決勝 デリバリーコンバット ミーナ・リンゴ 対 千島・ ヤオ 2
お詫び
本日(2015/04/04)朝9:00に投稿分が、前回と同じ内容を投稿してしまいました。
本日(2015/04/04)夜19:00に編集いたしました。
以後、見落としがないよう気をつけますm(__)m
セグウェイ。
それはアメリカ発祥の電動立ち乗り二輪車。
世界中で公道、自転車道での運転が認められているれっきとした乗り物である。
しかし。
俺の知っているセグウェイは、時速20キロくらいで動くものだ。
ドライブと言うには遅いくらいの速度で動くイメージがある。
そうであれば。
ガガガガガガッ!
時速200キロで縦横無尽に駆け回るアレは。
ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん!
稲妻みたいな動きを猛スピードで繰り返すアレは。
『速い、速すぎるっ! 望月選手を目で追えないっ! そこにシビれる憧れるぅ!』
目の肥えた司会にそんなこと言わせちゃうアレは……
絶対に、セグウェイじゃない。
もっとこう、ミリタリー的な何かに違いない。
★★★★★★★★★★
そんな俺の、口には出せないツッコミをよそに会場は大盛り上がりだった。
「秋月美奈、こっち!」
「うむっ!」
ヤオにスペースを塞がれた瞬間、ミーナは宅配箱を放り投げた。
さっきまで誰もいなかったはずの空間に、突如として現れる黒い機体。
ギリギリでヤオもそのパスに反応。
しかし、小回りの効くリンゴ@セグウェイがヤオの腕をするりとかわす。
「ちょこまかウザいアルゥー!」
ゴールまでは行けなかったものの、かなり惜しいところまでは行った。
その様子は、特撮の巨大怪獣にスピードを武器に立ち向かう戦闘機を彷彿とさせる。
「ああー、もうちょっとですー!」
卯衣が頭を抱えながら声を漏らしている。
卯衣だけじゃない。
会場全体、この場はすでにリンゴの味方になりつつあった。
競技会決勝ダブルスの2本目。
誰もがリンゴの動きに目を奪われ、興奮し、次の瞬間には見失う。
そしてリンゴがヤオを翻弄する度にボルテージを上げていくのだ。
その活躍にミーナすらかすんでしまう。
狭いフィールドを目にも止まらぬスピードで駆け抜けるリンゴとその愛車。
ヤオの腕をすり抜けるようにかわし、稲妻のごとくぎゅんぎゅん曲がる。
スピードが出るのはもちろんのこと、セグウェイの「小回りがきく」という特徴がまったく消えていない。
それはリンゴのドライビングテクがあってのことかもしれないが。
「一体どんな改造をしたんだよ……」
「わたしも手伝ったんですよー」
卯衣がオペレーター席で胸を張る。
リンゴの改造にマッドサイエンティストが介入していたのか。
テロリストを制圧できそうな新しい乗り物が生まれるわけだ。
「主催側との交渉も大変だったんですからー。トラックはダメ、バイクもダメ、スポーツカーもダメ。結局持ち込みが認められたのはセグウェイだけでしたー」
主催側もさぞ後悔しているだろう。
あんなの出されるくらいなら大人しくバイクを認めていればよかった、と。
「しかし、アレについていくミーナもミーナだな」
宅配箱のパスを何度も繰り返しているがお互いに一度も取りこぼしていない。
サムライブルーにも見習ってほしい流動的なパスワーク。
目立っているのはリンゴの方だが、ミーナだってさらっと超人だ。
どこにパスしても追いつくリンゴと、的確にパスを回すミーナ。
あいつら……意外と仲良いんじゃないか?
「ちょ、ヘタクソ! 無理なパスやめてよ!」
「お主だってパスが乱暴ではないか!」
「こっちは時速200kmで動いてんのよ!」
「そのくらいでコントロールを乱すでない!」
前言撤回。
ケンカしながらパスを回していた。
「オレをムシ、するなァー!」
痺れを切らしたかのように、リンゴに襲いかかるヤオ。
しかしリンゴはそれを横目で見てニヤッと笑う。
次の瞬間、その視線はヤオから外れていた。
「外したらキレるから!」
「うっさいのだ!」
ヤオに捕まるギリギリで、リンゴは宅配箱を真横に投げた。
手首に力の入っていない最高のパス。
そして宅配箱は本命のミーナへ。
ぱしっ!
カワセミが魚をさらうかのような、限界ギリギリの低い姿勢でキャッチ。
そのミーナが狙うのはヤオの長い脚の間。
小柄なミーナだからこそできる、全身を使った股抜き。
不意をつかれたヤオはリンゴに向けた腕を戻せない。
ミーナが宅配箱を突き出し、ヘッドスライディングするみたいに滑り込む。
ゴールラインを担当する審判が赤い旗を真上に上げーー
「ーー先に騙したのは、そっちだ」
「むうっ!?」
ゴールラインを割ろうとしていたミーナの腕から、宅配箱がぱんっと弾かれた。
あり得ない。
ヤオは完全に不意を突かれて反応が遅れていた。
実際今も、ヤオの腕二本は明後日の方向を向いている。
では誰がやった?
