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高嶺の花が入り浸る  作者: ゆー
二人で紡ぐ『これから』のこと
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第二回・嫁姑大決戦

「母、参上」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


それは、大変間の悪いことに、彼が学園のお友達と共に町へと繰り出してしまった日のお昼時。

流石にそこに割って入る程無粋ではないと、恋人として、そして大人として余裕を見せてしまったからいけなかったのか。私はあの時、彼の脚に縋り付いてでも『置いていかないで』、『捨てないで』、と幼子の様に泣いて喚き散らすべきだったのかもしれない。

どちらにしても、もう遅すぎる後悔だけれども。


「あら、どうしたの?可愛い我が未来の娘こと凪沙。口いっぱいに苦虫を突め込まれて無理矢理咀嚼させられた様な顔をして。まるでこの義母が貴方をいじめたみたいじゃない。あーあー傷ついたー」

「そ…」


私が一人の時間を寂しくも謳歌していたところにかちこんで来るは、一昔前の戦隊もののポーズを無表情で決める義理の母親。彼女は私の手の中にあるちょっぴりお高いプリンをちらりと見ると、何故か生温かい視線を向けてくる。べ、別に、隠れて食べようとか思っていた訳ではないし…。でも気まずいからそっと机に戻した。


「……んなことは一切ありませんでございますことよ。こんにちは、お義母さん」

「はい、こんにちは」

「蓮はいません。いないのです」

「知ってる」

「……………知ってるんだぁ………」


にこにこ。いやに爽やかな笑顔を浮かべたままお義母さんが、座る私の横に身体がぴったりとくっつく至近距離で座ってくる。表情が薄めのお義母さんの珍しいレア笑顔だというのに、私は背筋の震えが止まらなくて、無言で距離を開けようとして


「(^^)」


諦めた。


顔を傾けてこちらを覗き込んでくる愉悦に細まる瞳に、最早逃げ場は存在しないのだと悟ったからである。


「なーぎーさーちゃん」

「……………………はーあーい……………………」

「あっそびーましょ?」


それは『私と』なのか、『私で』なのか。

…そんなこと、もうどちらでもいいではないか。


「はぁ〜い………」


どちらにせよ、私に断るという選択肢など存在しないのだから。


「いいこ。…んふふ。ゲームしましょうゲーム」


私の力の無い返事を受けて満足そうに頷いた彼女は、懐から一つのゲームを取り出した。それは、今でも鮮明に思い出す、私の心に深いトラウマを刻みつけてくれた因縁深いゲーム。…の、確か続編であった。

最早、お母さんの方が遊んでいる気がするゲーム機を引っ張り出すと、いそいそと何処か楽しそうにセットし始める。


「ハンデマシマシにした翠をべそかくまで完封するのにも飽きたのよね」

「(すーちゃん………っ!!)」


今、明らかになる藤堂家の悲惨な真実。そして、次のターゲットは私ということか。

…いいではないか受けて立とう。仇を討つ…訳でもないが、私が今の今まで何もしてこなかったと思っているのなら大間違いだ。突くべきは、勝利を当然のものと奢るその僅かな油断。完全完璧な彼女という牙城を崩す作戦を、私はずっと考え続けていたのだ。即ち―――


「ルールはいつも通りタイマンで「お義母さん!!」ん?」





「せ……せっかくだからぁ!チーム組んで遊びましょう!!!???」

「えー」






プライド?そんなものは、とうの昔にかなぐり捨てた。

譲れない戦いが、ここにある。

















「いやー良かった良かった。ちょうど蓮ちゃんと会えるとは思わなかったわー♡これって偶然?いや運命!」

「はあ…。言ってくれれば迎えに行きましたのに」

「いーのいーの。突然迎えに来いだなんて言われても迷惑でしょ?」

「そんなことは…」


それは、俺がちょうど学園の友達に別れを告げた夕方の時間帯。

道端でばったり出会ったのは、恋人の母親と


「お母さんなんて、『私の息子と娘に会うのに何故いちいちアポ取らなきゃいけないの?』なんて言ってさっさといなくなってしまいましたから…」


妙に疲れ切った顔をした我が妹君。

珍しい組み合わせに一体、何事かと思えば、親戚から送られてきたお高いお中元をわざわざ分けに来てくれたという。ついでだから、顔も見ておこう。あわよくば、宴会と洒落込もう。簡単に言えばそう言う話だった、と。約1名を除いて。


