第35話 デリバリーダンジョンブレイクで届ける1
ドナドナのされている真っ最中。
「ういちょん、やっぱり『ひゅーん」ではないかのう?」
「いえいえ、わたしは『ぴゅーん』だと思いますよー」
「意外と意見が分かれるのう」
「音声解析の結果は半濁音が付いている可能性が高いらしいですー」
「しかし流星であろう? 『ぴゅーん』はちと軽すぎないかの?」
「言われてみればー。実物の流星は『ひゅんっ』て感じですもんねー」
「もう一度音声解析をしてみるのだ」
「了解しましたー、カタカタ」
他のデリバリストたちはぐっすり眠っているであろう、この時間。
俺たちは暇を持て余していた。
そりゃそうだ。
主催側からすればクロロホルム攻撃を防いだ支部がいるなんて予想外だろう。
みんなが眠っている時に起きているのだから、暇なのは当然と言える。
というわけで、有効活用。
俺はベッドで横になりギリギリまで回復に努める予定。
ミーナと卯衣はタブレットを眺めながら何かを話し合っていた。
リンゴは黙って目を瞑っている。
なんとなくリンゴには話しかけ辛くて、俺は2人の会話に入った。
「…………なあ、何の得にもならないことは承知の上で聞くけど、なんの話?」
「R.Y.◯.S.E.Iに度々出てくる『ひゅーん』という音の正体を話し合っているのだ」
「ほんっとうに何の得にもならないことだな……」
ていうか、何で今それを話し合ってるんだよ。
ぴゅーんでも、ひゅーんでもどっちでもいいだろ。
「まあ確かに人によって聞こえ方は色々だけどさ」
「下敷きを曲げる音も意見がわかれますよねー」
「我は『もわんもわん』だと思うのだ」
「えっ、俺は『わうんわうん』だと思ってたけど」
「素材の問題でしょうかー?」
「ああ、それはあるかも」
「納得なのだ」
「素材や定義のこともですけれど、文化背景によって聴覚は異なりますからねー」
「でも外国の動物の鳴き声でって変だよな?」
「そうかの? 我も『ばうわう』くらいなら知っておるが……」
「ブタなんて『おいんおいん』らしいぜ」
「うーむ、わかるようなわからないようなラインなのだ」
「ニワトリの鳴き声で『コッカードゥードゥルドゥ』はありえないですよねー」
「ああ、わかるわかる! 絶対に聞こえないって!」
「我なんてこの前配送に行った家でニワトリに会った時はーー」
「何の話で盛り上がってるのよおおおおおおおおおおおおおっ!」
リンゴがキレた。
近年稀に見る鋭いツッコミキレ芸。
面白くなりそうなので、俺たちはイジるためにリンゴの方を向いた、
しかし、魂のこもったツッコミをした後とは思えぬほど落ち着いた様子でリンゴは目をつぶり、小声でブツブツと何かをつぶやいていた。
他の誰にもマネできない絶叫なので、空耳ということはないだろうが……。
言うだけ言って、すぐ自分の世界に入ったらしい。
俺とミーナと卯衣は、瞬時に目配せ。
『ここで退くわけにはいかない。粘るぞ』
「ランニングマンでもしてみましょうよー」
「えー、俺できる気しないんだけど」
「ういちょん、なんとかチューブに解説の動画がないか探してみるのだ」
「あれだけ有名ならあると思いますよー。わー、いっぱいありますー」
「腕はウサイ◯・ボルトのポーズのままで、足が複雑だな……」
「足を下ろすと同時に地面の付いている方の足を後ろに軽く引くらしいですー」
「こうかの? たんたんたんたんたん」
「ミーナうまいな、いきなりできてるし」
「カケルさんもチャレンジしましょうよー」
「え、えーと……こうか?」
「「……………………ぷっ」」
「笑うなよ! ダンス苦手だって知っててやらせたんだろ!」
「これ動画にして投稿したら、再生数すごく稼げそうですねー」
「なんとかチューバーになれるのだ」
「絶対するなよ! 弟たちが学校でいじめられたらどうしてくれる!」
「ところで、そのなんとかチューバーとやらはどうしたらなれるのだ?」
「動画を投稿してアフィリエイト契約すれば誰でもできますよー」
「あひるえいと?」
「アヒル8匹じゃないよ。ていうか久しぶりに出てきたな、ミーナのネットに疎い設定」
「そういうカケルも児童養護施設にいることは忘れられていると思うがの」
「きっと、わたしがえっちな女の子だっていうのも忘れられていますよねー」
「「いや、それはお前のアイデンティティだから」」
「それもそうですよねー、あはははははははっ」
「あはははははははーっ!」
「ペチャクチャ言ってないで黙りなさいよおおおおおおおおおおおっ!」
キレた! リンゴがキレた!