その答えは、リンゴの叫びが教えてくれた。
「このぉっ、変態忍者っ!」
その瞬間、俺の目にはヤオの長身に隠れるみたいにして佇む千島の姿が映った。
驚きの声が響く中、宅配箱がフィールドを転がる。
リンゴがハンドルを切って回収へ向かう。
しかし、すでにその時には千島が箱を抱えていた。
「やばっ! ガラ空きじゃん!」
二人で攻撃していたのだ。
ディフェンス要員はいない。
すぐさまセグウェイのハンドルを切り返して自陣へ戻るリンゴ。
ゴールラインギリギリにダッシュし、くるっと振り向く。
ヤオ同様千島を食い止めにかかる。
しかしーー
「見えないものを、どうやって止める気だ?」
千島はすでに、リンゴの真後ろにいた。
リンゴと背中合わせしているみたいな至近距離。
ことん、と箱をゴールラインに乗せる。
瞬間、審判が赤い旗を真上に上げた。
『オーサカエリア支部の千島選手、一本返す! これで勝負は振り出しです!』
オーサカエリア支部のカウンター攻撃に大いに盛り上がる会場。
ほんの一瞬で一本返され、同点に戻された。
これには勝利を確信していた卯衣も目をぱちくりさせている。
どちらが勝つかわからなくなってきた。
激闘の予感に、会場全体が一層ボルテージをあげる。
しかし、そんな盛り上がりを尻目に、カウンターを決めた本人は……。
「……………………」
まったくの無表情だった。
無表情を崩さぬまま、地面に膝をつくヤオにツカツカと歩み寄る。
背伸びしてヤオの首根っこを掴んだ。
その視線は同じ仲間に向けるものとは思えないほど冷たい。
「やお、なんて無様を晒してくれる」
「ち、ちしまっちゃん……」
「ぼすもすこぶるご立腹だ。処分は免れないぞ」
さすがのヤオもおびえた様子で立ち尽くす。
「ぼすがごーさいんを出してくださらなかったら、今頃どうなっていたか」
「で、でもォー」
「閉口。言い訳は聞きたくない」
ベンチから千島の表情は読み取れないが、だいたい予想がつく。
時折見せる、日本刀の切っ先のように鋭い表情。
「私の介入が、ぼすからの最後の温情と思え」
「わ、わかっタヨォー」
「私は3本目を辞退する。あとは一人でやれ」
短くまとめて千島はフィールドラインの外側に出た。
それがさも当たり前でもあるかのように、そこに座り込む。
「審判、怪我をした。三本目は辞退だ」
見え見えの嘘を吐き、五体満足の体で座り込んだ。
「待ちなさいよ」
疑問に思うデリバリスト全員を代表してそう言ったのは、リンゴだった。
「なんで出て行くのよ?」
「今回の介入は、私にとってもぼすにとっても不本意なものだった」
「ま、不本意だろうが本意だろうが知らないけどさー」
リンゴらしく無関心を全身で表現。
しかしリンゴ自身は千島に近づいていってーー
「条件は、揃えなきゃね」
千島の隣にすとんと腰を下ろした。
もちろんそこは、フィールドの外。
コレ気に入ってたのになー、とリンゴは唇を尖らせてセグウェイを分解し始める。
「君は意地っ張りなのか?」
「そんなんじゃないわよ」
しばらく黙ってカチャカチャやっていたリンゴだったが、片付けが一段落したところでスパナでミーナを指して言った。
「あいつヘンなとこ頑固だから。ハンデ有りで勝っても素直に喜べないのよ」
フィールド外という安全地帯に出たリンゴは、ひらひらとミーナに手を振る。
「そーゆことで、じゃ、あとよろしくー」
「…………リンゴ」
「なによー?」
「ありがとう、なのだ」
「べっつにー。今度こそバイクのパーツ磨いちゃおー」
素直に感謝されたのが気持ち悪かったのか、リンゴはすぐ機械いじりに集中し始めた。
運営側の人間が辞退を表明した2人に近づき、その旨を正式に確認する。
こうして晴れて、二人は「ダブルスの片割れ」から「観客」に戻った。
フィールドに残された二人は身長差を確かめ合うようににらみ合っていたが。
「決着をつけるのだ、ヤオ」
「ふン、そのつもりだシィー」
お互い吐き捨てるように言葉を交わして、それぞれのスタートラインにセット。
司会が柔軟にことを進めていく。