ということで、俺達は今、3人仲良く俺と凪沙が暮らす家へと向かっているところなのだが。


「そもそも手ぶらのはずなのよね泉……」

「まあ…何だかんだ言ってもやはり寂しかった…ということでは…?」

「あ〜…まあ、あの子も何だかんだ子供っぽいものね。何だかんだ」

「そうですね。何だかんだ」

「何だかなぁ…」


最初は理解が追いつかなかったけれど、つまり今、我が家には留守を預かる凪沙と、そこに問答無用で突撃した母がいるという訳だ。落ちついた大人のお姉さんを自称する自由人と、冷静な出来る大人を自称する自由人が。二人で。即ち、現在我が家では血で血を洗う戦争が始まっているということだ。あはは、帰りたくないなー。


「まあ、可愛い娘をイジメられちゃったら流石に私も怒ったから。あれでも反省しているはずよ?多分」

「じゃあ、写真とかも受け取ってないってことですか?」

「……………………………………」

「おばさん………」

「おばさま………」

「…それはそれ。これはこれ」


件の凪沙負け犬メイド椅子事件はおばさんも多少存じている。あくまで彼女の名誉のために細かい理由は伏せて、勝負に負けた凪沙のちょっとしたコスプレ会を催した程度にぼかしはしたが、それでも『何で呼んでくれなかったの!』とお冠だった。実家ではあまり弱い姿を見せない…というか、結構強気な娘をここぞとばかりに弄くる気満々だったらしい。これは因果応報…になるのだろうか。


「というか、蓮ちゃ〜ん…。『お義母さん』って呼んでよぉー。泉ばっかりずーるーいー」

「そ、それは追々…」

「いいなー泉はー…。『お義母さん♡』だなんて呼ばれちゃってー……きっと今も義理の親子同士で仲睦まじく過ごしちゃってるんでしょ?」

「………それは………」

「……どう………でしょうか………」


俺達の声が弱々しいことに気づかずに、何も知らないおばさんはさっさと歩を進めていく。

そう、おばさんは何も知らない。気づかない。我が家が見えてくるにつれ、俺と翠の足取りがどんどん重くなっていることも。


残酷な真実を知ってほしくない。けれども、もしかしたら今度こそワンチャンあるかもしれない。そんな頼りない希望に縋って、俺達はとうとうおばさんを止めることなく我が家の扉へと辿り着いてしまう。


「♪〜〜」

「(…兄さん…)」


おばさんが口笛交じりに鍵を差し込もうとすれば、袖を弱々しく引っ張る感触。翠が捨てられた子犬の様な不安な目で俺を見上げていた。


「(信じよう…あの2人を……!俺達の大切な母親と恋人を!!)」

「(………はい!!!)」


震える小さな肩を抱き寄せると、俺達は存在するのかどうかも分からない神に祈る。

願わくば、おばさんの淡い夢が壊されるようなことが無きように。


どうか。



…どうか。






どうか!!











「おっ待たー♡はーい凪沙ー♡久し振りのお母さんだy「あ゙ぁ゙ーーーー!!!!」あ?」


「ちょっとお義母さん!!酷くないですかそれ!?フレンドリーファイアですよね!今の!!わざとでしょう!しかも!!何度目!?これで!!!」

「射線に立った自分が悪いのに人に責任転嫁するの良くないんじゃない?はあぁ可愛くない。はい藤堂家お嫁さんポイントマイナスさーん」

「は!?はぁー!!そういうこと言うんだ!そういうことするんですね!!じゃあいいですよ!私も選びませんもんっ手段!!捨てますもん!!矜持!!」

「あらまだそんなもの残ってたの??……けどその割には――」

「いっつも一人で無双してるお義母さんは知らないでしょうけどこのゲームチームのストック分けてもらって復活できますからね!はいもらった!!はい復活!!はいごちになりまーす!!!」

「っ!?……舐めた真似をしてくれるじゃない。いいわ。ここから先は殺し合いよ。雑魚よりも先に小娘を滅してやるわ。義親子の慈悲があるなどと思わないことね」

「望むところですとも!私を殺せば殺す程自分の首を絞めるんですけどねー!!」

「…私に喧嘩を売る度胸は認めてあげるわプラス5。二度と調子に乗れぬ様、貴様のはらわたをくらいつくしてくれる」

「やったらぁー!!!」



「……………………」

「「………………………………………」」




ぱたん。




「ご飯食べに行きましょうか、二人とも。優しいお義母様が奢ってあげる」

「わぁーい」

「やったぁー」











「「「……………………はぁ…………………」」」











私は何を書いているんだ。

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