178 死のループ
「あぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
背に突き立てられた大剣をぎちぎちと前後に動かされ、キテージの口から血液混じりの絶叫が飛び出す。
『……はあ? 救世主さんですか?』
激痛で意識がスパークする中、キテージの脳裏に走馬灯が如く浮かんだのは、《神の園》にて自らの創造主――エリュシオンから救世主の存在を聞かされた時の場景だった。
玉座の前で跪くキテージに、エリュシオンは頬杖を突きながらこう言ってきたのである。
『ああ、そうだ。名はイグザ。不死身の肉体と、この俺にすら匹敵する力を持つ人類史上最強の男だ。ゆえにやつと遭遇した際は十分に警戒しろ。死にたくなければな』
『キシシ、何を仰います。このキテージの〝異能〟は創造主であるアナタさまがもっともご存じのはず。アタシの《超順応》に敵う者などこの世には存在いたしません。ほかの魔族たちはおろか、たとえ相手がその救世主さんであってもです」
もちろんアナタさまもですけどね、という言葉をぎりぎり呑み込んだキテージを、エリュシオンは『だといいがな』と鼻で笑う。
『ええ、なんの問題もございません。それより問題なのは、そんなめちゃ強のアタシが何故か序列〝二位〟ということなのですが……』
『そうだな、しいて言うならその傲慢さが理由と言ったところか』
『キシシ、これは手厳しい。ならせいぜい気をつけることにしましょう』
まあ、余計なお世話ですがね、とあの時は思っていた。
だが――エリュシオンは正しかった。
「さすがに少し耳障りだな」
ずしゃっ! と後ろから首ごと声帯を貫かれ、悲鳴を上げることすら出来なくなる。
「ごぽっ……がっ……!?」
それでもまだ息のあるキテージは、飛びそうになる意識の中、延々と現状に対する疑問を己に投げかけ続けていた。
――何故自分はこんな目に遭っている!?
――何故《超順応》が効かない!?
――何故救世主の攻撃を無効化出来ない!?
――何故!?
――何故!?
――何故!?
いくら考えても答えの出ないキテージの問いに、救世主は「そんなに俺の刃が通るのが不思議か?」と彼を冷たく見下ろして言った。
「それはな――単にお前が〝弱い〟からだ」
「――っ!?」
アタシが、弱い……!? とキテージは痛みも忘れて両目を見張る。
いいや、そんなはずはない。
キテージの覚醒した《超順応》は一度目のダメージで死なない限り、二度目以降の攻撃を完全に無効化する最強の異能だ。
それは同じ魔族であるヨミたちで証明済みである。
完全解放すれば序列一位にも勝るという序列三位――エデンの〝千人掌〟ですら無傷で耐えることが出来たのだ。
そんな最強のキテージが〝弱い〟ことなど絶対にあるはずがない。
異能はスキルとは違い、唯一無二の代物。
ゆえに《超順応》に目覚めたキテージこそが史上最強の男なのだ。
「……っ」
そう憤りの込めた視線を向けるキテージを真顔で見下ろしつつ、救世主は自身のステータスを開いて告げる。
「ヨミの時もそうだったが、俺の《体現》が発動していない以上、お前たちの持つ力はスキルとは別体系のものなんだろうよ。同じやつからの攻撃は二度と受けつけない――つまりは〝耐性系〟の力というわけだ」
でもな、と救世主は続ける。
「それは〝耐性を得られる程度の力〟が相手の場合であって、それ以上には通じない。要は〝キャパ不足〟なんだよ、お前のな」
「……っ!?」
キャパ、不足……っ!? とキテージの両目が再度大きく見開かされる。
「そう、お前じゃ俺の力を受け止めきれない。だから二度目だろうと三度目だろうと俺の刃はお前に届く。正直、お前は弱すぎるんだよ。まあ、それも当然だけどな。何せ、お前は女の子を盾にしてイキがるだけのクソみたいな存在だ。強いなんてことがあるはずがない」
「~~っ!?」
「睨みたければ好きなだけ睨めばいいさ。だがな、お前の命はもうすぐ尽きる。せいぜい弱者らしく、何も出来ないまま己の無力を嘆いて死ね」
それがお前の贖罪だ、という救世主の言葉が耳朶に届きながらも、やつの言ったとおりキテージの意識はそこで途切れてしまったのだった。
◇
が。
「……あれ? アタシは生きて……ひぎいっ!?」
どぐしゃっ! と右腕が肩から吹き飛び、キテージは激痛に悶える。
一体何が起こったのか。
そもそも自分は死んだのではなかったのか。
混乱するキテージに答えをくれたのは、目の前で真紅の戦斧を握る救世主だった。
「ああ、言い忘れていたが、俺はお前をすぐには殺さない。いや、殺しても即座に生き返らせる。本当はこんなことに使いたくなかったんだが……お前は、ザナたちを泣かせた……っ! 絶対に――許さねえッッ!!」
かっと両目を見開き、救世主が憤りに満ちた顔で斧を振り上げる。
「ちょ、ちょっと待っ……た、助け……ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
そうして哀れな道化師は、地獄すらも生ぬるい死のループを延々と繰り返すことになるのだった。




