プロローグ2 予選会場まで届ける
冬の風を切って進む、一隻の船。
豪華客船と言って差し支えないような船に、俺たちは乗っていた。
「カケル! 風が気持ちいいのだー!」
俺はミーナと甲板の上で、カモメにかっぱ◯びせんをやっていた。
ミーナは甲板の先に立ち、船の進行方向から吹く風を全身で受けている。クセのないロングヘアをなびかせる姿は、冬のレジャーを楽しむお嬢様そのもの。
さすがに1月の海上ともなれば寒さが肌に突き刺さるが、初めての経験にワクワクが止まらないといった様子ではしゃいでいる。
元気なのはいいことだが、俺は先々のことを考えてミーナを船の中に戻した。
「むう、もうちょっとくらいよいではないか」
「風邪引いたら困るのは自分だぞ」
「むぅ……」
「余ったかっぱ◯びせん全部やるから」
「わーい、やめられない止まらないなのだー」
半ば力づくで体力温存に同意させて、俺はラウンジの卯衣に声をかけた。
「いよいよ、って感じだな」
「はいー。特訓の成果が出せるといいですねー」
「出すさ。優勝するってミーナと約束したし」
俺の強気発言に、タブレットをいじる手を止めて、卯衣はメガネを上げながらニヤリと笑った。普段はコンタクトなのだが、今回は「大事な時に落ちたら困るから」という理由で度のキツいメガネをしている。メガネ姿は初めて見るので違和感バリバリかと思いきや、結構似合っていた。むしろ卯衣の知性を強調する点では自然である。
「頼もしいですー。ピロートークで聞いてみたいセリフですねー」
下世話な性格はメガネだけでは変わらないようだ。
「サガですからー。……性って漢字で書くとえっちぃですねー」
「……………………」
こいつの心配はしなくていいだろう。
ミーナの見張りを卯衣に任せて、俺はラウンジを出て操舵室へ向かう。
普通なら関係者以外立ち入り禁止だが、俺は船長の関係者だ。
「お疲れ、リンゴ」
「別にそこまで疲れてないしー。あたしのこと舐めないでよね」
舵を右に左にくるくるしながら、リンゴは振り返った。いつものライダーススーツに船乗り帽という反応に困る格好。何でも大型船舶免許の取得がギリギリで今日に間に合ったらしい。
というわけで今日はリンゴ船長初めての航海である。
今朝から5時間かけて一人でこの船を操縦しているが、初めてとは思えないほどの快適な海の旅。疲れずに目的地に向かえるのは一重にリンゴにおかげなのだ。
「ちょっとー、観光気分なわけ? それじゃ困るんですけど」
「まあ戦いに行くわけだしな。これから気は引き締める」
「今からじゃおっそいわよ。だってホラ……もう会場見えてきたじゃん」
舵から片手を離して外の景色を指差すリンゴ。確かに人差し指の先に小さな島があった。
その外観を眺めていると、腹の奥がぐっと重くなるのを感じる。
リンゴは船内アナウンスでミーナと卯衣に呼びかけた。
『秋月美奈、深渡瀬卯衣。あと10分もしない内に着くわよ。準備しといて』
1分もしないうちに、二人は操舵室に乗り込んできた。
「ふむ、あれが蒼紅島かのう」
「敷地面積はトーキョードーム10個分らしいですよー」
全国デリバリスト競技会会場。
それこそが、元無人島で開催されるイベントの正体だ。
全国50を数える支部からの代表デリバリストたちを集め、どの支部が一番かを競わせる団体戦。おおっぴらに開催はされてこなかった競技会ではあるが、人目を避けてこれまで三回も開催されてきた実績がある。
そして今回、四回目。
俺たちトーキョーエリアの支部の出場は二年ぶり、二回目である。
「いよいよ、だな」
目標はもちろん、絶対王者オーサカエリア支部に勝って優勝すること。
この一ヶ月。俺たちは必死に自分の能力を高めてきた。
すべてはこの競技会で、結果を出すため。
ミーナの抱える3年ぶりの雪辱を晴らすため。
「ちょっとさ、意気込みでも叫んでみるか」
「あたしはいいけど?」
「久しぶりに大声出しちゃいましょうかねー」
「うむ、雑念を振り払うためにも叫んでみるのだ」
こういうプレッシャーに晒されると、無性に叫びたくなる。
トーキョーエリアのデリバリストたちはみな、そういう人間だ。
だから俺たちは大きく息を吸って。
蒼紅島にその声をぶつけた。
「セスナ乗りたいいいいいいいいいっ!」
「競技会関係ねええええええええええっ!」
「男尻祭りいいいいいいいいいーっ!」
「オーサカの人ごめんなさいいいいいいいいいっ!」
「ふゅうふぉふしゅふのだああああああああああっ!」
「かっぱ◯びせん飲み込んでから言ええええええええええっ!」
……ぜんっぜん、締まらねえわ。
デリバリスト 〜史上最強の宅配業者〜
最強デリバリスト決定戦編、スタート。