『両支部ともに一名辞退ということで変則シングルスとなります。それでは運命の三本目、セット!』
明暗かかった、三本目。
ぱあんっ、とスタートの合図が響く。
瞬間、ミーナとヤオは宅配箱を目指して駆け出した。
しかし。
1本目、2本目では見られなかった、予想外のことが起きる。
「ヤオ、速っ!」
足の長さとその回転が噛み合い驚異のスピードで宅配箱に迫るヤオ。
千島からの喝が効いたのか、普段虚ろな目は何かの怯えるかのように鬼気迫るものがあった。
ただデカいだけが取り柄じゃないと全身でアピールしている。
しかしそれでもミーナの方が身体一つ分早く箱に到着。
先手はミーナだ、と思った瞬間。
「ハイ、ジャマアルゥー!」
ヤオが長い腕をムチのようにしならせ、ミーナの脇腹にヒットさせた。
箱に意識を向けていたミーナは突然の衝撃によろける。
その隙に宅配箱はヤオにさらわれてしまった。
変則シングルス。
さっきまでのパスや連携攻撃は使えない。
純然たる自力の勝負。
攻める方が、がぜん有利なのだ。
「行かせぬぞ、ヤオ!」
「どけって、言ってるアルゥー!」
筋肉と筋肉がぶつかり合う鈍い音。
やがて力は、弱い方向に動き出す。
セグウェイが刻んだのとはまた別の黒い筋が、フィールドに跡を残した。
ミーナが押されていた。
ミーナだって顔を真っ赤にして踏ん張っている。
でもヤオの圧倒的な体格と内蔵するパワーの前に、後退させられているのだ。
きっと、車と車が力比べをしたらこんな感じになるのだろう。
ものを言うのはエンジンではなく、質量。
その点を言えば、ミーナの方が圧倒的に不利だ。
「ぬ、ぐぐぐうっ!」
じりじりと、しかし確実に。
焦げ臭いにおいを会場に広げながら。
負けに、近づいている。
それだけじゃない。
「ホラホラ、さっさと諦めるアルゥー!」
「ぐっ、うぐうっ!」
組み合いながら、ヤオがミーナを攻撃する。
ヤオの足がミーナを蹴りつけ、頭でヘッドバッドをかます。
体格にもの言わせた一方的な攻め。
ミーナだけがダメージを蓄積させられていく。
このままでは、勝ち負け依然に。
ミーナが大怪我を負ってしまう。
さらに悪いことに、ここで一気に疲れが来たらしい。
踏み止まっていたミーナがずるずると押し込まれる。
残り10メートル、8メートル、5メートル。
そして一歩手前ーー。
「ふン、アレ?」
と。
強いブレーキをぐいっと踏み込まれたみたいに、ヤオの動きが止まった。
「…………ういちょん、腹を決めたのだ」
腹の底に響くような声でミーナから通信が入る。
その声色の背後にある獣の雰囲気に、思わず俺は息を呑んだ。
そして、ミーナの言葉は。
「プランBを受け入れる」
まったく、予想外のものだった。
さすがの卯衣も目を見開きながら聞き返す。
「いいんですかー?」
「構わぬ、と言っているのだ」
覚悟を決めた、決死の声に沈黙する俺たち。
「わかりました、じゃあ……」
卯衣がオフセットを頭から外した。
そのまま席から立ち上がって、直接ミーナに指示を出す。
「ヤオさんのこと、殺さない程度に本気出してくださいねー!?」
「保証、できぬっ!」
ずしん、と。
ミーナの足元にクレーターができた。
まるで、地面がミーナのパワーに耐えきれなくなったかのように陥没する。
その瞬間、ヤオが弾き飛ばされたみたいにミーナから離れた。
いや、本当に弾き飛ばされたのだ。
突然息を吹き返したミーナにヤオが目を白黒させる。
ミーナは険しい表情でゆっくりヤオに近づき、頭から帽子を取って投げ捨てた。
「邪魔なのだ」
ぱさり。
見慣れないミーナのロングヘアがこぼれる。
こんな感想は場違いかもしれないけれど、俺はミーナのことを美しいと思った。
はらりと風になびくミーナのロングヘア。
戦地に赴く戦乙女のような堂々たる姿。
何より、決死の覚悟を決めたその瞳。
ただキレイなのとは違う、芯の強さが伴った美しさ。
ああ、今。
ミーナは自分の底を見せようとしている。
自分自身知らなかった自分の限界と、向き合おうとしている。
だから、俺が今できることは。
その姿を最後まで見届けることなんじゃないか?