狙ってたけど!
待ってました! と俺たちが一斉にリンゴの方を振り向く。
しかし、すぐ真顔に戻って精神統一を始めるリンゴ。
……面白くない。
いつもと違う反応に戸惑って、三人して顔を見合わせる。
(からかい甲斐がなくてつまんないのぅ)
(座禅の習慣はなかったはずだけどな)
(賢者タイムですかねー?)
好き勝手言いながらも、俺たちは放置することに決めた。
これ以上突っかかっていっても面白くなりそうにないと判断したのが一番の要因だが。
しばらく叱られた後の気まずい雰囲気に耐えていると、部屋の揺れがピタッと止まったのを感じた。
「止まった、かの?」
「エンジン切れたっぽいわね」
間髪入れず、リンゴが目を開いた。
それと全く同じタイミングで、部屋のスピーカーから聞きなれた声が聞こえてきた。
『おまたせしました、みなさんご起床ください! デリバリスト競技会本戦最終種目、「デリバリーダンジョンブレイク」のお時間です!』
目覚まし代わりなのか、司会者は声を一層張り上げて種目名を発表した。
親切なことだと思ったが、起きなければあとは知りません、という警告にも取れる。
デリバリーダンジョンブレイク。
名前からして物騒な雰囲気だ。
「始まったのだ、ういちょん」
「もちろん準備おっけーですよー」
くいっとメガネを上げて放送を録音し始める卯衣。
「カケルもリンゴも、よく聞いておくのだ」
「了解」
「らじゃ」
俺たちも真剣モードにギアチェンジして、全体放送に耳を傾けた。
『ルールは簡単です。眠ってもらっている間に、みなさんを「ある場所」に運んでおきました。五分後に部屋の扉を一斉に開けますので、競技会会場まで日没までに帰ってきてください。時間内に一人帰還ごとに5ポイント差し上げます。そして、全員時間内に帰還できた場合は、ボーナスポイントとしてさらに10ポイント上乗せいたします。大まかなルールは以上です』
ざっくりした事務的説明だ。
帰ってこれればポイント。
それで説明は十分と言えるくらい、シンプルなルールでもある。
少し拍子抜けしてしまった。
しかし、聞き逃せない点もある。
各支部が手に入れられるポイントは、ボーナス含めて最大30ポイント。
最終種目にふさわしく、どの競技よりも獲得ポイントは高い。
それでもオーサカエリア支部の順位に届く支部はいないので、結局は2位争いに加われる支部が多くなっただけだ。現在3位の俺たちからすれば、失うリスクが上がっただけである。
司会者の補足的な説明はまだ続く。
『なお、みなさんがいらっしゃるのは大変危険な場所ですので、クリアできないと思いましたらリタイアボタンを押してください。以後、リタイヤされた競技者は競技に一切参加できません。不注意による誤操作、学校の非常ベルを鳴らす感覚の度胸試し、仲間割れによる争いなど、どんな要因が絡もうともリタイアを取り消すことはできませんので、取り扱いにはご注意を。リタイアボタンは各部屋の床下収納に人数分用意されています。必ず右胸に装着してください』
卯衣がすぐさま床下収納を開ける。
クロロホルム注入前に気になって確認した時には開かなかったが、電子ロックでもされていたのだろう。非力な卯衣でもすぐにパカッと開けられた。
防犯ブザー台の大きさの機械が4つ。
胸に装着できるよう丈夫そうなピンがついていて、中心に大きなボタンがある。
これを押せばリタイアということになるのだろう。
