさくて」

王弟殿下に話すような内容ではないけど正直に伝えておかないとやめれないとは思っていたので準備していた言葉を続けた。

「私の後を継ぐことができそうな人物もう数名候補を決めています。1人は一緒に生徒会役員で会計を担っていたので問題ないかと思います。元々商人で数字には強いし責任感もあります」

そう言って王弟殿下の机の上に書類を置き数名の詳細を書いたものを説明した。

「あとは時期的なことですが後継者が問題なければ数ヶ月後に大丈夫かと思います」

これで問題はないと思うんだけど、急に周りの空気のさっきよりもはるかに温度が下がる。


さ、寒い。


今までの経験上、これは王弟殿下がめちゃくちゃ怒っている状態だ。なんでかな、私ちゃんと無責任なことにならないようにしたのに。


慌てて周りを見渡したらみんな真っ青になっている。なんで?しかも顔がいつもに増して無表情になっててめちゃくちゃ怖いんですけど。


「あの、何か・・・・」

「あ!サラサ!そういえば本部の方にさ、来年度の予算案を取りに行ってきてもらえない?」

グラウド様が慌てて押し出されるようにドアのところまで連れて行かれた。

それは来月でもいい仕事なんだけど、なぜ慌ててるのか。

ドアの前でこっそりと「とりあえず後でじっくりと聞くから終業時間まで管理室で仕事してて」

なんて言われた。なにが不味かったのかな。でもちゃんと数ヶ月前に後継者も上げて問題なくしたのに何がいけなかったのか。

バタンと大きな音を立ててしまったドアを背に恐怖のあまりに泣きそうになってしまった私はしばらく動けなかった。

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