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決勝 デリバリーコンバット ??? 対 ???



もちろん負傷者が出たからと言って、この競技は中断しない。


『デリバリスト競技会決勝戦! 第2戦を制したのはトーキョーエリア支部! これで1対1の同点! 勝負の行方は最終戦までもつれ込みます! 各支部代表は5分以内に第3戦の選手をお選びください!』


もつれこんだ、最終戦。

俺はミーナにベンチコートを着せながら放送を聞いていたが。


「5分なんて必要ないわ」


オーサカエリア支部側ではすぐに動きがあった。

片眼鏡を光らせすらっと名乗り出たのは、もちろんこの人。


「オーサカエリア支部からはわたしよ」


月島紅陽。


「やっぱり、ヤオでは体力削りくらいにしかならなかったわね」


さらっと仲間を利用したことをほのめかす紅陽さん。

気絶から復帰しないヤオには一瞥もくれず、俺たちのベンチまで迫ってきた。

すっと卯衣がミーナをかばうように立ち上がり、紅陽さんの前に立ちはだかる。


「あなたに用はないわ」

「わたしもないですけれど、小細工されると困りますのでー」

「小細工ですって。そんなことする必要もないのに」


紅陽さんは卯衣を無視して、ベンチに横たわるミーナに声をかけた。


「ミーナ、勝ちたいならあなたが上がって来なさい」

「悪いけど、それはさせられない」

「あら?」


俺は卯衣の横に出て紅陽さんを睨みつける。


「ミーナとあなたを戦わせないって言ったんだよ」

「それで勝てると思っているなら、大甘ね」

「思ってない。今のこっちに、あなたに勝てる人間はない」


第一戦目で体験した俺だからよくわかる。

俺もリンゴも、紅陽さんには勝てない。

万に一つの勝ち筋を拾うなら、ムリを承知でミーナを出すしかない。

しかしミーナがここまで疲弊していれば、その希望も望み薄。

普通なら投了が吉……に見える。

しかし。

正攻法が尽きたのが、敗北確定と同義ではないのだ。


「でも、断言する。あなたは自ら望んで、第3戦を辞退する」

「なにを意味不明なことをーー」

『おおっと、失礼しました! トーキョーエリア支部の代表選出待ちでしたが、すでにトーキョーエリア支部は代表を決めて報告されていたそうです』


紅陽さんの言葉を遮るように興奮気味の司会は声を張り上げた。


『トーキョーエリア支部代表は、倉掛駆選手!』


瞬間、紅陽さんが大きく目を見開いた。

それと同時に会場全体へどよめきが広がる。

その心の声を代弁するかのように、卯衣は紅陽さんに言い放った。


「あれー? 1戦目と同じ対戦カードですねー、きゃはっ♪」


そう言われた瞬間、紅陽さんは卯衣の狙いに気づいたのだろう。

ぐっと唇を噛んで卯衣に詰め寄る。


「あなた、最初からこれを狙って……」

「偶然ですよー。きゃはきゃはっ♪」


大嘘だ。

この三日間で、卯衣は紅陽さんの行動パターンすべてを見切っていた。

時に傲慢、時に自信家。大の負けず嫌いで、自分に並ぶものは徹底して潰す。

そんな紅陽さんは間違いなく、ミーナと1対1での対決を望んでいるはず。

であれば、2戦目のダブルスはまず出てこない。

確実にミーナと当たるため、強引に1・3戦目を押さえてくる。

そして、それがわかっていたから……

俺たちは、紅陽さんを戦いの場から引き摺り下ろせるのだ。


『1戦目と3戦目の対戦カードが同じになってしまったため、ルールに則りこれから五分の間、各支部は代表選手の変更が可能になります。それでもお互いに変更がない場合、強制的にクジ引きで対戦カードを決定させていただきますので、双方悔いの残らないようにお考えください』