『なお、競技スタート後どのような形でリタイヤボタンを胸から離れましても、ボタンが押されたものとみなしてリタイヤとなります。もちろんこちらのリタイヤも取り消しはできません』
それ聞き、俺たちは慌てて各自の右胸にボタンをつけた。
まだ競技前なので失格になることはないが、気持ち的な問題だ。
『ルール説明は以上です。開始まで残り3分となりました。この時間はまだ起きていない仲間を起こすもよし、作戦タイムにするもよし、だらだら過ごすもよし、フリータイムです。みなさんの無事を心から祈っております。では』
あんまり気持ちの入ってない祈りを最後に、放送は途切れた。
途端、俺たちの間に沈黙が降りる。
卯衣は深く考え込むようにしてうつむき、ミーナは無言で準備運動を始めた。
それぞれ考えるところがあっての沈黙だが、空気が重い。
こういう雰囲気は概して打開しづらいものだ。
俺が何か気の利いたことを言えればいいのだが、と悩んでいると。
「2458回転」
「ふむ?」「うん?」「はいー?」
最初に口を開いたのは、意外にもリンゴだった。
つまらないとdisられていたリンゴ、久しぶりの発言。
ハブられていたのが今更気に障ったのか、不機嫌そうに繰り返す。
「だから2458回転よ。この部屋を乗せたトラックーーエンジン音からして中型トラックだけど、そのタイヤが動き出してからここで止まるまでにそれだけ回ったの」
突然の情報に驚く俺たち。
リンゴの不思議な瞑想に納得がいく。
「リンゴさん、目をつぶっている間にタイヤの回転を数えていたんですねー」
「居眠りでもしてたと思ってたワケ?」
「説明くらいしてくれてもいいじゃないですかー」
「そんな余裕なかったわよ」
「まあまあ。せっかくの手柄なんだからケンカ腰やめろって」
雰囲気が悪くなりそうだったので、慌てて仲裁に入る。
しかし……さすがはリンゴ。
乗り物のことになればミーナ以上の機動力と卯衣以上の知識を兼ね備えている。
つまらないと言ったことは後で謝ろうと思った。
和らいだ空気感を締めるように、ミーナが立ち上がって指示を出す。
「ういちょん、距離の概算を出すのだ」
「はいー、カタカタカタカタ。だいたい5km超ですねー」
5km、案外短かったな。
一時間くらい揺られていたから、もうちょっとあると思っていた。
何にせよ、始まる前から正確な情報アドバンテージを得られるのは大きい。
リンゴと目が合うと、ふふんとドヤ顔された。
まあ、今回は素直に感謝である。
時計を見ると、ドア解放まで残り2分。
話を競技内容のことに移す。
「要するにこの競技は、時間との勝負ってことになるわけか」
「他の支部も同じ説明を受けているのかのう」
「何にせよ楽勝っぽいじゃん。林間学校のレクリエーションみたいな感じ?」
各々が意見を出し合う。
しかし、ただ一人卯衣だけは。
「このボタン、なんで胸につけるように指示されたんでしょうねー?」
手にしたリタイヤボタンをじっと見つめていた。
常人とは観点が違う。
「そりゃ、危ない時にすぐ押せるようにだろ?」
リタイヤせざるを得ない状況といえば、切羽詰まったイメージだ。
例えば、崖から落ちそうになって片手で体重を支えているとする。
ポケットの中にボタンを入れていればすぐに取り出せない。
むしろ、取り出そうとゴソゴソしている間に落下する可能性もある。
だからすぐに押せる場所に指定されているんじゃないか?