すっと立ち上がって、声の限りに叫ぶ。
「ミーナ、頑張れえええええっ!」
「その声、しかと受け取ったのだ!」
ぞくり、と。
味方の俺たちすら恐怖を覚えるほどの炎を目に宿して。
ミーナは力の化身になった。
ヤオとミーナが組み合った瞬間。
力のベクトルが真逆に動き出す。
ヤオが、苦しい表情で後退を始めた。
「ん、ぐうううッ! 押される、もンカァー!」
「押し込む? そんなことをする気はない」
優位置をとったミーナが、さらに深くヤオの懐に入ってーー
「もっと、ひどいことをするのだ」
瞬間。
会場の誰もが目を疑った。
観客も審判も司会も紅陽さんも卯衣も、俺も。
誰も想像できなかった光景。
ヤオの両足が、地面から浮いた。
「ふうんっ、ぬううううううううっ!」
身長145センチのミーナが、ヤオを持ち上げていた。
一体どこにそんな力を持っているのか不思議に思う。
物理法則を完全に無視した、正体不明のとんでもないパワー。
どこかの火山がこのパワーに呼応して噴火したと言われても、俺は信じる。
「離セ! 離すアルゥー!」
もちろんヤオも無抵抗ではない。持ち上げられながらもジタバタ暴れる。
しかしそんな抵抗も虚しく、その体はゆっくりミーナに持ち上げられていった。
米俵でも担ぐみたいにミーナはヤオを頭上でまで持ち上げ、真上でぴたっと止まる。
会場全体に見せつけるような静止。
瞬間、ミーナはふっと腕から力を抜いた。
それはヤオにとって良い知らせではない。
むしろ、逆。
公開処刑執行の第一段階。
ミーナの体がぐらりと足元から後ろによろけた。
当然、担がれたヤオもそれに従って後ろに傾く。
ガッチリと腕を固められた状態でなすすべなく。
硬い地面が、迫る。
「でっかい体で! 産まれたことを! 後悔するのだ!」
ミーナは一足先に背中から地面に倒れ込む。
遠心力と重力を味方につけて、最後の力を振り絞り。
ヤオを地面に叩きつけた!
「ぐはァッ!」
震度3くらいの地震が起きたかのような揺れ。
ヤオを中心にして、クレーターが出現した。
ヤオ本人の重さが衝撃に。
衝撃がヤオ本人へのダメージに。
人一倍大きな体を持つヤオに、この攻撃はこれ以上なく有効だった。
背中全体を地面に打ち付けられ、ヤオが白眼を剥く。
ピクリとも動かなくなった。
伸びたヤオの腕は、ギリギリでゴールラインを割っていない。
「ぐ、うう……しんどいのだぁ……」
ミーナは、かすれた声を出しながら体を起こした。
自分ごとヤオを叩きつけたのだ。ヤオほどではないがダメージもあるはず。
疲れと痛みで「立っているのがやっと」といった様子だ。
それでも、気絶したヤオの腕から宅配箱を奪い、一歩ずつゴールに向かう。
その間、会場が割れんばかりのトーキョーコールで満たされた。
歓声一つひとつに励まされるかのように、ミーナは小さな足を踏み出していく。
ゴールラインの手前で、苦虫を噛み潰したような表情の紅陽さんと目があったらしい。
ミーナは軽く紅陽さんに体を向ける。
「もう……我は、次のことを考えぬ……」
体力を使い果たしたような辛い表情に、ふっとこぼれる笑み。
「我はみんなと、今を、生きるのだ」
ことん。
ゴールラインの上で直立した宅配箱が、ミーナを祝福するみたいに音を立てる。
審判の赤い旗が文句なしに振り上げられた。
それが合図になったみたいに、ミーナは膝から崩れ落ちる。
「ミーナ、大丈夫か!?」
「無理し過ぎですー!」
歓喜の声が会場を埋め尽くす中、俺と卯衣は慌ててミーナに駆け寄る。
しかし。
俺たちよりずっと早く、その元に到着したのは。
「ーーホラ、立ちなさいよ」
「りん、ご……」
ぶっきらぼうに手を伸ばす、リンゴだった。
ミーナがその手を取る力もないことを見て取り、リンゴは自分からミーナの手を掴む。
「あー、もうボロボロじゃん。馬鹿力同士どんだけ力使い果たしてんのよ」
リンゴがミーナに肩を貸して立たせる。
ミーナも今はリンゴとケンカする余裕もないらしく、大人しくその身をリンゴに預けていた。
「すまぬ……」
「なに謝ってんのよ。泥臭くても勝ちは勝ちじゃん。お疲れ……ミーナ」
「今お主……。我をミーナ、と」
「今くらいは、尊敬してあげるわよ」
慌てて目を逸らすリンゴに、ミーナは居心地悪そうに「うむぅ」と唸った。
「だったら、普段から我にヘコヘコするのだ……」
「調子にのんな、バカミーナ」
頭を叩きながらの鋭いツッコミは、リンゴなりのハイタッチだったのかもしれない。




