エピローグ
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災歴2071年 5月下旬
3番街17丁目 廃教会 墓地
『ナーサリー・ライネス
ー2071.May.※※
Dear Ice Cream Junky R.I.P.』
他はどれも苔むし損壊した墓ばかりの中で、唯一真新しいその墓碑の前に、マーガレットは佇んでいた。
「……もう2週間ぐらいになるのね。ホナーオールが死んで議会は大慌て。次の週末にまた選挙だって。人身売買の捜査は、議長代理が再開させて、死人に口無しって感じに色々な悪事を暴いて、ホナーオールのせいにしてる」
街の近況を伝えながら、少女は墓碑の前にアイスクリームのカップを供える。
初夏の風が吹き抜け、カップの表面には結露が出来てゆく。
「『クリス・ローズ教育保護機関』は閉鎖されて、違法に連れ去られていた子たちは親元に返されたわ。でも中には本当に虐待だった子もいて、その子たちをどうするかは、まだ決まってないし、既に売られてしまった子も、ほとんど戻ってきてない」
取引の記録の多くは、元締めだったグレー・ロッドが事故死の直前に破棄してしまった為に、追跡が出来ないのだという。
「……まぁ要するに、この街は以前と変わらず、弱い人間に厳しい魔界って事。悪党はまだまだ居るし、『仕事』もあの後何件かあったし……。そのせいで私、また風邪を引かない体質に戻っちゃった」
昨晩の『仕事』の後遺症で、まだ黄緑色に染まっている片腕をさすりながら、マーガレットはため息をつく。
「また、学校を休んで独りで寝てなきゃいけない日が続くの。前はへっちゃらだったのに、あなたが居ないから寂しいわ。だから、……いい加減、機嫌を直してウチに戻って来なさいよ、ナース!」
少女が堪えきれずに怒気を露わにして叫ぶと、墓碑の裏側に、黒い靄が現れる。
それはマーガレットと同じ位の背丈の人型を形作ると、黒いドレス姿のナーサリーへと変貌した。
『ヤダよ。……こんなカップ1つだけじゃなく、ちゃんと墓の横に屋台を建ててくれるまでここに居座るからな』
マーガレットが供えたカップアイスを取り上げ、表面が溶けかけた中身を豪快に頬張りながら、ナーサリーは文句を返した。
対するマーガレットも、こんどは教会の建物を見やりながら反論する。
「それは私じゃなく、あんたを取り込んだ邪神様に言いなさいな。仕事が続いたから、ピンはねしてる頼み料、そろそろいい感じでしょ?」
するとナーサリーを再び黒い靄がつつみ込み、背丈が伸びた喪服の尼僧に姿を変えた。
「そらまぁ、キッチンカーを『買う分』だけなら貯まってるよ?でもマギー、ナース?あんたら本当にこんなところにアイスクリーム屋を作るってのかい?維持費も稼げやしないのに」
「店を開くんじゃなくて、自分達専用のやつだから。維持費はそっちでもちなさいよ。私たちに黙って、勝手にナースを蘇生させちゃってたんだから」
「そりゃ……、だってそうしないと、頼み人がいなくなっちまってたんだよ?アタシがルール違反して、ナースの魂を取り込んで、頼み人になったから、ホナーオールやロッドを始末出来たんだ。そのペナルティは、ナースの蘇生でチャラになってるよ」
「私たちに黙ってた分のペナルティがあるでしょ?……おかげで私、ナースの前で……あんな……」
2週間前の朝、『仕事』から戻った自分を青白い肌のままのナーサリーが出迎えた時の事を思い出し、マーガレットは赤面する。
尼僧は再び少女へと変貌し、ニヒヒと悪戯っぽく笑う。
『ギャーー出たぁ。ゴメンナサイナースッ、ちゃんとアイスクリームのキッチンカーを用意してあげるから、天国に行ってぇ……、だっけ?自分だってまだ筋肉ムキムキの半分ミュータント姿だったってのにさ』
「っ、もうやめて!とにかく!ナース、あなたはレンの所の女主人と同じ、邪神のアバターの1人になったんだから、アバターらしく、教会じゃなくウチで暮らして情報収集しなきゃ、でしょ?」
『アレ?さっきは独りで寝てるのが寂しいからって言ってなかったか?』
「そ、それもあるけど、本命は邪神としてのお仕事、でしょ!ねぇボティシア?」
「(ボワッ)……まぁ、そうだね。『眼』が届かないのは確かだ。だからナース、幽霊になってアイス食べ放題ってな夢はいったん置いといて、マギー嬢ちゃんの家に行っておやりな。友達だろ?」
『(ボワッ)……わーたっよ、主様。……その代わりにマギー、冷凍庫に仕舞ってるあのバケツアイス、半分よこせよな』
「良いわよ。私一人で食べたら、また変な連中にさらわれるかもしれないし……じゃあ行くわね。ボティシア」
「(ボワッ)あぁ、私も教会ん中の本体へ戻るさ。ナース、あんたに身体を返してやるから、マギーと帰りな」
その言葉を最後に、黒い靄はナースの姿と実体のある肉体に変化し、残りは空中へ消えた。
「う〜ん、生身の肉体って重いんだよなぁ。ソレにアイス食べ過ぎると腹を下すし……」
「ソレが、『生きてる』ってことよ。随分とぜいたくな悩みを持つようになったのね、ナース……」
「お前のおかげでな、マギー……」
照りつけるほどになりつつある太陽の下、2人の少女は手を取り、互いに笑みを見せ合いながら、家路へとついた。
気づけば、章の執筆開始から7年も経ってました。
ゴメンナサイ、ナース……7年もかけて〇んでもらって……(でもネームドキャラだから生き返ったよ、やったね)