その理論で卯衣に説明すると、やはり卯衣は納得いかない表情で頭を振った。
そのまま卯衣は、自分のボタンを取って俺の腰に当てる。
「だったら胸よりも腰元の方が押しやすいと思うんですよー」
「…………確かに」
実際に比べてみるとよくわかる。
肘を曲げないと届かない胸と違って、腰元なら自然体でもポンと押せる。
切羽詰まった状況で押すなら、断然腰だ。
わざわざ胸を指定する理由が見当たらない。
「それに、司会者の言葉も気になりますー。リタイヤを取り消せないって、しつこいくらい強調していた気がするんですけれどー」
「念押しにも程があったよな」
ポイントの説明よりも、リタイヤに関する説明の方が長かった気がする。
「特に、仲間割れが理由で押すことなんてあると思いますー?」
「…………ないな」
色んなパターンの仲間割れを想定して、俺はそう結論した。
同じ支部の仲間をリタイヤさせるなんて、少なくとも俺はしない。
卯衣が本気でセクハラしてくれば考えるかもしれないが……。
支部のためを思えばさすがに思いとどまるだろう。
じゃあなぜ、司会者は必要性の薄い説明を加えた?
卯衣は俺の考えを見通したかのように、ボタンを照明に透かしながら口を開く。
「つまり、この説明は『虚』であって、虚がある裏には『真』があるってことですー」
珍しくブレインらしいことを言いながら、卯衣は俺たちは一人ひとりの顔を正面から見た。
「要は『リタイヤボタンは本人以外が押しても有効』という真」
瞬間、卯衣の洞察の深さに背筋が立った。
「読めてきたのだ。支部間での奪い合うことを認めているわけだの」
「……なるほど」
仲間が押しても有効なら、敵が奪って押しても有効なはず。
つまり、この競技の内容はただゴールを目指すことではなく。
リタイヤボタンをめぐる、支部同士の団体バトル。
胸につけるよう指示されたのも納得がいく。
各々好きなところに隠し持たれたら奪い合いが成り立たない。
だから、全員が同じ位置につけることを強いているのだ。
主催側のこの意図に気付けるかどうかが第一の関門。
卯衣はしっかりと見抜いてくれた。
「じゃあ具体的な作戦ですー。ミーナはカケルさんと、リンゴさんはわたしとペアを組みましょうねー。幸い今のリンゴさんにはバイクがありますし、それで一直線にゴール目指しちゃいましょー」
デリバリーアームレスリングの時に、リンゴは整備のためバイクを取りに行っていた。控え室に入る時に外に置いておこうとしたらしいが、運営係に「私物は中に入れてくれ」と言われたそうだ。
思えばそれも、競技のために場所を移すフラグだったのかもしれないが……。
「こんなに嬉しい誤算はないな」
「そーね。ストレス解消できるわー」
バイクに乗った卯衣は、誰にも止められない。
入り口で早くもエンジンを蒸して準備万端といった感じだ。
しかし卯衣は、やる気満々のリンゴを制して自分の近くに寄るよう俺たちに言った。
対面でおしくらまんじゅうをするかのようにピッタリ密着する。
すると卯衣は周囲を警戒しながら、ひそひそ話を始めた。
「……合言葉を決めようと思いますー」
「そこまでする必要あるワケ?」
「用心には用心を重ねた方がいいと思いますよー」
「ういちょんの言う通りなのだ。何が起きるかわからぬ」
「俺も賛成。できることは全部やっておくべきだ」
リンゴも渋々頷き、卯衣の合言葉決定を待つ。
部屋に備え付けられたメモパッドに筆を走らせ、卯衣はそれを発表した。
「合言葉は……コレです」
メモ帳に書かれた「合言葉」。
一度離れたり、姿が見えない状態で相互確認をする時に使うカギ。
それが目に入って卯衣以外の全員は「それでいいの?」と思ったが。
「ういちょんらしいの」
ミーナの一言で、その「合言葉」に決まった。
それから大まかな作戦と方針を駆け足で確認し合うと、スタートまで残り30秒。
俺たちは玄関に張り付いて、開始の合図を待つ。
先行するのはもちろん、卯衣・リンゴ組。
卯衣がリンゴのバイクに乗るという、珍しい構図だ。
「開いたと同時にスタートダッシュですからねー。道はわかりますかー?」