クジ引きでの代表選手決定。

強引なやり方だがこれを利用しない手はないだろう。

紅陽さんは運良く自分を引ければいい。

ミーナが疲弊している今、それは文句無しに必勝のカードだ。

しかし紅陽さんは同時に、ヤオという必敗のカードも持っている。

絶賛気絶中のヤオ。たとえ起きれたとしても満足に戦えるはずがない。

3分の1で即勝ち。

3分の1で即負け。

クジ引きには、そんな地雷が埋まっているのである。


「ひ、卑怯よ! こんな運任せジャンケンみたいなやり方で決めるなんてっ……」

「あっれー、自信ないんですかー? 支部長の割には腰抜けですねー、うりうりー」


言葉で、仕草で、口調で、挑発の限りを尽くす卯衣。

今まで散々ナメてくれたお返し、と言わんばかりだ。

さすが、人の嫌がることさせれば右に出るものはいない。


「ではー、そんな腰抜け紅陽ちゃんに一つ教えてあげますねー」


卯衣はオーサカエリア側ベンチを指差した。

悪魔も裸足で逃げ出すような、邪悪な笑みを浮かべる。


「今なら、千島千鳥(あんぜんさく)を選ぶっていう選択肢もありますよー」


その言葉に、紅陽さんは明確な動揺を見せた。

このまま対戦カードが「俺 対 紅陽さん」なら自動的にクジ引きになる。

しかしここで紅陽さんが退けば、クジ引きは避けられるのだ。

卯衣は「選択肢」なんて聞こえのいい言葉を使っているが……


『第3戦目の選手に千島を選べ。さもないと運に物言わせて負かしてやる』


ーーと脅しているのも同じだ。

『無敗』という二つ名に固執する紅陽さんにはこれ以上なく有効な脅迫。

紅陽さんは、負けることに耐えられない。

無敗でなくなることを許せない。

たとえ、大いに運が絡んだ負けだったとしても。

だから。

わざわざ陽千夜(リスク)月島紅陽(リターン)を天秤にかけるわけがないのだ。

今なら、能動的に千島千鳥(あんぜんさく)を選べるのだからーー。


「……言っておくが、我らはカケルと心中する気満々なのだ」

「ミーナ!」


ミーナが疲れをおして、俺たちの間に割って入った。

疲労の溜まった痛々しい表情をしているが、目はまだまだ死んでいない。


「ミーナ、眠っとけって」

「眠るわけにはいかぬ。これからカケルの最高にカッコいい姿を見る予定なのだ」


俺の制止も聞かず、かえって俺を制止させるミーナ。

無垢な笑顔を見せてから紅陽さんと対峙する。

絶対に紅陽さんを退かせる、という強い意志が全身から湧き出ていた。


「ミーナ、あなたはそれでいいの? わたしを倒す目的でここにいるんじゃなくて?」

「最初はそのつもりだったのだがのぅ」


ミーナは意味深に俺と卯衣と、ベンチのリンゴを眺めて。


「今はそんなことより、みんなと勝ちたい」


優しい笑顔で言った。

きっと心の中では色んな葛藤があったと思う。

二年前の無念を晴らしたい思いとか、自分で勝ちを決めたい思いとか。

でも決してそんな様子は見せない。

すべて、俺に委ねてくれた。

ミーナこそ、支部長の中の支部長なのだ。

一方の紅陽さんは金縛りにあったみたいに黙り込む。


「時間が迫ってきたのう。何か言ったらどうなのだ?」


時計を指差しながらミーナは紅陽さんに迫る。

変更が認められるのは残り1分。

選ぶのは自分のプライドか、堅実さか。

紅陽さんの顔が究極の選択に歪む。

そして一瞬見せる、ひるんだような顔。

ミーナはそれを決して見逃さない。


「さあ紅陽、選ぶのだ! お主の運を信じるか、自ら退いて千島を選ぶか!」


最高のタイミングでミーナは声を張り上げた。

会場全体に響くような大声に、味方の俺たちも一瞬ひるむ。

その瞬間俺たちの間を通り抜けた風は、冷たく、無慈悲。

そんな空気を切り裂くかのように、ミーナは紅陽さんに指を突きつけた。


「断言するのだ。運は絶対、お主に味方せぬ!」


トドメの一言。

根拠なんてどこにもない。

ただの無責任な断言。

でも。

たとえ根拠も理もないとしても。

ただの希望的観測に聞こえるとしても。

その場にいる全員の意見は一致していた。


『ミーナが言えば、そうなる』


もちろん、その確信を得たのは紅陽さんも例外ではない。


「…………っつうっ! 千鳥、行きなさいっ!」

「御意」


紅陽さんは悔しそうに頭を振る。

瞬間、千島は紅陽さんの後ろに立っていた。

ほんの一瞬、目が合う。

なんとも感慨深い、笑ってるんだか怒ってるんだか判断に困る目をしていた。

変更タイム、終了。


『オーサカエリア支部、ギリギリで代表選手を変更! よって第3戦目、オーサカエリア支部からは月島紅陽選手に代わって千島千鳥選手が出場です! ではお二人、準備してください!』


その言葉をきっかけに、それぞれがそれぞれの表情を浮かべてフィールドを去った。

笑う人、満足そうに頷く人、悔しそうに歯をくいしばる人。

残されたのは、俺と千島の二人だけ。

そして、俺たちは運命に引き合わされたかのように。


「また会ったな、かける」

「いい加減最後にしてほしいけどな」


再び、対峙した。


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