「わかってもわからなくてもナビゲートするのがあんたの仕事でしょ?」
「図星ですー」
苦笑しながら、卯衣は「残り10秒」とリンゴに耳打ちした。
「ぱんぱかぱーん、ぱんぱんぱんぱんかぱぱーん♪」
「それ競馬だし!」
ゼロ。
瞬間、ドアが勢いよく開け放たれて、目の前が開けた。
「行くわよっ!」
「ごー♪」
神風のごとく、二人は飛び出していった。
あっという間にその背中は見えなくなり、ぽつんと二人だけが取り残される。
深呼吸をしながらゆっくりと状況を咀嚼。
なんのためらいもなく外に飛び出した二人だが、きっと驚きながら出て行ったのだろう。
後に残された俺たちの目の前に広がっているのは……
「ふむ、いわゆるAmaz◯nというやつだのう」
「この場合はカタカナでいいんだよ……」
見渡す限り緑色の、ジャングルそのものだった。
★★★★★★★★★★
デリバリスト競技会、参加支部の宿舎。
本来であれば競技途中は使われることのない部屋が、今回に限って使用されていた。
部屋の入り口には「オーサカエリア支部様」と書かれたプレートがある。
月島紅陽はゆったり椅子に座りながら、テレビを眺めていた。
横でお茶を淹れている千鳥が紅陽に声をかける。
「始まりました、ぼす」
「知っているわ。さして興味はないけれど」
興味はなくても気にはなるようで、紅陽は茶葉の開き具合を確認しながら時折テレビに目を移していた。
紅陽が見ているのは、夕方のニュース。……ではない。
デリバリスト競技会本線最終競技のライブ映像。
山を攻略するため四苦八苦するデリバリストの姿を映している。
「ぼすは、どちらの支部が勝ち上がってくるとお思いですか?」
「どこでもいいわ。どこが来ても、勝つのはわたしたちだもの」
強気の発言に、さすがの千鳥も閉口する。
しかしその発言は決して強がりではない、と千鳥は思う。
本当にどこが勝ち上がってきてもいいのだ。
ーーわたしたちは、格が違うんだから。
そうした自信の、適切な現れだった。
「では、とーきょえりあはどうでしょう?」
「それは大いに望むことではあるけれど」
千鳥の入れ込んだように聞こえる声にも気分を害さず、紅陽は穏やかに答える。
映像の端を、ぶっちぎりでトップを独走する一台のバイクが通っていった。
あのバイクにも煮湯を飲まされたのを思い出す。
忘れることもない、トーキョーエリアの人間だ。
四人の力が噛み合えば決勝に勝ち上がってくる実力派十分あると思う。
しかし。
紅陽は画面の中央に映る別のデリバリストを眺めて、思い直した。
「無理でしょうね。なにせ厄介なデリバリストが2人参加しているわ」
「ぼすが一目置くとは相当な人物だと思いますが」
「カゴシマエリア支部から年度内に引き抜きしようと思っていたデリバリストよ」
「初耳です」
「頓挫したのよ。ヤオ一人に契約金たんまり払ったから」
ヤオの横柄さは紅陽の前でも止まることを知らなかった。
初対面でいきなり通常の3倍の給料を要求してきたのが、そのいい例だろう。
仕事の腕は認めるが、金食い虫であることは誰も否定できない。
それでもヤオがオーサカエリア支部にいられるのは、一重に「三人分の金で繋ぎ止められるなら安いもの」と考える紅陽の後ろ盾があるからだ。
「野生漢と芸術鬼。そんな二つ名のついたデリバリストよ」
しかし、カゴシマエリア支部。
千鳥は頭の中に順位表を浮かべた。
現在の順位は、2位カゴシマエリア。
1点差を追いかける形でトーキョーエリアは3位。
もちろん、トーキョーエリア支部は勝つため積極的に戦いに行く。
そしてカゴシマエリア支部も、ここで逃げに回ることはないだろう。
逃げグセのついた人間が勝てる舞台ではないのだ。
ゆえに。
「ぼす、とーきょーえりあ支部とかごしまえりあ支部は直接対決するでしょう」
「わかっているわ。ミーナがどうやってあの二人を倒すのか、見ものね」
面白いショーでも楽しんでいるかのように、紅陽は紅茶をゆっくり飲み干すのであった。
「ところで千鳥。あなたさっきから何を飲んでいるの?」
「干し椎茸の戻し汁です」
「昆布茶でも飲んでいるのかと予想したわたしがバカだったわ……」




